第65話「広がる注目と影」
「“結城 美玲”って、あのライブの子じゃない?」
「うちの学校の生徒だって、ほんと?」
「マジで!? ステージで見たとき、プロだと思ってたのに……」
週明けの朝。校内の空気が、どこか浮ついていた。
文化祭で行われたライブパフォーマンスの動画がSNSで拡散され、再生数は10万を超えた。コメント欄には称賛と驚きの言葉が並び、ネットニュースにまで取り上げられ始めている。
――その主役が、クラスメイトの結城 美玲だと気づく生徒も増えていた。
「すごいな、美玲……」
僕――一ノ瀬 陽斗は、廊下の掲示板に貼られたライブ写真を見つめながら呟いた。
文化祭のライブは成功だった。でも、彼女にとってそれは“通過点”でしかない。
そして、今まさにその影響力が現実になって、彼女の周囲を動かし始めていた。
***
「……なんだか、教室の雰囲気がちょっと怖いかも」
放課後、屋上で缶ジュースを開けながら、美玲がぽつりと言った。
「やっぱり気づかれてきてる?」
「うん。何人かにはバレてる感じ。『あれって結城さん?』って、廊下でヒソヒソされてた」
「嫌な感じだった?」
「ううん。そういうのじゃないけど……ちょっと距離を感じる、っていうか」
彼女の声は弱々しいけれど、逃げたいとは言わなかった。
「不思議だよね。ずっと“届きたい”って思ってたのに、届き始めたら、急に怖くなる」
「でも、それだけ本物だってことだよ。美玲はもう“誰かに届く存在”なんだ」
僕はそう言いながら、彼女の横顔を見つめた。
風に揺れる髪の奥で、彼女の目はしっかりと前を向いていた。
***
その夜。
とあるビルの会議室で、星咲 ほのかは静かに映像を見つめていた。
再生されているのは、美玲の文化祭ライブダイジェスト。
「ふーん……やっぱり氷室が動いたわけね。あの子を本気で推すなんて」
椅子の背にもたれながら、彼女は笑った。
「今のうちに止めておかないと。でないと、面倒になる」
彼女の目は画面越しの美玲を射抜くように鋭くなる。
「スポンサーラインに揺さぶりを。あのフェス、主催はそんなに強くないでしょ?」
「はい。一部の企業に影響されやすい構造です」
「じゃあ話は早い。“正統派”が一人いれば十分なのよ。ね?」
星咲は、静かに笑った。
***
翌日。
美玲のもとに、ファンからの直筆メッセージが届いた。
「……手紙なんて、もらったの初めて」
封を開けた彼女は、小さく震えていた。
『あなたの歌に、救われました。どうか、あなたのまま、進んでください』
「知らない誰かが……私のこと、ちゃんと見てくれてるんだね」
その言葉を噛みしめるように、美玲は微笑んだ。
「もっと……歌いたい。もっと届かせたいって、今は本当にそう思う」
僕は、ただ頷くしかなかった。
彼女はもう“地味なクラスメイト”なんかじゃない。
届く力を手に入れ、動き始めた“本物のアイドル”だった。
――でもその裏では、見えない足音が、着実に近づいていた。
―――第65話・完
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
作品への感想や評価、お気に入り登録をしていただけると、とても励みになります。
作者にとって、皆さまの声や応援が一番の力になります。
「面白かった!」「続きが気になる!」など、ちょっとした一言でも大歓迎です。
気軽にコメントいただけると嬉しいです!
今後も楽しんでいただけるように執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。




