第16話「はじめての取材と、その先へ」
週末の午後。
白鷺台高校の校門を出て、僕――一ノ瀬 陽斗は、少し早足で歩く結城 美玲の後ろ姿を追いかけていた。
今日は、美玲にとって初めての取材の日。
ストリートライブでバズった彼女に、ネットメディアからインタビューのオファーが届いたのだ。
***
カフェの一角に設けられた撮影スペース。
スタッフは思ったよりも少人数だったけど、それでも美玲は少し緊張している様子だった。
「結城さん、少しリラックスしても大丈夫ですよ」
記者の女性が優しく声をかける。
白石さんもそっと横で見守っていた。
『無理しないで、いつもの美玲ちゃんでいいから』
その言葉に、美玲は小さく頷く。
***
取材は、思ったよりも順調に進んでいった。
最初は定番の質問。
「いつから歌を始めたんですか?」
「普段はどんな学校生活を送っていますか?」
でも、途中からは少し踏み込んだ内容も増えていった。
「今後、どんな活動をしていきたいですか?」
「アイドルとして目指すものは?」
そのたびに、美玲は真剣な瞳で、でも飾らない言葉で答えていた。
「歌うことが、やっぱり一番好きです。だから、もっとたくさんの人に届けられるようになりたい」
その言葉は、僕の胸にもまっすぐ響いていた。
***
取材が終わり、ホッとしたようにカフェのソファに座り込む美玲。
白石さんが、そっと水を差し出す。
「お疲れさま。すごく良かったよ、美玲ちゃん」
「……ありがとうございます」
美玲は小さく笑って、水を飲んだ。
「初めての取材、緊張した?」
「……はい。でも、楽しかったです」
その表情は、どこか晴れやかだった。
***
帰り道。
僕たちは夕暮れの街を並んで歩いていた。
「一ノ瀬くん……今日は、本当にありがとう」
「俺は何もしてないけどな」
「でも、近くにいてくれるだけで、安心するから」
その言葉に、少しだけ心臓が跳ねた。
「……これから、もっと忙しくなるかもだけど」
「うん。でも、やりたいことだから」
***
一方その頃。
取材に立ち会っていた記者は、事務所に戻る道すがら、スマホをいじりながら小さく呟いていた。
「この子……本当に見つかっちゃったかもね」
すでに、いくつかの大手メディアが彼女に注目し始めている。
そして、その裏では業界の大物たちの名前も、少しずつ動き始めていた。
***
夜。
僕は自室でノートを開いていた。
これからのプランを書き出しながら、思う。
(これから先、きっともっと大きな壁が来る)
(でも、それを越えるために――俺はここにいる)
画面の向こうで、美玲の歌声が、今日も誰かの心に届いている。
―――第16話・完―――
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
作品への感想や評価、お気に入り登録をしていただけると、とても励みになります。
作者にとって、皆さまの声や応援が一番の力になります。
「面白かった!」「続きが気になる!」など、ちょっとした一言でも大歓迎です。
気軽にコメントいただけると嬉しいです!
今後も楽しんでいただけるように執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。




