第2話 推しのために働いてます。雑用だけどな!
アレンハルト率いる騎士団は、帝国一の軍警察と言われ、その仕事は城の防衛、街の治安、要人警護など幅広い。
そんな騎士団に救われたアキは、持ち前の行動力で何とか騎士団で働かせてくれるよう頼み込んでいた。
理由は言わずもがな、推しの近くに居たい下心のためである。
異世界転移者という事で、珍しい外見やこの世界に来たばかりなどの事情を考慮した結果「雑談なら可」とアレンは渋々OKを出した。
あの時の渋々感といったら、嬉しさ半分、悔しさ半分である。覚えてろよ。
騎士団へ連れて行かれた際も、アレンはアキに興味なさげにずっとそっぽを向いて移動していた。
これ程興味を持たれないと逆に清々する程だ。
……そもそも、実際会ったアレンは小説とは全然違う。
アキがアレンを好きな理由は、その紳士的な態度が大きな理由だった。
誰もが振り向く程の美貌を持ち、強く、その上帝国一の騎士団長。なのに全く鼻にかけずに紳士的な振る舞いをする彼が好きだった。
もちろん主人公「ミア」に対しても同じで、アキの好きなシーンである『転びそうなミアを抱き止めて、“しっかり。ちゃんと俺の手を握ってて下さい”』のセリフには思わず「きゃー!」と叫んでは読み返していたものだ。
だが、今のアレンはそんな片鱗一切ない。
◇◇
「そりゃ、団長のタイプは小動物系可愛い女子っすからねー」
「なんだそりゃ!!」
駐屯地での掃除の最中、思わず全力で突っ込んだアキが雑巾を投げ捨てる。
騎士団で雑用として働くうちに、仲良くなったヴォルトがそれを見てキョトンと首を傾げた。
ヴォルトも立派な騎士団員だが、いかんせん人員不足のために掃除洗濯、家事などは当番性だ。
騎士団の中でも下っ端である彼は、こうしてよく一緒に掃除をしていた。
「ちょっとアキさん。勝手に終わらないで下さいよ〜。まだ俺の部屋も残ってるのに」
「あ、大丈夫、まだ終わってな……違うわ!!」
再び疲れたように突っ込むアキに、同じように首を傾げるヴォルト。
彼の子犬のような人懐っこさは、ゴリゴリした騎士団の中で、アレンの次に目の保養だ。
彼の栗色の毛も、緑の瞳も、今では可愛い弟にしか見えない。同い年らしいけど。
「じゃなくて。何ですか?小動物系可愛い女子?」
「あっ、そうそう。いつも言ってますよー。女は守ってやりたくなる人が良いって」
ーーーもしかして、アレンの紳士的な態度は、「可愛い子限定」なのだろうか?
そしたら納得がいく。いや、悲しいけど。
「なるほど?それで、私には目もくれなかった訳ですね!」
「あはは、確かにアキさん、初手で男って言われてましたもんね〜。俺も勘違いしてたし」
どいつもこいつも!そんなに貧乳がダメなのか!
可愛げのあるヴォルトだって今の発言は許さない。
アレンに限っては、アキが必死で働こうがコケようが、一ミリだって目線を寄越さない。こっちは推しのために貢いで生きてきたってのに!
「とにかく、団長が帰ってくるまでに、ロビーだけでも終わらせますからね!」
「え〜。こんな広いのにぃ?俺の部屋、どうすりゃ良いんですか」
知るか!!
アキは大きなため息を吐くと、とりあえずクビにならないように、必死で雑用業務をこなすのであった。