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刃血鬼  作者: Omsick
二章 盟団[巨刃織]
9/69

危機一髪

(当たったッ!)

 傷口を手で塞ぐ酔闇。

(今のうちに逃げ…)

 足を踏み出した刹那。

 がくん。と、赤亡は膝から崩れ落ちた。

 人間は1リットル以上の血液を失うと、命が危うくなる。故に貧血という、分かりやすい形での、体からのアラートが存在する。

(足が…動かない)

 手を抜かれていた初戦とは違い、明確な殺意を持った敵との相対。幾度も刺された故の流血。それら全てが重なり、赤亡の体には深刻なダメージが蓄積していた。

「なら…這いつくばってでもッ…!」

 革靴で歩いてくる音。

「こレだかラァァァ…ガキは…嫌いナんだよォォォォ…!」

 赤亡の表情は絶望に歪んだ。

 ―――

 赤亡が一矢報いる数分前。

「…ねぇ」

「言わずともわかる。吸血にここまで掛かるものか?」

「今ってさ、中年のオッサンが居酒屋から帰宅するくらいの時間帯じゃん」

「…まさか」

「一人いるでしょ、酔闇ってやつ。あいつに遭遇したのかも」

「…奴が所属する盟団[巨刃織]はここからすぐ近くに拠点がある。あり得るとすればそれが濃厚かもしれん」

「やっば、助けに行ったほうが――」

 彼らは感じた。何者かの沸血を。

「…これさ」

「本当にまずいかもしれない。血走、行ってきてくれ」

「団長はどうすんのさ!」

「巨刃織の連中がここに来るかもしれない、私は居残らせてもらう」

「常套句にしか聞こえないけど…分かった、行ってくるね!」

 ―――

「つってもどこにいるんだろ。そう遠くには離れてない気がするけど」

 沸血は、発動すると周囲の者に大まかな位置を悟られる。現在血走は、それを元に赤亡の存在を探している途中だった。

「ここ大通りでしょ?わざわさ細い路地に逃げ込んだりするかねぇ」

 自身の刃術、血飛沫の輪(イネルデストロピレ)。くぐった者に対し、指定した方向へ、慣性を無視して加速させる輪を出現させる能力。血刃の位置がそのまま輪の位置となるため、投擲すれば遠くに出現させられる。

「えーと、あれかな。相当まずいんだけども」

 赤亡と予想される人物を発見し、冷や汗をかく。

「うー…んと、ボッコボコにされてるよね」

 冷や汗の原因はここにある。

 周囲には大量の血痕。赤亡と予想される人物は傷だらけ。対し敵であろう巨漢は殆ど無傷、血痕の量を見て判断するのなら、彼は今血刃の使用もままならない程の出血をしているはずだ。

「ま、いっか。とっとと助けるに越したことはないね」

 血走は肩の紋傷から、血刃を引き抜いた。胸元に構え、下方向へ加速する輪を出現させる。

「間違っててもいいや、一発刺すだけだし、死にはしないでしょ」

 方向を横に変え、低空飛行のような状態で更に加速する。

「はいそこ、一回離れてくれない?」

 速度を維持したまま、血走は巨漢の太ももに血刃を刺す。同時に輪を起動し、巨漢を前方へ吹き飛ばした。

「…血走、さん?」

「よかったー、やっぱ赤亡であってたか。とっとと帰るよ、下手したら死ぬから」

 血走の声は。

 安心ゆえか、もう既に赤亡の耳には届いていなかった。

「…死んだ?待って待って待って、急がないと!」

 ―――

「…今日は一緒じゃないのか、心做」

「仕方ないでしょ、急ぎだったんだから。この子が死んだらまずいんだよ」

「事情は良く知らんが、割と重症だぜ?結構高めに取るけどいいか?」

「別にいいよ。あの人が何か買ってるとこ見たことないし、買ってたとしても私達へのプレゼントだったり、治療費だったり」

「身を粉にして自分の部下へ…これ以上ない上司だな」

「駄弁ってる暇はないよ。いいからさっさと治療してくれない?」

「心做呼んどけ、その場で払ってもらわねえと気が済まん」

 欺偽 療病(あざむぎ りょうや)。現在[赤連]に雇われている治療師である。

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