第41話「文化祭ライブ準備編(前編)」
文化祭まで、あと二週間。
白鷺台高校の校舎内は、どこもかしこも慌ただしさと熱気に包まれていた。
段ボール、絵の具、道具箱――あちこちで生徒たちが笑いながら動き回るなか、
図書室の奥で、一ノ瀬陽斗は美玲と並んでパソコンの画面を見つめていた。
「……ステージ照明は15時からリハ入りって書いてあるね。音響さんにも確認取っておいたほうがいいかも」
「うん。あと、ステージの立ち位置、事前にマスキングテープで印つけておいてって言われてたよ」
二人の会話は、かつてのぎこちなさが嘘のようにスムーズになっていた。
陽斗は画面をスクロールしながら、ふと隣の美玲を見た。
真剣な目。少しだけ前髪が乱れている。
でも、それすらも彼女の一部だと思えるくらい、自然だった。
***
午後。体育館の裏口。
神谷、葉山、梓、小野寺の4人が、それぞれ資材を運んでいた。
「んー……照明、意外と重いなコレ!」
「バッテリーパック積んでるからね。落とさないでよ葉山、絶対」
「はっはっは、俺はこう見えて力持ちだぞ〜!」
「フラグ立てるな、マジで!」
そんな騒がしい会話のすぐ横で、小野寺瑠夏はノートPCを開いて、カメラの設定をいじっていた。
「このカット、当日使えるかも。舞台袖からの引き映像、雰囲気出るし」
「さすがルカちゃん、映像班の女神!」
「はいはい、褒めたら編集増やすからね?」
そんな風にふざけながらも、チームの空気は確実にひとつにまとまっていた。
***
その日の放課後。
図書室の端で、美玲がぽつりとつぶやいた。
「……ねえ、陽斗くん」
「ん?」
「こうしてると、“本当に仲間がいる”って感じがして、ちょっと変な感じ」
「変って?」
「アイドルって、ずっと一人でやってきたから。
誰かと一緒に何かを作るって、こんなに心強いんだなって」
「……うん。俺もそう思うよ」
美玲は照れ隠しのように笑って、小さくうなずいた。
***
数日後。
学校の掲示板に、美玲の出演を告知するポスターが貼られた。
《文化祭特別ステージ枠》
《ライブパフォーマンス:結城美玲》
生徒たちが足を止め、ざわざわと話す声が増えていく。
「え、あの地味子が……アイドル? 本物?」
「動画見たことあるかも。なんかバズってたよな」
「意外と……いや、普通にレベル高くね?」
反応は驚きと好奇心が入り混じっていた。
***
その夜。
陽斗は帰宅後、スマホで動画編集を進めていた。
合間に、ふとSNSを開くと――
《星咲ほのか/公式アカウント》
「最近、若い子たちのステージ動画、よく流れてくるなあ。みんな、ちゃんと見てる?」
何気ない一言。
けれど、そのリプライ欄には《これって美玲のこと?》《まさか匂わせ?》といったコメントがずらりと並んでいた。
陽斗は画面を見つめたまま、数秒だけ無言になる。
そして、静かに画面を閉じた。
――目の前にあるやるべきこと。それが、すべてだった。
***
その夜。
美玲は陽斗から送られてきた動画構成案をチェックしていた。
ライブ当日の構成、カット割り、編集イメージ。どれも丁寧に組み上げられていた。
彼女はふと、ノートを開く。
《君と一緒に歩き出せた ただそれだけで 心が強くなれた》
ライブは、もうすぐだ。
―――第41話・完―――
こんにちは、放送部の梓です。
文化祭って、“本番”がすべてみたいに見えるけど……
その裏には、すごくたくさんの“準備”があるんですよね。
ステージを支える人。照明を調整する人。映像を仕込む人。
そして――その真ん中に立つ人を、信じて動く仲間たち。
美玲さんと一ノ瀬くんが、少しずつ距離を取り戻していくのを見ていて、
なんだか、私まで胸があたたかくなりました。
あのステージが、どんな光で照らされるのか――
放送席から、ちゃんと見届けるつもりです。
また、感想や応援の言葉、届けていただけたら嬉しいです。
それでは、次の放送でお会いしましょう。




