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討伐後

「はぁ……まったく、ご主人様は」


 ぐるぐると、セレシアはイクスの腕に包帯を巻いていく。

 頭や胸、足にまで同じような包帯が巻かれており、傍から見るとかなり痛々しい姿だ。

 そんな子供のやんちゃでは済まない怪我を追ったイクスは現在、自室のベッドで寝かされていた。


「ふふふ……あれだね、文明格差があるとしてもファンタジーって凄いよね。骨折とかしたのにもう腕が動くや」

「何を仰っているのかよく分かりませんが、治癒士の魔法はただ骨を繋げただけで動かしてはダメですからね」

「うぅ……」

「夜な夜な一人でナニする時も、必ずメイドを呼んでください」

「呼ばねぇよ!?」


 そこまで世話されるつもりはない。


「しかし、ご主人様がここまで怪我をされる魔物が現れたとは。あの時、追いかけていればご主人様がこのような怪我をすることも……ッ!」

「いやいや、いたとしても俺の獲物だし、セレシアには控えてもらってた───」

「私は今日という日ほど悔いたことはありませんッ!」

「テンションの落差が酷くて慰め方が分からない」


 先程まで甲斐甲斐しくお世話をしていたというのに。

 今の顔は、剣を手渡せばすぐさま自分の首を切ってしまいそうなほどであった。


(合流した時はほんと、凄かったもんなぁ……)


 治療してもらおうとセレシアに合流。

 すると、セレシアは「大丈夫ですか、ご主人様!? 腕があらぬ方向に……あぁ、頭まで!」と、すました顔とは縁遠いほど慌てた。

 それはもう、転生前含めての人生で初めてのお姫様抱っこを奪われるほどに。


「ま、まぁ……俺も自分でやったことだしさ、ぶっちゃけ気にしないでほしいわけなんだが」

「……昔のご主人様であれば、この段階で私の血でカーペットが汚れていましたのに」


 確かに、昔の傍若無人が激しいイクスであれば、駆けつけなかったセレシアに対して酷い罰を与えていただろう。

 しかし、今のイクスがそうすることはない。

 むしろ「自分で自分の血をぶち撒かないか?」なんて心配するほどだ。


「それで、ご主人様」

「ん?」

「《《無事に助けられましたか》》?」


 なんでそんなことを聞くんだろう?

 よく分からず、イクスは思わず首を傾げてしまう。

 その姿を見て、セレシアは───


(ふふっ、やはり自分の優しさに気づかれていらっしゃらないですね)


 自分を助けてくれた時と一緒。

 体が誰かを助けるために動いてしまう。

 もちろん、イクスが自分で言っているように「自分の経験を積むため」というのもあるだろう。

 しかし、その中にひっそりと滲んでいる優しさ。

 そこに自分も救われた。

 恐らく、今回も「経験を積むため」だけではなく、その優しさが働いたのだろう。

 あくまで勘。

 しかし、救われたからこそそう思ってしまうわけで───


(まぁ、ご主人様のそういうところを知っているのは私だけというポジションも、正妻感あっていいのですが♪)


 言わないでおこう。

 その方が互いにいい気がするし。

 セレシアはいつになく上機嫌な笑みを浮かべて、テーブルに置いてある林檎を剥き始めた。


「そういえばさ、学園に入る準備とかできてんの?」


 そろそろ学園に入る頃合い。

 ゲームをやっていた時はそもそも学園から始まっていたので、それまでにすべき準備などは描かれていなかった。

 今日まで、研鑽ばかりで何もしてこなかったイクスはセレシアに尋ねる。


「ご安心ください、ご主人様。私は強くて超絶可愛い女の子ではありますが、メイドとしての職務を忘れたことは───」

「あぁ、確かにめっちゃ可愛いよな」

「…………………………ご主人様のばかっ」

「何故に!?」


 自分で言ったことなのに、と。唐突な「馬鹿」発言に驚くイクス。

 しかし、自分磨きばかりに勤しんで乙女心など学んできたイクスは知らない───これはボケで、正面から肯定されると嬉しさと照れが押し寄せてくるということを。

 セレシアは顔を真っ赤にしたまま、誤魔化すように咳払いをした。


「ごほんっ! と、とにかく……ご安心ください。いつでも通えるように制服から必要品まで準備は整っております」

「おぉ、流石! ありがとうな、セレシア!」

「いえいえ、これもメイドとしての務めですので。あとでなでなではしていただきますが」

「腕が治ったらしてやるよ」


 やった、と。

 セレシアは可愛らしくガッツポーズを見せた。


「しかし、まぁ……一介の平民である私がご主人様と同じ学園に通う準備をするというのも、不思議な気分です」


 あーん、と。

 剥いた林檎をセレシアはイクスに差し出す。


「あーん……いや、俺は嬉しいぞ?」


 だって、味方が増えるし。

 ゲームでもセレシアは学生として学園に通っていた。

 ここで流れが代わり、唯一の味方を失うのはイクスとしては喜ばしくない。

 むしろ、嫌われたままの状態で清涼剤があるのとないのとでは雲泥の差。セレシア単体でかなりの戦力になるし、これから破滅フラグオンパレードな場所に足を運ぶ身としては、セレシアの存在は助かるものだ。


「ご、ご主人様にそう言っていただけるなんて……! 平民に与えられる特別枠確保のために試験官をボコした甲斐がありますっ!」

「…………」


 ゲームじゃ、こんな理由じゃ絶対なかったよなぁ。

 なんてことを思いながら、イクスは剥いた林檎をセレシアに食べさせてもらうのであった。



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