第32話「交差する声と、隣にいること」
昼休み、教室の端っこ。
僕――一ノ瀬 陽斗は、スマホで投稿用の素材をチェックしていた。
ライブ映像。テレビ出演のダイジェスト。
そして、校内放送の反響も。
すべてが、少しずつ“動いている”。
「……投稿タイミング、悩むな」
思わず独り言が漏れたとき――
「食う?」
隣から唐突に差し出されたのは、袋入りの大福だった。
「……葉山?」
「うん。お前、最近なんか難しい顔してるからさ。糖分、必要かなって」
葉山 蒼。
同じクラスの男子。天然というか、空気を読むのか読まないのかよくわからないタイプ。
でも、なぜか誰にでも好かれていて、空気を和らげるのがうまい。
「……ありがとう」
「てかさー、あのさ……結城さん、やっぱすごいよな」
「……急にどうした」
「いや、この前の放送聞いて、ちょっと感動したっていうか。
なんか、“同じ学校にこういう人いたんだ”って、素直に思った」
葉山は照れもせずにそう言って、また大福を口に入れた。
「でさ。そういうの、支えてる一ノ瀬ってのも、ちょっとかっこいいなーって」
「……別に、かっこよくなんかないよ。裏でこそこそしてるだけだし」
「でもさ、陰で誰かを支えるって、けっこうできないことだと思うよ?」
その一言が、なぜか少しだけ胸に残った。
***
放課後。
撮影素材の整理と編集のため、美玲と僕、そして瑠夏と神谷が図書室に集まっていた。
「ちょっと! この照明の角度じゃ、髪のツヤが死んでるじゃん!」
「はいはい、角度補正するから落ち着いて」
「そもそもこの字幕、もう少しふんわりしたフォントにできないの?」
「データ軽くしたくて、標準書体にしたんだよ」
言い合いながらも、どこか“家族みたいな空気”があった。
そんな中、図書室の入り口から手を挙げて入ってきた人物がいた。
「おーっす。なんか面白そうなことしてんなーって思って」
「……葉山?」
「なんか手伝えることある? 俺、機械は苦手だけど、ポスター描くのとかはけっこう得意だよ?」
「ポスター……?」
「うん。放送室の前に掲示するライブポスターとかさ。告知、目立つほうがいいでしょ?」
あまりに自然なノリで入り込んできた彼に、誰も拒む理由を見つけられなかった。
「……まあ、賑やかなのも悪くないか」
「やったー、じゃあ俺も仲間ってことで!」
***
そんな彼の提案で――急きょ、学園内に貼る“ライブ告知ポスター”を作ることになった。
場所は、校内の掲示板、昇降口前、そして購買横の人気ポイント。
「この写真、よくない? 自然な感じでさ」
「うん、ナチュラルな笑顔がいいね」
梓も合流して、ポスターに使う写真やキャッチコピーを選ぶ。
あの静かな図書室が、いつの間にか“熱を持ったチームの部屋”になっていた。
***
帰り道、美玲がぽつりと呟いた。
「……なんか、すごいね」
「何が?」
「みんなが、こんなふうに集まってくれてるの。
前は、ひとりで全部やろうとしてたから。……ううん、ひとりじゃなきゃいけないって、思ってた」
「でも、今は違うでしょ?」
「うん。違う。……陽斗くんが、“違う”って教えてくれたから」
彼女の笑顔は、どこかあたたかかった。
「これからも、こうして歩いていけたらいいなって、思うの」
「うん。……ずっと、隣にいるよ」
そんな何気ない言葉が、照れくさいくらい自然に出てきた。
―――第32話・完―――
こんにちは、結城美玲です。
読んでくださって、本当にありがとうございます!
最近、学校でも少しずつ声をかけられるようになってきて――
正直、ちょっとだけ……いえ、けっこう恥ずかしいです(笑)
でも、こうやって「誰かと一緒に頑張る」って、こんなに心強いんだなって毎日思っています。
ステージに立つのはまだまだ緊張しますが、
隣で支えてくれる人たちがいるから、ちゃんと前を向いていられる気がします。
次のお話も、少しずつ変わっていく“わたし”を、見ていてもらえたら嬉しいです。
感想やコメント、よかったらぜひ残してくださいね!
いつも読んでくれて、本当にありがとう――!
またね。




