第21話「ステージの向こう側へ」
週末の朝。
僕――一ノ瀬 陽斗は、美玲と一緒に地方ライブ会場へと向かっていた。
駅前のショッピングモール。
大きな広場の中央に簡易ステージが設けられ、すでにスタッフが準備を進めている。
地方とはいえ、すでにSNSでの告知や話題性もあって、観客はかなり集まりそうだった。
「……ドキドキするね」
「うん。でも、やるだけだよね」
美玲はそう言って、小さく拳を握った。
(あの日のストリートライブから、こんな場所に立てるようになるなんて)
(でも、これはまだ“通過点”だ)
***
控室で準備を進める間。
マネージャーの白石さんが資料を渡してくる。
「今日は、大手メディアの取材が入ってるから、インタビューもあるわ。あとは……」
白石さんが少しだけ言いにくそうに口を濁す。
「業界の関係者が何人か視察に来てるらしい」
その言葉に、美玲は一瞬だけ表情を引き締めた。
「……わかりました」
迷いのないその声に、僕は胸が熱くなる。
(この場に立てること、その意味を彼女はもう理解してる)
***
開演直前。
すでに会場は大勢の観客で埋まっていた。
SNSで知った人たち、地元の家族連れ、そして明らかに業界関係者っぽいスーツ姿の人たち。
緊張感と期待感が入り混じった空気。
(この空気の中で、ちゃんと歌いきる)
(それが、今の彼女の戦いだ)
***
ステージに立つ美玲。
「今日は、集まってくれてありがとうございます。――歌います」
シンプルで、でも真っすぐな言葉。
音楽が流れ、彼女の歌声が会場を包む。
観客の反応は静かに、でも確実に変わっていく。
最初は「誰だろう?」という目線だった人たちが――その声に、表情を変えていく。
***
ライブが終わったあと。
控室に戻る彼女の姿は、少しだけ誇らしげだった。
「一ノ瀬くん……楽しかった」
「……すごかったよ。ほんとに」
彼女は笑って、少しだけ顔を赤らめる。
***
その裏で。
星咲燈のマネージャーが、会場の様子を確認していた。
「……なるほど。確かに話題になる理由はあるわね」
燈本人はまだ動かない。
でも、その存在はすでにこちらを意識し始めている。
「次の舞台……直接、顔を合わせる日も近いかもね」
***
帰り道。
僕たちは静かに歩いていた。
夜の風が少しだけ心地いい。
「これからもっと、大変になるかもしれない」
僕がそう言うと、美玲は静かに頷いた。
「うん。でも、全部受け止めるよ。――私の歌だから」
その強さに、僕は心から思う。
(この先、どんな壁があっても)
(俺は、彼女の隣で支え続ける)
***
僕たちの物語は、まだまだ始まったばかりだ。
次は、もっと大きなステージへ。
そして、業界の“本当の戦い”へ――。
―――第21話・完―――
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