第46話「氷室の過去と今」
煌びやかなスポットライト。
満員の観客席。
響き渡る歓声。
その中心に立つ氷室紗季は、微笑みながらも心の奥で静かに息を吐いた。
(……今日も、“完璧な氷室紗季”を演じきった)
ステージを降りた瞬間、拍手の余韻が遠ざかっていく。
楽屋に戻ると、マネージャーがスケジュールを確認していた。
「氷室さん、お疲れ様です。次の現場は30分後に移動です」
「分かったわ」
淡々と答えながら、氷室はテーブルに置かれたタブレットに目を落とした。
そこには、例の名前が表示されていた。
《結城美玲――文化祭ライブ動画、再生数急上昇中》
(……美玲ちゃん)
その名前を見るたびに、心の奥で疼く記憶があった。
***
――十数年前。
高校時代の氷室紗季は、まだ無名のアイドル志望の少女だった。
「紗季、そんなに無理しないでよ。ほら、水飲んで」
「ありがとう、玲奈……」
隣にいたのは、親友の結城玲奈。
美玲の母であり、氷室にとって唯一無二の存在だった。
「紗季はさ、もっと肩の力抜いても大丈夫だよ。
アンタの歌もダンスも、ちゃんと伝わってるんだから」
「……でも、私は完璧じゃないと不安になるの」
玲奈は呆れたように笑いながらも、いつも支えてくれた。
「じゃあさ、私が隣にいる限りは大丈夫って思いなよ」
その言葉に、どれだけ救われたか分からない。
***
だが、時は流れ――
玲奈は家庭を選び、氷室はトップアイドルへの道を進んだ。
気づけば、二人の道は交わらなくなっていた。
そして数年前、玲奈がこの世を去ったことを知った。
(……あのとき、もっと何かできていれば)
そんな後悔を抱えたまま、氷室は今もステージに立ち続けている。
***
現在――楽屋に戻った氷室は、マネージャーに声をかけた。
「結城美玲の件、どうなってる?」
「順調に話題は広がっています。ただ、まだ新人枠の域は出ていません」
「……そう」
氷室はタブレットを閉じて、立ち上がった。
「フェスの件、正式に動き始めたら教えて」
「かしこまりました」
楽屋を出る直前、氷室は心の中で呟いた。
(玲奈……あなたの娘は、ちゃんと見てるわよ)
(もし彼女が“本物”なら――私は、守る側になる)
***
その頃、陽斗は学園祭の企画ノートを見つめていた。
まだ美玲は、氷室との因縁も、業界の荒波も知らない。
だが、静かに時計の針は進んでいる。
―――第46話・完―――
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