作戦勝ち
「それにしても…」
眩奈が口を開く。
「そのバ火力刃術持ってるくせして、ただ光るだけの刃術に苦戦するなんてね」
「いつまで煽れば気が済むのかしら?」
「ふふっ、あんたが死ぬまで。そう、それまで口が閉じられることは無いわ」
煽ることで誤魔化しているが、眩奈の体は既に限界を迎えつつあった。
突破沸血。沸血よりも血液の燃費が悪化した変わりに、特殊刃技の増加と更なる身体能力の上昇を得ることができる刃血鬼の最高到達点。血液消費量は基本的に一分で約50mL、つまり命が危険に晒される出血量1Lに約20分で達してしまう。加えてそれとは別に、血刃の生成や刃術の発動にも血液を要する。諸刃の剣という言葉が最も似合う、ハイリスクハイリターンな技術である。
眩奈の刃術は血液消費が控えめであり、乱発しても大きな問題にはならない。
だが、円火を追い詰めるために血刃を惜しまずに使った結果、かえって己の首を絞めることになっていた。
(…もう、撃てない)
しかし実のところ、寧ろ円火の方が危機的状況に置かれていた。眩奈の血刃を消すために放った爆炎のビーム、決戦場を作るために出した複数の炎とそれの維持に加え、眩奈による煽りに激怒し無意識のうちに発動させた突破沸血。
「キレさせて無駄な血液消費を増やし持久戦で潰す」戦法を取る眩奈と、「とにかく高い火力で短期決戦を狙う」円火。両者の決戦は、既に終盤に差し掛かっていた。
「「…殺す!」」
地面に置かれた無数の血刃のうちの一つを発光させて眩奈は距離を詰める。円火も血刃から炎を出し応戦。炎は刀身を型取り、まるで巨人が使う得物のようなサイズへと成った。
「特殊刃技:光光世界!」
「☆焼却処分:切り咲く爆炎☆」
円火が血刃を振り下ろす直前、眩奈の特殊刃技が命中。しかしその手が止まることは無い。
「…させないッ!」
眩奈は目を瞑った円火の顔面を蹴り、体勢を崩す。
「鬱陶し――」
目を開けた円火の視界は、夜とは到底思えないほど明るかった。
光光世界。発動時の光を浴びた者の視界を、真夏の快晴日よりも明るくする。刃血鬼は夜目が利き闇に慣れている以上、これを喰らうことは視界を一時的に失うことに等しい。
「…さて、トドメは任せるわ。私はあっちに加勢してくる」
「何を言って…」
言いかけた時、円火の左腕が体から切り離された。
「一日ぶりだな…災禍の炎さんよぉ!」
「その声…ああ、電車の」
彼女の背後に立っていたのは怨野だった。
「眩奈の功績を取る事になるが、本人がいいってんだからいいよな?」
「醜いわね…だったら最初から二対一で挑めばよかったじゃない…」
「一対一で負けてるテメエが、二対一で勝てるわけねえだろブスが!」
「皆うるさいわね…☆焼却処分:萌尽き光線☆!」
正真正銘、最後の大技である。
「残念、当たんねえよ」
再び放たれた極太ビームはビルに直撃。壁を溶かし、炎を上げながら貫通した。
「じゃーな」
怨野は彼女の背に斬撃。血が噴き出し、その場で円火は倒れた。
「ああ、トドメは刺さないでおく。再起不能にはするけどな」
円火の両腕、両足のくるぶしから下を切断。
「ゔぁぁぁぁ!」
抵抗できない強さの者と敵対する恐怖。それに痛めつけられる恐怖。味わったことのない二つの恐怖を一気に体験した円火の感情は、やがて屈辱感へ、そして全て憎悪へと変貌した。
「…いつか、必ず…!」
「あ?無理無理、お前は今から俺の糧になんだからさ。罪がデカすぎるんだよ、お前」
怨野は円火を連れ去り、夜の闇に消えた。




