~第2幕~
「いらっしゃい!」
「おじゃまするぞ」
私は数年ぶりに友人の磯村が営む居酒屋に寄った。
「久しぶりだなぁ。どうした? 今日は貸し切りにまでするなんて」
「いや、その、相談したい事があって」
「おう。どんなことだよ? わざわざ店を貸し切りにするほどの悩みだろうな?」
私が事の全てを話すとポカンと彼は口を開けた。
拍子抜けしたのだろうか? 無理もない。でも私にとっては一大事の相談だし、彼と2人きりでしっかり話したい事でもあるから。
彼が唖然としている間に店の奥からハフハフと息が荒いゴールデンレトリバーが現れた。
「その、つまり相談したい事とは?」
「その、犬の面倒をみるのにどれぐらいの経済力がいるかだ」
磯村のペットであるエレナは私のズボンの裾を加えて遊びはじめた。
「まぁ~どれだけの事をしてやるかだと思うが?」
「色々いるだろう? トイレとか餌とか服だとか」
「ウチのエレナとはまた違うだろうな。ただ、小さなチワワでも飼育費となると月々5~6万はかかるのが相場だろうな」
「5~6万か。由香里が洋服や化粧を買うのを我慢すればそれぐらいは……」
「いや、娘さんにそれぐらいのことをしているのがもはや凄いと思うぞ……」
「初期費用が凄そうだ。それにワクチンのことや病気になった時の事も考えて」
「いや、お前さん、メチャクチャ考えているじゃないか。もはや飼うことを前提としていないか?」
「だから教えて欲しい! 私にハウ・トゥ・ドッグの飼い方!」
磯村と酒を呑み交わして犬の話題で盛り上がる。そもそも彼には由香里と同じぐらいの娘がいる。さらにその弟と妻と4人で交替してエレナの面倒をみる事ができる。いっぽうで私はシングルファーザーの立場でありながらも仕事で家にはいない事が多いし、由香里だって面倒をみて貰いながらで何とか生活できている娘だ。
どうしようもないのか……どうしようも……
私はいつしかヤケ酒を飲み始めた。そして磯村と若かりし頃にフォークデュオを組んでブイブイ言わしめた武勇伝を彼と懐かしみ語り明かした――
その晩、私は帰りが遅くなるとヘルパーの秋山さんへ事前に話していたので、秋山さんは私が帰るまで残業してくれていた。ヨロヨロに歩く私をみて、心配もしてくださった。しかし私は酔った勢いで大声で口走ってしまった。
「俺だって飼いたいよぉ!! 飼いたいって!! あんな可愛い瞳で見つめられちゃったら、もう一目惚れしちゃうって!! でもウチには余裕がないもん!! うぅ……うぅ……うわあああああああああん!!!」
「水野さん! しっかり!! しっかり!!!」
秋山さん曰く由香里は寝ていたから良かったと話されたが、実際は違った。
彼女は寝たフリをしていたのだ。
数日後、私は休日という事で由香里を散歩へ連れにいった。
「今日は街にでも繰りだそうか。そろそろ夏物の服を買わないと」
「ううん、いいよ。しばらく洋服は我慢するよ」
「どうした? 急に?」
「パパ、あのコに会いたいのでしょ?」
「あのコって……」
「私も会いたい。会いにゆこうよ」
どうして分かったのだろうか?
そこで私はハッとした。あの晩、あの私の叫びが彼女に聴こえてしまっていたのだと。「いくしかないか」と私が彼女に告げると彼女は微笑んで力強く頷いた。親子だからこそ見抜けない訳がなかったのだ。
「うわあああああああああん! ぽんち!! 会いたかったよ!!!」
「ぽ、ぽんち? そうか、そういう名前なのか!! うおおお!!!」
私と由香里はぽんち(勝手に命名された)のまえで大泣きをした。
私たち親子の絆は一段と深まった気がした。
そして私たちの戦いが始まる――
∀・)気づいている人は気づいていると思うけど本作のモデルはあのCMです(笑)また次号(笑)