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第8話 広がっていく声

昼休み、教室内はいつもの雑然とした雰囲気に包まれていた。

 僕――**一ノいちのせ 陽斗はると**は、机に広げた弁当をつつきながら、周囲の会話に耳を傾けていた。


「なあ、この動画見たことあるか?」


 隣のグループから、スマホを覗き込む数人の声が聞こえてくる。

 興味本位で耳を傾けると、そこには見覚えのある映像が映し出されていた。


「これ、最近ちょっと話題になってるんだよ。顔は映ってないけど、歌とかダンスがすごいんだよな」


 画面には、先日僕が撮影した**結城ゆうき 美玲みれい**の動画が流れていた。

 彼女が自分のチャンネルにアップしたものだ。


「なんかさ、この子、うちの学校の制服に似てない?」


「え、マジで? どれどれ……あ、本当だ。でも、顔映ってないしなあ」


 心臓が一瞬、強く跳ねた。

 まさか、こんなにも早く噂が広がるとは思っていなかった。


(まずいな……このままだと、美玲が特定されるのも時間の問題かもしれない)


 僕は弁当を食べる手を止め、ちらりと美玲の方を見る。

 彼女はいつも通り静かに席に座り、読書をしているようだった。

 周囲のざわめきには気づいていないのか、それとも気づかないふりをしているのか。


(どうすればいい……彼女の夢を応援したい。でも、このままじゃ彼女が晒される危険もある)


 僕の中で、ファンとしての応援と、クラスメイトとしての心配が交錯する。


     ***


 放課後、僕は意を決して美玲に声をかけた。


「結城さん、ちょっといいかな?」


 彼女は驚いたように顔を上げ、こくりと頷く。


「この前の動画、すごく再生数伸びてるね。コメントも増えてるし」


 僕がそう言うと、美玲は少し照れたように微笑んだ。


「うん、びっくりしてる。こんなに見てもらえるなんて思ってなかったから」


 彼女の表情は嬉しそうだったが、その奥に不安の色も見え隠れしていた。


「でも……学校で、ちょっと噂になってるみたいだよ。『この子、うちの学校の制服じゃないか』って」


 僕の言葉に、美玲の表情が曇る。


「……そうなんだ」


 彼女は視線を落とし、しばらく沈黙が続いた。


「結城さんは、どうしたい?」


 僕は静かに問いかける。

 彼女はしばらく考えた後、小さな声で答えた。


「……少し怖い。でも、もっと多くの人に私の歌を聴いてほしいって気持ちもあるの」


 その言葉に、彼女の覚悟を感じた。


「そっか。だったら、俺も応援するよ。何かあったら、いつでも言って」


 僕の言葉に、美玲は驚いたように顔を上げ、そして少しだけ笑った。


「ありがとう、一ノ瀬くん」


     ***


 その夜、美玲は自室でスマホを手に取り、動画のコメントを眺めていた。


「すごく心に響きました」「もっと他の曲も聴きたいです」


 そんな言葉が並んでいる。


(私、今までずっと“ひとりで戦ってる”って思ってた)


 でも、今は違う。

 隣で支えてくれる人がいる。

 そして、私の歌を待ってくれている人たちがいる。


(もっと、頑張らなきゃ)


 美玲はそう心に誓い、新たな動画の構想を練り始めた。



―――第8話・完―――


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