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第70話「届ける準備、そして忍び寄る影」

水曜日。朝の教室は、少しずつ日常を取り戻しつつあった。


 目をそらされることはあっても、露骨なひそひそ話は減っていた。

 投稿された動画のコメントが、確かな空気の変化を引き寄せている。


「結城さん、昨日の動画、めっちゃよかったよ」


 小さな声だったが、前の席の女子がそう言ってくれた。


 美玲は驚いたように目を見開き、それからゆっくりと頭を下げた。


「ありがとう。……がんばるね」


 その表情には、昨日までとは違う、ほんの少しの余裕があった。


***


 放課後。機材室と視聴覚室を何往復もしながら、僕たちは準備を進めていた。


「マイク、バッテリー、ポータブルアンプ。あと三脚と広角レンズも持っていこう」


「陽斗くん、すごい手際いい……私、何を持てばいい?」


「じゃあ、このコードだけ頼む。あと、リハ用のモニタースピーカーも出しておくから」


 まるで文化祭の準備みたいだと、美玲が笑う。


「でも、こうやって二人で何か準備するの、けっこう好きかも」


「それ、録音しておきたいな。プロモーションに使えるかも」


「だ、だめっ!」


 顔を赤くして言い返すその姿に、僕もつい笑ってしまう。


***


 夕方。ロケハンのために駅近くの広場を訪れた。


 夕焼け空の下、学生や買い物帰りの親子、サラリーマンたちが思い思いに行き交っていた。


「……ここなら、またきっと届くと思う」


 そう呟いた美玲の目には、不安と期待が同時に浮かんでいた。


「次のテーマ、覚えてる?」


「“わたしの想い、今度こそちゃんと届けたい”」


 自分で決めた言葉なのに、美玲は少し照れたように微笑んだ。


「本番は、今週末。天気予報も晴れ。スケジュールも、機材も問題なし」


「陽斗くん……ありがとう。ほんとに、全部」


「全部じゃないよ。君が立つから、意味があるんだ」


***


 同じ頃、星咲 ほのかの事務所では、密やかな作戦会議が行われていた。


「次の撮影予定、入手しました。駅前広場で週末にライブ撮影だそうです」


「ふぅん……そう」


 星咲は髪を指に巻きつけながら、タブレットの画面を覗き込む。


「見せ場をつぶすのは、簡単。でも……それだけじゃ、面白くないわね」


 その笑みは、氷のように冷たく美しかった。


―――第70話・完


今回も、最後まで読んでくれてありがとう。


やっと、少しずつ日常が戻ってきて……ちゃんと「前に進んでる」って感じられるようになった。

陽斗くんと準備してると、すごく安心する。

私、こういう時間が好きなんだなって思った。


でも――どこかで、誰かが何かを仕掛けてる予感もしてて。

きっと、まだ“試されてる”んだと思う。


それでも、私は歌う。

想いを届けるって、簡単じゃないけど、それでもやりたいから。


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