第27話 アキ、ポンコツと化す
アレンが王宮に行ってから、五日が経とうとしていた。
騎士団では、噂の万能雑用係がポンコツに成り果てている事に皆がざわめいていた。
「うわ!誰だよ、こんな所にバケツ置いたやつ!」
「あ、私です」
慌ててモップの代わりにお玉を持って片付けようとするアキを見かけ、
「俺のお気に入りのシャツがマダラ模様になってる!アキさーん、助けて!」
「……あ、犯人は私です…ごめんなさい」
やっちまったと言う顔でヴォルトに謝るアキを洗濯場で見かけ、
そして、朝食では、
「……なんか……今日の肉味噌、味薄い……?」
「ーーーあ!味噌入れてない。やべ」
雑用係・アキは、明らかにポンコツと化していた。
どこか上の空の顔。手は動いているのに、心が伴っていない。
騎士団に来てから初めての絶不調に、逆に周囲の空気がそわそわしはじめていた。
「……ジュードさん〜最近のアキさん、どうしたんすかね…」
「どうしたもこうしたも、役立たずですね。全く……今は団長もいなくて忙しいってのに」
ジュードが答えながら、メガネを外して目頭を揉んだ。
「もしかして、“恋煩い”ってやつですかね?」
「それ以外ないでしょう。ヴォルトまで私を疲れさせないでくれません?」
そんな矢先のことだった。
「アキちゃーーん!」
騎士団の入り口から元気いっぱいの声が飛び込んできた。
ぱっと顔を上げると、ローブ姿のウィルが立っている。
「あ、殿下。こんにちは」
「うわぁ、びっくり。この姿の時は皆暗黙の了解で殿下って言わないんだけど」
「す、すみません」
慌ててぺこりと頭を下げるものの、すぐにまた、どこかぼんやりとした表情に戻ってしまうアキ。
それを見たウィルは、「ありゃー」と苦笑しながら、どこか心配そうにため息をついた。
「2人のためだと思ったのに、また責任感じるなぁ。……副団長、今日アキちゃん借りていい?」
「ポンコツなんで持ってって下さい」
「凄い言われよう。…ま、ちょうど良いから行こうか!見せたいものがあるんだ」
「え?」と戸惑うアキを他所に、ウィルは手を引いてそのまま外へ連れ出すのであった。
◇◇◇
街中を抜け、たどり着いたのは少し裏手にある静かな一角だった。
何故こんな場所に連れてこられたのかと首を傾げると。
「あれ?気付かない?街灯だよ!アキちゃんに言われてから設置したんだ」
「えっ……!」
見回してみると、確かに街灯が何本も立っている。
今は昼間だから気付かないが、夜になれば心強いだろう。
この人、とても仕事が早い。
「ここはヒプリ地区。もともと犯罪が多いエリアでね?でも、街灯を置いてから地域一帯の犯罪率が低くなったんだ」
「!本当ですか!」
「今日はアキちゃんにお礼を言いたくて来たんだよ。有益な話ありがとう」
「え、そんな…お役に立って嬉しいです」
思わず両手を振って否定しながらも、アキの頬はほんのりと赤くなっていた。
別に皇太子に感謝される程の事はしていない。でも、街に貢献できたようで素直に嬉しかった。
「そしてもう一つ、“お誘い”があって来たんだ」
「お誘い……?」
「数日、王宮で働いてみない?」
「……っ」
王宮。
それは、今まさにアレンとミアがいる場所。
……きっと、嫌でも2人が目に入る事だろう。
「遠慮します」
即答だった。
「凄いねアキちゃん。アレンだって断りはしないのに」
俺一応皇太子なんだけど。と笑いながら言うウィル。
いくら皇太子でも嫌なものは嫌だ。
……たった二日でも、もしあの2人と顔を合わせたら……もし、本当に良い雰囲気になってたら、と思うと怖いのだ。
「じゃ、こうしよう。たった二日間。そのかわり騎士団の給金の二倍出すよ。どう?」
「あ、分かりました」
今度は食い気味に即答する。
でも、それとこれとは別!身分がない自分は生活も大事だしね!
「ふふ、君の変わり身の早さ、嫌いじゃないよ」
ウィルが満足そうに笑う。
こうして、呆気なくアキの“王宮行き”が決まったのであった。
雑草魂アキ。恋よりもお給金に釣られる。




