第23話「この世界に、私の歌を」
東京・渋谷の大型ホール。
音楽フェス『Next Stage Fes』――その名の通り、今もっとも勢いのあるアーティストたちが集められたイベントだった。
僕――一ノ瀬 陽斗は、美玲と一緒にその会場に立っていた。
すでに観客は1000人を超える規模。
SNSで話題をさらってきた美玲は、特別ゲスト枠として招待された。
「すご……」
僕は圧倒された。
照明。音響。歓声。すべてが桁違いだった。
***
控室。
「緊張、してる?」
僕が尋ねると、美玲は小さく息を吸って――
「……してる。でも、大丈夫」
その瞳は真っすぐだった。
(この空気の中で、ちゃんと歌うつもりなんだ)
***
次々に実力派のアーティストがパフォーマンスを披露していく。
歌唱力、演出、世界観――それぞれがこの世界で生きてきた証をステージにぶつけていた。
そして。
「続いての出演は――星咲 燈!」
観客の熱狂は、明らかにそれまでとは違った。
***
星咲燈は、一歩ステージに立つだけで空気を支配していた。
華やかで、強くて、美しくて――でも、どこか人間味もある。
完璧じゃないのに、誰よりも輝いていた。
(……これが、トップアイドル)
僕も美玲も、その姿から目を離せなかった。
***
星咲のパフォーマンスが終わる。
僕は美玲の顔を見る。
その横顔は、どこか苦しそうで、でも決意が宿っていた。
「……私も、あんな風に歌いたい」
「美玲さん……」
「違う。私“らしく”……私の言葉で、歌いたい」
その呟きは――彼女の中で、はっきりと芽生えた決意だった。
***
そして、美玲の出番。
僕はステージ袖で、彼女を見守る。
「……結城美玲です。まだまだ未熟ですが、私の歌を聴いてください」
観客の視線が集まる。
でも、美玲は逃げなかった。
音楽が流れ、彼女の声が響く。
***
彼女の歌は、星咲のような派手さはない。
でも――誠実で、優しくて、心に届く声だった。
観客もそれに気づき、自然と拍手が広がる。
(……届いてる)
僕は確信した。
***
ライブ終了後。
控室に戻った美玲は、僕に小さく呟いた。
「……歌詞、書こうと思う」
「え?」
「自分の言葉で、自分の歌を――ちゃんと伝えられるように」
その決意に、僕は心から頷いた。
「手伝うよ。何でも」
「……うん。ありがとう。一ノ瀬くん」
***
一方、星咲燈は控室でスマホをいじりながら小さく笑っていた。
「いいじゃん……結城美玲。まだまだだけど、ちゃんと“自分”を見つけようとしてる」
「そういう子、好きよ」
***
この世界に、自分だけの歌を。
彼女の新しい挑戦が、いま始まろうとしている。
―――第23話・完―――
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