「僕自身の手で」
「…んー…」
「あ、赤亡くん!」
「…治療は成功のようだが」
欺偽が口を挟む。
「何?金は払ったじゃん」
「やめろ血走。狭いのだろう?すぐに帰る」
「分かってるじゃねえか、団長さんよ」
ニヤつく欺偽を無言で殴り飛ばし、舌打ちする血走。
「なんか癪に障るんだよね、君の一挙手一投足全てが」
「ひっでえ言われようだなそいつは」
頭上、脳内、目の中全ての箇所に?を浮かべている赤亡に、心做は耳打ちする。
(すぐ帰るから安心しろ、彼らは仲が非常に悪いんだ)
?マークが目の中から薄れる。
「…はぁ。治してもらった立場上あんまり強く言えないよ…覚えといてよ?」
「残念だったな血走。俺じゃお前に勝てない」
「今なんて…今なんて?」
お前じゃ俺に勝てない、と一瞬誤解した血走。
「え?え?」
赤亡の、頭上と脳内の?は未だ払拭されていなかった。
―――
「で、何だったんですかあれは」
開口一番、赤亡が質問する。
謎の男との激戦の後、何故か6畳間の部屋の床で寝転がっていたのだ。当然である。
「欺偽療病。事実上の[赤連]専属医師だ」
「事実上?なんでですか?」
「腕《《だけは》》いいんだよ。性格終わってるから、私達しか依頼する人がいなくてね」
だけ、という部分をやたら強調する血走。
「ところで赤亡、お前…その、なんだ。お祓いにでも行ったほうがいいんじゃないか?」
「え?」
「お前が交戦した酔闇泥次は、この地区でも指折りの実力者だ。お前が戦って勝てる相手じゃなかった」
「なんで死なななかったのか不思議なくらい。あーいや思ってるわけじゃなくてね?」
疑ってもないのに弁解しだす血走。
「戦闘開始の原因は?」
「…すれ違ったから、くらいしか」
「…あー」
顔を押さえてため息を付く心做。
「映画を見に行く途中に惨殺現場に遭遇。刃血鬼化させられ、日光が浴びれず飯も食えなくなった挙げ句、レベルに見合わない強敵と鉢合わせして生死の境を彷徨う…かける言葉が見つからない」
「なんかもうホント…ね」
「世界規模で見たら、生きてるだけ運は良いと思いますけど」
「なんとまぁ高尚な」
この有り様でもなお物事を俯瞰で見ることができる赤亡に、血走は感嘆の声を漏らす。
「人生はあみだくじだ、選択してからでなければどうなるかわからない。出発点は君が決めるべきだが、下手を打てば今回のようになる」
心做は真剣な眼差しで話しだした。
「それを踏まえて聞きたい。君は、このまま―――刃血鬼として生きたいか?」
「…いいえと言ったら?」
「…言ったろう、選択してからでなければどうなるかわからない、と」
「…僕、酔闇との戦闘中に思ったんです。なぜ僕がこんな目に合わなけりゃならないのかって。さっきは強がりましたが、僕は本当に不幸だと思っています」
「まーそうだよね、漫画の主人公じゃあるまいし。よかったー、ちゃんと精神は一般のままだ」
剣呑な雰囲気を和らげようと、血走が少し明るめに言う。
「仮にいいえと言ったとしても、今のところ人間に戻ることが可能というのは聞いたことが無い。故に、私が痛みを与える間もなく介錯しようと思ったが」
「…話を続けますが。こんな事になった原因は怨野にあります。僕はあいつから事情を聞き出すまで死ぬわけにはいかないんです」
「…なるほど」
「正直、刃血鬼なんて反吐が出るほど嫌です。得るものよりも、失う物の方が多いし。でも、原因に報復したい。謂わば復讐心なんです、この心の原動力は。怨野に事情があれば、原因を完膚なきまでに潰す。それ以外なら、怨野を嬲り殺す。最初から刃血鬼ならまだわかりますが、途中から人の生を崩されるなんて理不尽なんですよ!」
段々と口調が激しくなる赤亡。
「つまりは――生きたいと」
「はい。他の誰かじゃなく、僕自身の手で遂行するために」
「…原動力が何であれ、こちらとしても仲間が増えるのはありがたい。このような事柄もよく起こるのだ」
外から響くのは足音だった。




