第6話 もうひとりの観客
「はい、ミレイちゃん、もっと笑顔! その感じキープでいこう!」
撮影スタジオに、マネージャーの声が響く。
眩しいライト、白いセット、華やかな衣装。そして、完璧な笑顔。
結城ミレイとしての私は、カメラの前で「キラキラ」を演じていた。
「そのポーズ最高! じゃあ次、右手を少し上に――そう、それそれ!」
スタッフのシャッター音が響くたびに、笑顔を固定する。
でも、頬の筋肉が張っていくたびに、心のどこかで冷めていく感覚もあった。
(私、ちゃんと“アイドル”できてるのかな……)
終わったあと、メイクルームで汗をぬぐいながら鏡を見る。
そこに映っていたのは、プロの衣装とヘアメイクを纏った“キラキラ系アイドル”――でも、どこか空っぽに見えた。
「お疲れ、美玲。今日も可愛かったよ」
ふいに声をかけてきたのは、マネージャーの白石 梨沙。
20代後半、スーツの上からも分かる気遣いと手腕の人。
笑顔で肩に手を置きながら、さらっと続ける。
「今月の企画、ちょっとずつ数字取れてきてるから、このまま“王道アイドル路線”でいこうね。歌も可愛い系で固めてくから、よろしく!」
美玲は微笑んで頷いた。
――けどその笑顔は、カメラに向けたものより少しだけぎこちなかった。
***
帰宅して制服に着替えたあと、ベッドに倒れ込むようにスマホを手に取る。
YouTubeアプリを開き、通知に表示された再生数を見て驚く。
「……えっ、こんなに……?」
先日、自分でアップした練習動画。
顔を映さず、教室の片隅で歌っただけの簡単な映像が、今までになく再生されていた。
コメント欄をスクロールしていく。
その中のひとつが、美玲の目を引いた。
「顔が見えなくても、気持ちはちゃんと届く。音が嘘をついてないから」
その言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。
何度も読み返して、思い出す。
(……この言い方、どこかで)
あのとき。録画のあとに言ってくれた、一ノ瀬くんの言葉と、そっくりだった。
「……まさか、ね」
そう呟いた声は、自分でも驚くほど小さくて。
でも、頭の片隅に、その可能性がそっと根を張った。
***
次の日の学校。
教室に入ると、いつもと変わらず一ノ瀬くんが席にいた。
ノートを取る手元、無表情だけど穏やかな横顔。
――その普通さが、逆に引っかかって仕方がなかった。
(もし、本当にあの人が……)
ホームルームが終わって昼休み。
教室を出ようとしていた美玲に、陽斗がふと声をかけてきた。
「……動画、伸びてるね。昨日のやつ」
思わず立ち止まり、彼の顔を見る。
目が合うと、彼は少しだけ照れたように視線をそらした。
「……あ、うん。ありがと。見てくれてたんだ」
胸の奥がざわつく。
言葉にできない、でも確かにそこにある“違和感”。
そして、少しだけ嬉しくなってしまう自分がいた。
***
帰り道。
ひとりで歩きながら、スマホであのコメントをもう一度読み返す。
(もし、あの人が“もうひとりの観客”だったとしたら――)
ずっと孤独なステージだと思ってた。
誰にも知られず、誰にも届かない場所で歌っていると。
でも、もしかしたら。
(……少しだけ、救われた気がした)
―――第6話・完―――
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