第67話「囁かれる影、揺れる日常」
「……一ノ瀬くんってさ、美玲ちゃんと仲良いよね」
その言葉を聞いたのは、昼休みの教室。
クラスメイトの何気ない一言に、僕――一ノ瀬 陽斗は、反応できなかった。
「最近よく一緒にいるし、駅前で見かけたって人もいたよ」
言葉は柔らかかったが、その裏にある“視線”は明らかだった。
噂が――始まりかけている。
(……やっぱり来たか)
フェス出場が決まり、氷室さんとの対面を果たした。
注目度が上がれば、当然“余計なもの”まで集まってくる。
***
放課後。部室代わりの視聴覚室。
「……陽斗くん、なんか、教室の空気が変わってきたかも」
美玲は言葉を選びながらも、不安を隠せない様子だった。
「私のせいで……陽斗くんまで、巻き込んじゃってない?」
「違うよ。むしろ、俺が勝手に踏み込んだんだ。自分の意思で」
そう言いながらも、僕の胸にも小さなざらつきがあった。
何もしていない――はずなのに、視線だけがじわじわと距離を取ってくるような感覚。
でも、美玲の不安を強めるわけにはいかない。
「俺は、気にしないから」
その言葉に、美玲はかすかに微笑んだ。
***
同じ頃、都内の小さな編集プロダクション。
「この写真、……本当に彼ら?」
一枚の写真。制服姿のふたりが並んで歩く姿が、ぼんやりと映っていた。
「確証はまだですが、“交際してる”というタレコミが入っています」
「高校生の恋愛スクープ……ねぇ。アイドル活動中っていうのが、ちょっと面白いかも」
記者は、興味深そうにその写真を手にした。
「裏を取ってから動く。焦る必要はないけど、慎重に。……ほのかさんの希望通りにね」
***
「今日さ、撮影……もう少し外に出てみない?」
下校後、駅近くの広場で。美玲がそう提案した。
「いつも屋上とか、限られた場所ばかりだったし。ちょっと冒険してみたい」
「うん、いいかも。今の空気、けっこうきれいだし」
即席でスマホ用の三脚をセットし、人通りの少ないスペースを選ぶ。
それでも、通りすがりの人がチラチラとこちらを見るのが分かった。
「……やっぱり、目立つかな?」
「ちょっとは。でも、それだけ見てもらえるってことだよ」
「うん。なんか、今なら大丈夫って思える」
光の中で笑う彼女は、いつもよりずっと大人びて見えた。
***
撮影を終えた帰り道。スマホに通知が来る。
《匿名:この二人、付き合ってるって噂……本当?》
そのスクリーンショットに添えられていたのは、昼に見たのと同じ構図の写真。
(……やっぱり、動き始めたな)
そう思った瞬間、僕の中で何かが固まった。
守らなきゃいけない。
彼女が“伝えよう”とした想いが、濁される前に。
―――第67話・完
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