第14話「バズの余波と新しい景色」
ストリートライブから一夜明けた夜。
僕――一ノ瀬 陽斗は、自室の机に突っ伏してスマホの画面を眺めていた。
「……マジか」
そこには、美玲のライブ動画がSNS上で拡散され、どんどん再生回数といいねが伸びていく様子が表示されていた。
最初はほんの数人だったはずの観客。
それが、誰かの投稿で、誰かの拡散で、知らないうちに大きな波になろうとしていた。
『この子、本物じゃん』
『歌声が心に刺さる』
『また聴きたい』
『アイドルなの?名前知りたい』
コメントは次々と増えていく。
フォロワーの数も、昨日までとは桁違いに増えていた。
(これは……マジでバズってる)
心臓がドクドクと鳴る。
すごい。けど、同時に、これからがもっと大変になる――そんな予感もしていた。
***
翌日、学校。
白鷺台高校の教室は、昨日以上にざわついていた。
「見た?あのストリートライブの動画」
「結城さんでしょ?めっちゃ歌うまかった……」
「サインとかもらえたりするのかな?」
そんな会話が、あちこちから聞こえてくる。
美玲はと言えば、相変わらず静かに席についてノートを広げている。
でも、やっぱり昨日までとは違う。
彼女を見る周囲の目が、完全に変わっていた。
(……まあ、そうなるよな)
僕は内心で苦笑しつつ、美玲の方を見やった。
彼女は気にしていないのか、気にしないようにしているのか。
それとも、もうとっくに覚悟を決めているのか。
静かに、でも強くそこに座っている。
***
放課後。
僕たちは学校を出て、帰り道を並んで歩いていた。
「……すごいね、SNS」
僕がそう言うと、美玲は少しだけ困ったように笑った。
「うん……ちょっと怖いくらい」
「でも、ちゃんと伝わったんだよ。美玲さんの歌」
「……そうだね。嬉しいよ。素直に」
彼女の横顔は、昨日よりも少しだけ柔らかかった。
***
一方その頃。
美玲の所属事務所では、マネージャーの白石梨沙が、スマホの画面を指でそっとスクロールしていた。
「……すごいじゃん、美玲ちゃん」
自然とこぼれた本音。
彼女は声をかけすぎず、近すぎない距離で見守るタイプの大人だった。
でも、その胸の内ではちゃんと応援している。
(本気でやるなら、私もちゃんと支えなきゃね)
スマホをそっとポケットにしまい、静かにそう呟いた。
***
帰り道の途中。
僕と美玲は、前に下見をした広場を通りかかった。
「あのときは、こんな風になるなんて思わなかったよな」
僕が言うと、美玲はふっと笑った。
「……うん。でも、楽しかった。すごく」
「これから、もっと大変になるかもだけど」
「それでも、私は歌いたい。……それが、私のやりたいことだから」
その言葉に、僕は自然と頷いていた。
(だったら――)
(俺が支える。それが、俺のやるべきことだから)
***
夜。
スマホの通知は、止まることなく鳴り続けていた。
動画の再生数はさらに伸び、フォロワーは1日で何倍にも増えていた。
コメント欄には、新しいファンの声が溢れている。
『次はどこで歌うの?』
『ライブ情報ほしい!』
『絶対に伸びる子だ』
(これは、もう止まらないな)
僕は画面を見ながら、小さく息を吐いた。
(次は……もっとちゃんと準備しないとな)
(もっと彼女の歌が、遠くまで届くように)
***
そして、僕たちの物語は、また新しい景色へ向かって歩き出していく。
―――第14話・完―――
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