第15話「変わり始めた日常」
SNSの通知は、相変わらず鳴りやまない。
僕――一ノ瀬 陽斗は、スマホを眺めながら、ため息のような息を吐いた。
(これは……すごいことになってるな)
美玲のストリートライブの動画は、完全にバズっていた。
フォロワーは数日で何万人規模に膨れ上がり、コメント欄は常に更新され続けている。
『この子、プロなの?』
『もっと動画上げて!』
『ライブやってほしい!』
その勢いは、僕たちの想像をはるかに超えていた。
***
学校に行けば、当然のように話題になっている。
「昨日もまた再生数伸びてたぞ」
「テレビで紹介されるかもって噂あるし」
「結城さん、マジですごい……」
周囲の反応は、驚きと尊敬と、少しの戸惑いが入り混じっていた。
でも美玲は、そんな空気にも動じることなく、相変わらず静かに席についている。
それが逆に、彼女の芯の強さを感じさせた。
***
放課後。
僕たちは事務所から連絡が入ったということで、少し早めに帰ることになった。
「……取材の話、来てるみたい」
美玲が静かにそう教えてくれる。
ラジオ番組、ウェブ記事、インタビュー。
名前が知られるということは、こういうことでもあるんだと、改めて実感した。
「緊張する?」
「……ちょっとだけ。でも、嬉しいよ」
その笑顔は、少しだけ頼もしく見えた。
***
その夜。
僕は自室で、次の動画や企画の準備を進めていた。
(次は……ライブ映像だけじゃなくて、もっと彼女の良さが伝わる動画にしたい)
歌だけじゃない。
話す姿、笑う顔、素の彼女を知ってもらえるような内容を。
そのためには、撮影プランや場所選びも大事になってくる。
(やれることは全部やろう)
(……俺が、彼女の一番のファンだから)
***
一方その頃。
美玲はマネージャーの白石梨沙と、電話で打ち合わせをしていた。
『すごいね、美玲ちゃん。正直、ここまで早く名前が広がるとは思ってなかったよ』
「……私も、びっくりしてます」
『でも、ちゃんと自分のペースで進んでいいから。無理に背伸びしなくて大丈夫』
白石の言葉は、相変わらず穏やかで優しかった。
美玲はその声に、少しだけ安心している自分に気づく。
『次の取材、もし困ったことがあったら何でも言って。私がちゃんとフォローするから』
「……はい。ありがとうございます」
***
次の日の朝。
学校への道すがら、僕と美玲は並んで歩いていた。
「……取材、頑張ってな」
「うん。ありがとう。一ノ瀬くん」
僕はふと、ポケットから小さなメモ帳を取り出して言った。
「実はさ……次の動画のアイデア、ちょっと考えてて」
美玲は驚いたように目を丸くして、それから少しだけ照れくさそうに笑った。
「ふふ……本当に、一ノ瀬くんってプロデューサーさんみたいだね」
「いや、まだまだ素人だけどな。でも……君のこと、一番近くで支えたいから」
その言葉に、美玲はほんのりと頬を染めて。
「……頼りにしてるよ」
その一言が、何よりも僕の原動力だった。
―――第15話・完―――
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