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学園入学

 学園は寮住まいと登校組に分かれる。

 それは単純に距離の問題で、毎日登校することが困難な人は三年間の学生生活を寮で過ごす。

 舞台となる学園は王国一の規模を誇っているため、王国中の至るところから貴族の子供や才能ある平民の子がやって来るのだ。


(こうやって改めてみると、ゲームユーザーとしては感慨深いものがあるなぁ)


 入学当日。

 登校組であるイクスは聳え立つ校門を眺めていた。

 校門から覗くのは広大な敷地に巨大な校舎。それは、何人収容できるのかと思わず疑問に思ってしまうほど。流石は王家が管轄する、王国一の学び舎だ。


「ご主人様、入られないのですか?」


 後ろからカバンを持ったセレシアが声をかけてくる。

 その姿はいつものメイド服ではなく、卸したての学生服。いつもとは違った服装に、どこか新鮮さを感じてしまう。


「……なんかさ、こんだけ広がったらトイレに行く時かなり苦労しそうだよね」

「この風景を見てそんなことを仰れるご主人様であれば、苦労することはないでしょうね」


 あとでトイレの場所だけ確認しとこ、と。

 イクスはようやく校門を潜り抜ける。


「しかし、分かってはいましたが……ご主人様はやはり注目枠の常連さんですね」


 セレシアはさり気なく周囲を見渡す。

 入学当日。そのため、自分達と同じような降ろしたての制服を着ている生徒達がチラホラ見える。

 その生徒達は、自分達……というより、イクスの方をチラチラと見ており―――


『おい見ろよ、バンディール伯爵家のあいつがいるぞ』

『チッ……分かっちゃいたが、ほんとに最悪』

『模擬戦とかしねぇかな……そしたら本気でぶん殴れるのに』


 ただ学園に入っただけでこの言われよう。

 今まで何をしてきたのか、本当に気になってしまうぐらいのヘイトの溜まり具合いだ。

 セレシアの足が止まる。

 そして、声の聞えた方へ顔を向け、


「……処しましょうか?」

「君は平和な一幕に何を言っているんだ?」


 中々猟奇的なお嬢さんだ。


「ですが……ッ!」

「安心しろ、処すのはもう少しあとだ」


 こちらも中々猟奇的な発想をお持ちのようだった。


「失礼しました……そうですよね、学園で学んでいく以上は剣術、魔法、実践といった授業で必ず戦える機会がございますものね」

「あぁ、ボコすのも処すのも見せつけるのも、そのタイミングで構わない」


 無理に荒波を立てることはない。

 学園では色々なことを学んでいく。セレシアの言った通り、この世界で生きていく上で必要な武力項目の授業がある。

 こうして聞こえてきた声を黙らせる機会など、今から自分で作らなくても勝手にやって来るのだ。


「確かに実力は見せつけたいが、この歳になって教師からの説教なんてごめんだ。悪評だけでなくてお恥ずかしいお話まで風の噂になったらシーツに丸まって引き籠る自信があるぞ」

「意外とメンタルお子ちゃまですね」

「俺は他人の唇を噛み締める姿が見たいだけであって、俺が恥ずかしい思いをしたいわけじゃないッ!」

「その発言はイクス様らしいです」

「フフフ……早く主人公達にこの今の俺を見せつけてやりたいぜ」


 どんどん悪役イクスに染まってきているようで何よりだ。


「そういえば、ご主人様」


 セレシアが懐から一枚の紙を取り出す。


「事前に調べてみたのですが、今年は中々に凄い面子が入学されるようですよ」

「あぁ、そうだな」

「第二王女に、公爵家のご令嬢、噂の聖女様に大陸に広がる有名な商会の娘さん、さらに「勇者の再来」と呼ばれる男までが、この一年に入学されるのだとか」


 メイドの少女からしてみれば驚くようなことなのだろうが、イクスとしては特段驚くようなことではなかった。

 何せ、この面子こそがゲームの主要キャラクター。

 事前に知っており、その面子に殺されないよう今まで努力してきたのだ。

 シナリオが進めば、この学園でそのキャラクターを中心に破滅フラグが生まれるだろう。

 殺されないよう、刃向かえない相手だと知らしめる。

 そして、逆らってくるようであれば鍛え上げたこの体で―――


「その面子をぶん殴る」

「ご主人様、その発言だけだとただの無差別な暴行犯です」


 教師から説教を受ける日も近そうだなと、セレシアは思ってしまった。


「まぁ、それは置いといて。実は俺、地味に楽しみにしてるんだよな」

「悔しがる顔を見られるからですか?」

「それもあるが、単にうちよりも魔法書も鍛える環境も揃っているからな。正直、早く色んな施設を見てみたい」


 イクスは辺りを見渡しながら、そわそわし始める。

 自分磨きのドMっ子は、どうやらこの学園の充実した設備を思い出して探していらっしゃるようだ。

 殺されないように鍛えてきたはずなのに、今となっては鍛えることに目がなくなってしまっている。


「であれば、まだ入学式まで時間がありますし……見て行かれますか?」

「おう、早く行こうぜ!」

「今日一の目の輝きようっぷりに、メイドは少しキュンとしてしまいました」


 セレシアは少しだけ抱き締めたい衝動に駆られながら、今にも走り出しそうなイクスの背中をついていくのであった。









 そして———


「ご主人様、もう入学式始まってしまいましたね」

「うん、完全に遅刻だな」


 イクス達は、声が聞こえる講堂の外で頬を引き攣らせてしまっていた。

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