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第64話「届いたその先に」

「……見た? 昨日のライブ映像」


「うん、結城さんってあんなだったっけ? めっちゃ歌、上手くない?」


「マジでプロじゃん……あれ、うちの学校の制服だよね?」


週明けの教室。

朝のざわつきの中心にいたのは、SNSで急拡散中のある動画――

文化祭での、美玲のライブ映像だった。


再生数はすでに数万を超え、コメント欄は賞賛の嵐。

「歌声に鳥肌立った」「本物の感情がこもってる」――そんな言葉が並んでいた。


(やっぱり、ちゃんと届いたんだ……)


僕――一ノいちのせ 陽斗はるとは、スマホをそっと伏せる。

あの動画は、僕が夜通し編集したダイジェスト版だ。

彼女の表情、声、会場の空気を余すことなく詰め込んだ。


教室の前方、美玲は静かに座っていた。

けれど、その背筋にはいつもより少しだけ誇りが宿っていた気がする。


──それが嬉しくて、僕はひとり、小さく息をついた。


    ***


放課後。屋上のベンチ。


「文化祭、ありがとうね」


そう切り出した美玲は、夕日を背に、少し照れくさそうに笑った。


「あんなふうに、みんなの前で歌ったの……初めてだった」


「それでも、ちゃんと伝わった。君の歌は、まっすぐ届いたよ」


「……陽斗くんが、いてくれたからだよ」


彼女の声は柔らかくて、少しだけ震えていた。


「ほんとは、怖かった。あんなステージ……夢みたいだったのに、現実になると足がすくんで」


「それでも立った。立てたのは、美玲が本気だったからだよ」


「……うん」


美玲は、ゆっくりと頷いた。


    ***


その夜。駅前のカフェ。

いつものようにノートPCを開いて打ち合わせしていた時――


「……ん。氷室さんから……!」


美玲がスマホを手に取った瞬間、空気が変わった。


「……もしもし、はい。……はい……えっ……」


沈黙と、断続的な相槌。

その目が大きく開かれ、そして――


「……っ、ありがとうございます。はい、絶対に期待に応えてみせます」


電話が切れたあと、彼女はしばらく黙っていた。

そして、僕の方を振り向き、言った。


「フェス……正式に、出られるって」


「……!」


僕の胸が高鳴った。


「やったじゃん、美玲。夢の舞台に、立てるんだ」


「……うん……!」


自然と、ふたりでハイタッチした。

彼女の瞳には、涙と希望が混ざっていた。


    ***


その頃、都内某所――。

白を基調とした高層ビルの一室。


「ふーん……やっぱり出るんだ。正式に」


星咲 ほのかは、タブレットで美玲のライブ映像を再生していた。


「文化祭でこれだけの反響を得たなら……そりゃあ、ちょっと目立つわよね」


隣にいたスタッフが低く声をかける。


「フェス側への調整、始めておきますか?」


「そうね。次は“あくまで自然に”。私の名前を出さずに、静かに揺らして。……そういうの、得意でしょう?」


鏡に映る星咲は、女王のような笑みを浮かべていた。


    ***


その後。帰り道。


「……陽斗くん。わたし、やっぱりあのフェスに出たい。怖くても、逃げたくない」


「うん。だったら一緒に準備しよう」


僕は、彼女の覚悟に真っ直ぐ応えた。


(この先に、また“試練”があるとしても――)


(今度こそ、ふたりで越えていける)


──新たなステージの幕が、静かに上がり始めていた。


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