表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/72

第6話 もうひとりの観客

 「はい、ミレイちゃん、もっと笑顔! その感じキープでいこう!」


 撮影スタジオに、マネージャーの声が響く。

 眩しいライト、白いセット、華やかな衣装。そして、完璧な笑顔。


 結城ミレイとしての私は、カメラの前で「キラキラ」を演じていた。


「そのポーズ最高! じゃあ次、右手を少し上に――そう、それそれ!」


 スタッフのシャッター音が響くたびに、笑顔を固定する。

 でも、頬の筋肉が張っていくたびに、心のどこかで冷めていく感覚もあった。


(私、ちゃんと“アイドル”できてるのかな……)


 終わったあと、メイクルームで汗をぬぐいながら鏡を見る。

 そこに映っていたのは、プロの衣装とヘアメイクを纏った“キラキラ系アイドル”――でも、どこか空っぽに見えた。


「お疲れ、美玲。今日も可愛かったよ」


 ふいに声をかけてきたのは、マネージャーの白石しらいし 梨沙りさ

 20代後半、スーツの上からも分かる気遣いと手腕の人。

 笑顔で肩に手を置きながら、さらっと続ける。


「今月の企画、ちょっとずつ数字取れてきてるから、このまま“王道アイドル路線”でいこうね。歌も可愛い系で固めてくから、よろしく!」


 美玲は微笑んで頷いた。

 ――けどその笑顔は、カメラに向けたものより少しだけぎこちなかった。


     ***


 帰宅して制服に着替えたあと、ベッドに倒れ込むようにスマホを手に取る。

 YouTubeアプリを開き、通知に表示された再生数を見て驚く。


「……えっ、こんなに……?」


 先日、自分でアップした練習動画。

 顔を映さず、教室の片隅で歌っただけの簡単な映像が、今までになく再生されていた。


 コメント欄をスクロールしていく。

 その中のひとつが、美玲の目を引いた。


「顔が見えなくても、気持ちはちゃんと届く。音が嘘をついてないから」


 その言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。

 何度も読み返して、思い出す。


(……この言い方、どこかで)


 あのとき。録画のあとに言ってくれた、一ノ瀬くんの言葉と、そっくりだった。


「……まさか、ね」


 そう呟いた声は、自分でも驚くほど小さくて。

 でも、頭の片隅に、その可能性がそっと根を張った。


     ***


 次の日の学校。

 教室に入ると、いつもと変わらず一ノ瀬くんが席にいた。

 ノートを取る手元、無表情だけど穏やかな横顔。

 ――その普通さが、逆に引っかかって仕方がなかった。


(もし、本当にあの人が……)


 ホームルームが終わって昼休み。

 教室を出ようとしていた美玲に、陽斗がふと声をかけてきた。


「……動画、伸びてるね。昨日のやつ」


 思わず立ち止まり、彼の顔を見る。

 目が合うと、彼は少しだけ照れたように視線をそらした。


「……あ、うん。ありがと。見てくれてたんだ」


 胸の奥がざわつく。

 言葉にできない、でも確かにそこにある“違和感”。

 そして、少しだけ嬉しくなってしまう自分がいた。


     ***


 帰り道。

 ひとりで歩きながら、スマホであのコメントをもう一度読み返す。


(もし、あの人が“もうひとりの観客”だったとしたら――)


 ずっと孤独なステージだと思ってた。

 誰にも知られず、誰にも届かない場所で歌っていると。

 でも、もしかしたら。


(……少しだけ、救われた気がした)


―――第6話・完―――


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


作品への感想や評価、お気に入り登録をしていただけると、とても励みになります。

作者にとって、皆さまの声や応援が一番の力になります。


「面白かった!」「続きが気になる!」など、ちょっとした一言でも大歓迎です。

気軽にコメントいただけると嬉しいです!


今後も楽しんでいただけるように執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ