~第3幕~
「ムハマドハッキング? えっと? クラウドファンディングか?」
私は聞きなれない言葉なので2度聞いた。
「はい。寄付金を集めるSNSです」
私と由香里が秋山さんに相談をすると秋山さんが思いもよらない提案をした。
「それって集まるものなの?」
「PRの仕方によりますね。でも、誰かの心に響いたら寄付はしてくれる」
「何をどうPRしたらいい?」
「ありのままを訴えたらいいかと……ただ……」
「どうしたの? 尚子さん?」
「由香里ちゃんが障害者である事や水野さんがそこまで収入のない父親である事もネットで明かすほうがダイレクトに伝わるとは思う。でも、それをする事で生じるリスクもある。そのへんは2人の覚悟に委ねます……」
「やるに決まっているじゃん! 私はぽんちの為に何だってするよ!」
「由香里……」
「そうと決まったら! やりましょうか! ぽんちくん獲得大作戦!」
おー!!!と3人で手と掛け声を合わす。
何だかいつしか私は秋山さんも家族の一人になったような気がした。
秋山尚子さんプロデュースのクラウドファンディングは思った以上に成功した。目標金額をわずか1日でクリアできたのだ。
大金を得てから私たちはすぐにぽんちのもとへ向かった。
「待っていましたよ。よかったね。ぽんち」
クゥ~ン。クゥ~ン。
すっかり私たちと顔なじみになったペットコーナーの若林さんがぽんちを私達家族に手渡す。その模様はこのプロジェクトチームの主体者となった秋山さんがカメラに収めた。
私はこの模様をブログで報告すると「動画を撮ったのなら、その動画が観たいです」というようなコメントが多く寄せられた。すかさず私達はヨウチューブのチャンネルを作って、ぽんちとの日々を世に発信した――
ぽんちは私たちだけでなく日本中、いや、世界中からも愛されるようになった。
チャンネル登録者数はうなぎのぼりですぐに収益化が見込める規模に。そこで得られる収益は数カ月もしないうちに本職の収入を上まわるものになった。
「本当に辞められるのですね」
「はい、ぽんちとの青春に翔けてゆきたいと思いました」
「ヨウチューブ、拝見していますよ。とても面白いです」
「恐縮です…………社長」
「でも、何だろうな。僕は警備員をしながら娘さんの為に一生懸命な貴方が好きでしたけどね……」
「え?」
「いや、何でもない。ご活躍を願っております」
彼の言った言葉の意味を理解するのはだいぶ後になっての事だった。
可愛いチワワと青春を駆け抜けるヨウチュバー親子とその付き添い。
その躍進は止まらなかった。
ある日訪れるその突然の出来事が生じるまでは。
∀・)次回で最終回になります。おたのしみに。