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第19話 ドレス?生活のために渋々着ます


「はぁぁ〜」

「アキさーん。そんなため息ばかり吐いたら、幸せ逃げますよ?」

「……分かってますよ、ヴォルトさん」



そう言いながらまたため息を吐いたアキは、目の前で下ろしたての“正装”を見に纏ったヴォルトを眺めた。



「どうっすか?似合ってます?」

「とっても似合ってますよー」

「もー、魂抜けてますよ!いつも以上にぼんやりした顔になってますから」

「誰がボケ顔だ」



仮にも女子に向かって失礼な。

そう思ったが、アキはそれ以上突っ込む元気は無かった。


(ああ……今日で騎士団ともお別れか…)


一介の雑用係が皇太子(の命を受けた騎士団長)から逃げれる訳もなく、遂に舞踏会イベントの日になってしまった。

こうなれば、男物の服を着たところで意味はない。ミアと出会ったら最後、私はアレンに追い出されるはずだから。

いや、この前の採寸逃亡劇だって、騎士団に帰ってから怒られるどころか「好きにすると良い」と言われて終わりだった。

遂に無関心の領域に入ったらしい。必中必殺の前にHPはもう0だ。いや、マイナスかも知れない。


ーーーアレンの独占欲と執着心は強めだ。そして、それはあくまで“ミア”にだけ向く。

どうでもいい雑用係なんて、そばに置く理由すらないのだから。


(推しの心理、分かりたくなかった…)


本当に、自分の人生ってこんなのばっかり。

施設育ちでそんじょそこらの女子よりは雑草魂や前向きさはあるつもりだ。

でも、これから貧民街暮らしになると分かってるのに元気な振りができる程、図太くはない。


(よりによって推しに追い出されるし……)


もう、アレンを好きにならなきゃ良かった。

……好きにならなければ、こんなに惨めにならなかったのに。

そう思った時だった。


ふと、背後から飄々とした声が聞こえた。



「ーーーあ、やっぱりここだ。もう、早く準備しないと遅れるよ!」



咄嗟に振り向くアキ。そして、その姿を見た瞬間心臓が握り潰されるかと思った。



「せっかく俺が仕立てた“ドレス”着ないなんて、そんな事しないよね?」



いつものように柔和に笑うウィル。

ーーーしかし、今日はローブを被っていなかった。


ふわりと揺れるプラチナブロンド、そして透き通った紫色の瞳。

そして、見つめられれば全ての人を虜にするであろう美貌ー……。


(………あ、思い出した)


ウィルフレッド・アディトラル・フェンス。

この国の、皇太子が目の前にいた。

呆然と立ち尽くすアキの横に、タイミング悪くアレンがやってくる。



「おい、そろそろ用意をー……殿下?」

「アレン。アキちゃん借りるよ」

「何言ってー……っどこへ!?」



焦ったように呼び止めるアレン。



「大丈夫。入場までには帰すから。じゃ、行こうか?」



有無を言わさぬその所作に、アキは完全にフリーズしたまま、ウィルに引かれていくのだった。


ーーー後に残されたアレンとヴォルト。

つい、ヴォルトがアレンをチラリと見てー……そして、見なかった事にした。

その冷えた美貌に、微かな青筋が立っていたからだ。


(……アキさん…ご愁傷様っす)


八つ当たりされては敵わんと、そっとこの場を離れるヴォルト。

この日ほど彼は「アキじゃなくて良かった」と思うのであった。



◇◇◇



がたごとと揺れる馬車の中。


アキは不自然に窓の外を眺めながら、目の前でニコニコ笑うウィルから必死で目を逸らしていた。


(終わった……)


皇太子に向かって好き放題やってきた事が走馬灯のように駆け巡り、アキは絶望していた。


(推しの前に皇太子に処刑(物理)されるじゃん…)


そんな様子のアキにウィルはクスクスと面白そうに笑っている。



「そんなに緊張しないで。今日はね、お仕事の話で来たんだ」

「…へ?」

「スカウトだよ。…君、王宮で働く事に興味ない?」



その瞬間、アキはカッと目を見開いて「あります!」と即答した。

まさか!?処刑宣告ではなくスカウトとは!?



「良かったー。アキちゃん優秀そうだし、何より人と違った目線で考えられるのは貴重だから」

「…あ、私が異世界から来たからですか?」

「それもそうだけど。でも、それだけじゃないよ」



ふふ、そう言って柔和に笑った。

その美貌はアレンとは違った妖艶さがあり、ついアキは顔を赤らめる。



「もし、本当に騎士団からクビにされたら“私”のところにおいで。今日はそれを伝えに来たんだ」

「っありがとうございます!とても嬉し……」

「ーーーただし、条件があるよ」



ふふ、と柔和に笑うウィルに嫌な予感しかしない。



「俺が仕立てた“ドレス”を着て舞踏会に出る。これが条件だから」

「え、えぇー…?」



思わず嫌そうな声が出た。

しかし、断ればこのビックチャンスを逃すことになる。

……そして、“推し”から決定的に、嫌われる事にも。


アキは考えた。少しだけ。


(推しに嫌われても…死んだら意味ないしね)



「分かりました!」



持ち前の前向きさで答えた。



「良いね、交渉成立」



満足そうに笑うウィル。

アキは目の前の眩しさに目をやられたように、大人しく顔を伏せ、手を合わせた。


そして、連れて行かれた先。異様にテンションの上がったマダム・マムによってアキは徹底的に磨かれるのであった。




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