VS.謎の青年
乱の頭から血が吹き出す。
「あづい…あづい…ィィィィ!!」
体をまるごと縛られているため、乱は陸に上がった魚のようにのたうち回りながら、悲鳴を上げることしかできない。
「誰かの援護?それなら納得が行くけど」
系糸が辺りを見渡すも、周辺には誰もいない。撃たれたと思われる方向も確認したが、特に人影らしきものは見当たらなかった。
「おかしいな…どこかから攻撃されたとしか思えないんだけど」
その言葉に反応するかのように、真夜中の大通りに銃声が響き渡った。
「―――!!!」
言葉にもならないような悲鳴を上げて、系糸はその場に倒れ込んだ。
(撃たれた!?どこから?いや、それどころじゃない!足が…燃えるように熱い!!)
被弾箇所は脛、尖った焼け石で貫かれているような感覚が彼を襲った。少しでも前に出ようと系糸が手を伸ばした矢先、再び銃声。
「ゔぁぁぁぁっ…あぁぁ!!!」
伸ばした腕を狙い撃ちされ、強烈な痛みの中で、系糸は気を失った。
「―――」
誰もいない夜の空間に、足音が谺する。
「…うん、ありがとう。君はそのまま待機してて」
青年は、何者かと電話しながら、系糸に近づく。
「合図したらすぐにこの子を撃っ――あれ、切れちゃった」
青年は、スマートフォンを投げ捨てて、踏み潰す。しかし表情に怒りは一切見受けられず、寧ろ喜んでいるとさえ捉えられる。
「気配がするね…やられたのかな?」
直後、青年を膨大な熱気が襲った。
「うわ、沸血?なんだよもう、邪魔しないでくれないかな」
青年の背後に立っていたのは他でもない――[赤連]を統べる皇帝、心做だった。
「怒りより放たれる爆炎。血走、赤亡を避難させろ」
小型のマイクで血走に情報を伝えると同時に、血刃を青年に投げた。
「甘いよ、そんなので怯むと――」
青年が弾こうとするも、爆発。炎を上げながら、血刃は燃え盛った。
「へえ、どんなトリック?君の刃術ってそんなのじゃなかったよねェ?」
青年はどこからか血刃を取り出し、地面を蹴って接近する。力強く、しかし軽やかな動きで。
「チッ、来るまで耐え忍ぶしか無いか…楽を守りし堅牢な防壁」
額から血刃を取り出して、系糸の方へ投げる。系糸の真上に到達したところで、血刃は砕け散った。
「これでしばらくは安泰だ…さて、開戦といこうか」
血刃を順手で構え、心做は青年に飛びかかった。
キンッ、という金属音が火種となり、激しい攻防が開始したのだ。
「いいねェ、仲間がやられて燃えてるその感じ」
(血走…早くしろ。突破沸血はまだ使いたくない)
〈分かってますよ…え、ちょっと待って?こいつら人間なの!?〉
(何を言ってる?)
定期的に爆破を織り交ぜ、通話音を誤魔化す。心做は通信を切っておらず、連携を取りながら戦闘しているのだ。
「…なんか、僕に聞こえない独り言でも言ってるのかい?」
(埒があかない。血走、命令を変更する。全ての任務を放棄し、赤亡の回収に努めろ)
〈おっけ、今行きますね!〉
直後、青年の背後から血走が猛スピードで突っ込んできた。
〈団長!〉
「分かっている…突破沸血!!」
心做は、周囲を砂漠にしかねない程の膨大な熱量を放出。全身から湯気が立ち上り、滝のような汗が流れていた。
「今だッ!」
青年が熱量に気を取られている隙に、血走は赤亡を抱えて離脱。心做も血走に続いて走り出した。
「いや、逃がすわけないでしょ?」
青年は血刃を地面に埋め込んだ。しかし心做はそれよりも早く血刃を投擲。
「何であろうと邪魔はさせない…失せろ!|探し出し打ち砕く憎悪の刃!」
爆炎を纏いながら、パトリオットミサイルのようにピンポイントで青年に向かっていくが、彼の表情は依然として変わらなかった。
「血走、手を貸してくれ」
「団長、走っても十分速度出るでしょ?」
周辺一帯を更地にしそうなほどの爆発に隠れ、心做達は急いで拠点へと戻って行った。
―――
「あれから[調査隊]が随分と――む、起きたようだな」
「…定目は…ん?」
系糸は起き上がり、自分の足を確認した。毛一つ生えていない、まっさらな足だ。
「何だったんだ、あれ…」
「よかったー、治ったんだ!」
系糸に近寄って、血走は言う。周辺視野で療病がいるのも分かった。
「すみません、何度も。療病さんも」
「礼と金は同じモンだ。伝えたけりゃ金で物言え」
「払うのは私だ。お前は彼からの気持ちを受け取るだけでいい」
心做は述べて、札束を渡した。
「ちょうどよかった。今から話に入るとこだったんだー」
血走がニコニコしながら言う。
「…[白虎十字軍]なる組織が最近出没し始めている。名の通り、おおよそ系糸と同じくらいの歳の人間で構成されている」
「「名の通り…?」」
血走と系糸が、同時に首を傾げた。
「白虎隊という、幕末の会津藩に存在していた少年兵の組織だ。十字軍はキリスト教徒が異教、当時のイスラム教から聖地を奪還するための遠征軍だな」
「異教?この場合は鬼神とか?」
「統率者が刃血鬼だからその線は無いはずだが、罪狩りの赤亡が撃たれている以上否定もできない」
「まさか」
系糸が目を見開く。
「普通の銃弾では刃血鬼にダメージは入らない。しかし…あるのだ、銀の弾丸、通称を銀弾とする忌まわしき道具が」




