第39話「仲間たちの支えと再起のきっかけ」
教室の空気が、やけに静かに感じる朝だった。
結城美玲は、下を向いたまま席に座り、かすれた声で出席の返事をした。
その声を聞いた陽斗は、いつも通りのふりをして窓の外を見ていた。
二人の間には、言葉では埋まらない距離が横たわっていた。
***
放課後。図書室。
陽斗がひとりでノートPCを開いていた。
でも、指は動かない。
「なに、手止まってるじゃん」
背後から聞こえた声に、陽斗が顔を上げると――瑠夏がいた。
「……今日は、来ないと思ってた」
「来たかったんだもん。……ていうか、さ」
瑠夏は、机の反対側に腰を下ろして、カフェオレのパックをストローで吸いながら言った。
「アンタさ、美玲のことになると、ほんと不器用になるよね」
「……自覚は、ある」
「でもね、不器用でもいいと思うよ。
ちゃんと、“本気”でぶつかったってことじゃん。
それって、美玲にとっても……本当は嬉しいことなんじゃないかな」
陽斗は、何も言えなかった。
でも、ほんの少し、肩の力が抜けた気がした。
***
同じ頃、美玲は音楽室にいた。
グランドピアノの前で、小さなノートを開いている。
歌詞ノート。
喧嘩のあと、何度も書いては消したページたち。
そのページの隅に、小さく“ありがとう”とだけ書かれていた。
「……その“ありがとう”、誰に伝えたいの?」
振り返ると、そこには梓がいた。
「ごめんね、驚かせちゃった。
放送部の音源チェックで来てたんだけど、偶然聞こえちゃって」
「……ううん、大丈夫」
梓は隣に腰を下ろして、美玲の歌詞ノートをちらっと見て微笑んだ。
「伝えたい言葉って、たぶん、歌になる前に“誰かの顔”が浮かぶものだと思うよ。
だから……その“ありがとう”が届くように、歌ってあげて」
「……うん」
美玲の声は、少しだけ前を向いていた。
***
その日の夜。
グループチャットが久しぶりに動いた。
《瑠夏:陽斗くん、少し元気戻ってたよ》
《梓:美玲さんも、ノートに歌詞書いてた。あの子、ちゃんと前見ようとしてる》
《神谷:なら、あと一歩か。何か、きっかけを》
《葉山:文化祭の実行委員会から、ライブ枠の正式オファー来てたぞ》
《瑠夏:これって、運命じゃん》
そのとき、神谷が打ったひとことが表示された。
《じゃあ、次は――俺らの出番だな》
***
翌日。
陽斗は教室で静かに美玲の様子をうかがっていた。
目が合うことはなかった。
でも――
美玲の机に、色鉛筆で描かれたイラストカードが置かれていた。
《“次のライブ、楽しみにしてる”
放送、聴いたよ。あの歌詞、好きだった》
裏には葉山の名前と、さりげない笑い顔マーク。
そしてもう一枚。瑠夏の字で、短くこう書かれていた。
《変わらなくていい。戻らなくていい。
“今のままの美玲”で、大丈夫》
そのカードを見つめながら、美玲は、そっと笑った。
―――第39話・完―――
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