第17話「それぞれの次の一歩」
取材が公開されてから数日。
僕――一ノ瀬 陽斗は、変わりゆく日常に少し戸惑いながらも、その流れに飲み込まれないように必死だった。
美玲のインタビュー記事は、ネット上で多くの人に読まれ、彼女への注目度はさらに加速していた。
『次に注目したい新人アイドル』
『素顔は普通の高校生?』
『本物の歌声を持つ少女』
そんな見出しが並び、SNSのフォロワーは日に日に増えていく。
***
「結城さん、次のライブってどこでやるの?」
「またストリートライブとかないの?」
学校でも、すっかり美玲は“有名人”扱いだった。
本人は相変わらず静かに過ごしていたけれど、確実に周囲の目は変わっている。
僕はそれを横目に見ながら、内心で思う。
(……守ってあげたい、って気持ちだけじゃ足りないのかもしれない)
これだけ注目が集まれば、良いことだけじゃなく、きっとその逆もある。
だからこそ――支えるだけじゃなく、導ける存在にならなきゃいけないんじゃないか。
***
放課後。
僕たちは、いつもの帰り道を歩いていた。
「……最近、忙しくなった?」
「うん。でも……楽しいよ」
美玲は、少しだけ照れたように笑った。
その表情は、あのときストリートライブをしていたときとはまた違う。
強さと、覚悟が宿っている。
「事務所からは、次のライブの話も出てるみたい。小さいイベントだけど」
「……マジか」
着実に、彼女は次のステージへと歩みを進めている。
***
一方その頃。
マネージャーの白石梨沙は、事務所の会議室で上司と話をしていた。
「まだまだ伸びしろがある子だ。無理に急がせるより、今はしっかり地盤を固めていくべきだな」
「……ですね」
白石は静かに頷く。
でも心の奥では、彼女なりの決意があった。
(美玲ちゃんが本当に大きな舞台に立つ日まで――ちゃんと支え続ける)
***
夜。
僕はまた、自室でノートを広げていた。
次の動画のアイデア。ライブの告知方法。SNSの運用方針。
僕にできることは限られているかもしれない。
でも、彼女の夢を本気で応援するなら――僕も変わらないといけない。
(次は……どう動くべきか)
(俺にできることは、まだまだある)
***
そして。
白石さんから、美玲に一通の連絡が入る。
『来週、小規模だけどライブイベントに出られることになったよ』
『詳細はまた連絡するから、準備だけはしっかりね』
そのメッセージに、美玲は静かに息を吸い込み、スマホを握りしめる。
(次は……私の歌を、もっと遠くへ)
それぞれの、次の一歩が、また静かに踏み出されようとしていた。
―――第17話・完―――
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