~第1幕~
娘とホームセンターに寄った時のことだ。
「パパ! このコ、すごく可愛い! ウチで飼えないかな!」
娘の由香里は難病を抱えている。身体障碍者ながらも積極的にオシャレをするほどに気丈で明るい性格ではあるが、身体の弱さは日々の介護を要するほどだ。ヘルパーさんを雇ってもいるし、犬を飼う余裕なんて……
「ああ、そうだな。考えておくよ」
いつものように私は娘が乗る車椅子を押し、いつものように生返事を返した。犬のペットが欲しいとはここに来るたびにいつも口にする。しかし……その瞬間は何かが違った。
私はそのチワワと目が合ってしまったのだ。
クゥ~ン。
その幼くあどけない瞳が私に何かを訴える。
私は立ち止まった。そしてその葛藤に揺れる。
「パパ? パパ? どうしたの?」
「はっ!」
私は娘の一声で目を覚ます。いかん。余計なゾーンに入ってしまったようだ。私はもう一度「考えておくよ」と娘に話した。
私こと水野忠也は警備員の仕事をしている。
様々な現場に派遣されてはその仕事を全うする。しかしどうにも今日はあの犬の眼差しと泣き声が脳裏に浮かんで離れない。
「そりゃ~どこかのタイミングで飼う事を考えてもいいかもしれませんね」
「でも、そんな余裕なんて私たちには……」
「ご家族の事情もあるのでしょう。今すぐにそうしろとは話しません。だけど、ご自身も飼いたいと思っているならば考えるぐらい良いのではないでしょうか」
「ありがとうございます」
私は仕事終わりに、年下だが警備会社の社長である伊達さんに思わず相談してしまった。彼はたまたま私が働く現場に様子をみに来た。そこで近々ボーナスが貰える事もあり、少しだけでもあげて貰えないか毎度のごとく相談した。そんななかで今日は思わず「犬を飼ってみたくなって」なんていうワードが飛び出してきたのだ。
家の帰り道、私はなぜか娘とよく来るホームセンターに立ち寄った。まだいた。私はまたしても彼と目を合わした。
クゥ~ン。
クソッ! 私にどうしろというのだ!! 私にどうしろと!!!
私は目を赤くしてお家に帰った。
「パパ、おかえり」
「ああ、ただいま」
「パパ、どうしたの? 目が赤いよ?」
「ああ、転んじゃって」
「転んだの!? 大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ。かすり傷で済んだ」
「かすり傷で泣いちゃうなんてパパ、面白いね!」
「ははは……まぁ……笑って済むならそれでいい」
まさか私があの可愛いチワワに心奪われている事を知られてしまっては大事だ。どうにかしないと……
しかし、来る日も来る日も私はそのホームセンターの中にあるペットショップに立ち寄った。
「あの、ご興味があるのでしょうか?」
遂に店員にまで声を掛けられるようになった。
「ははは、いやぁ~昔、飼っていたコにそっくりでして」
「人懐っこいコなのですよ。オスなのだけど、しつけもよくできて」
「優秀なのですね」
「はい。ご縁があればぜひ!」
「ははは…………」
いらない情報をよこすな。
ますますどうしようもなくなるじゃないか。
募る想いは高まるばかりで――
∀・)連載をはじめました!野田栄一郎&綺羅めくる主演のホームドラマになります!