第30話「拡がるチーム、揺れる想い」
放課後、校門の前で待っていたのは、懐かしい顔だった。
「……神谷?」
「おう、お前にしては返信早かったな。というか、遅すぎたとも言える」
スラリとした長身、無造作に跳ねた前髪、そして手にはノートPC入りのバックパック。
中学時代の情報分析担当――神谷 颯人が、数年ぶりに目の前にいた。
「……どうして、今?」
「お前が動いてるって聞いたら、そりゃ俺も黙ってらんないでしょ。
“推しをトップに押し上げる”って言ってたお前が、実際にここまで来たんだ。
俺は、その“裏側”を支えるって決めてたからな」
「相変わらず、話が早いな」
「そして俺は、分析と炎上対策が得意な高校生。需要、あるよね?」
***
教室に戻り、二人は空き机に並んで座った。
神谷が取り出したノートパソコンの画面には、SNSの反応や投稿傾向の統計グラフが並んでいた。
「美玲さんのファン層、今の主流は中高生女子。その中で“共感型”投稿が伸びてる。
で、アンチ層は“実力よりゴリ押しだ”っていう、嫉妬混じりの層が中心」
「……予想通りだけど、思ってたよりシビアだな」
「だからこそ戦略が必要。これ、見てみ?」
神谷は、炎上事例と回避パターンを整理した資料を示した。
「ここ最近は“好感度高めのリアル”が鍵。つまり――“飾らない結城美玲”をどれだけ丁寧に見せられるか。
そして、お前の立ち位置は……」
「表に出ないほうがいい」
「だな。あくまで“陰で支えるファン”ポジションが最強」
陽斗はゆっくり頷いた。
それが、一番“美玲を守れる”距離だと思っていたから。
***
その夜、陽斗はグループチャットを新たに作成した。
メンバーは自分、美玲、そして神谷。
数分後、ふと思い立ってもうひとりにメッセージを送る。
《陽斗:ルカ、こないだの撮影ありがとな。もしよかったら、このチームに入ってもらえないか?》
すぐに、ポンと通知が返ってくる。
《ルカ:え、いいの!? 私でよければ!てか楽しそうじゃん、入る入る!》
《神谷:お前の知り合い、ノリが軽いな……》
《ルカ:軽いんじゃなくてフットワークが軽いの。覚えといて、情報班さん♪》
小野寺瑠夏は、正式にこの“チーム”の一員になった。
***
数日後――都内のファッションビルで、美玲はファッション誌の撮影に挑んでいた。
「こっち向いてくださーい、笑顔そのままキープ!」
カメラのフラッシュがリズム良く光る中、陽斗は撮影現場の隅で美玲を見守っていた。
ヘアメイクは瑠夏が担当しており、合間には軽く会話して和ませてくれている。
周囲のスタッフもすっかり美玲に好意的だった。
(すごい……“現場での信頼”って、こういうことか)
けれど、それを見ながら――ふと、胸の奥にざらりとした感情が生まれる。
(……本当に、俺がいなくても、彼女はもうやっていけるんじゃないか)
***
帰り道、美玲がふと口を開いた。
「今日の現場、陽斗くん来てくれてよかった。
……なんか、そばにいてくれるだけで、安心するの」
「……それ、俺がいても、足引っ張ってないって意味?」
「違うよ! むしろ、いてくれないとダメって思ってる……けど……」
その先の言葉は、彼女の中でもまだ整理できていないようだった。
「ごめん、変なこと言ったね」
「ううん。……こっちこそ、ありがとう」
駅までの道、二人の会話はそれ以上深くならなかった。
けれど――陽斗の中には、ふとした不安が芽生えていた。
“支える”ことが、“依存”になってはいないか。
そして、自分の“立ち位置”はこのままでいいのか。
彼女の夢を守りたい。
でも、それが“自分の存在意義”になりすぎていたら――
(……本当に、これでいいのか)
思考の奥に、小さな迷いの種が落ちた。
―――第30話・完―――
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