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【書籍化】お飾り妻アナベルの趣味三昧な日常 ~初夜の前に愛することはないって言われた? “前”なだけマシじゃない!~  作者: 重原水鳥
第一章 ライダー夫人アナベルの日常

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【22】ブリンドル伯爵家のあれやそれ・終

 ブリンドル伯爵家の問題のパーティーは、大盛況で幕を閉じた、そうだ。

 当日参加していない私は又聞きしただけだが、少なくとも表面上では殊更な不満が出ている感じではなかったと聞きホッとした。


 当日の様相は、家族からの手紙が次の日アボット商会から届いてよくよく分かった。家族それぞれから手紙が来ていたのだけれど、まずジェイドとレイラの手紙から読むことにした。



 末の妹レイラの手紙では、色々な人の服装を見れて楽しかったと書いてあった。おしゃれに興味のあるお年頃で、他の家の人と会う機会も殆どない生活を送っていたから、色々な体型髪型年齢の方がそれぞれに合わせた服を着ているのが面白かったようだ。ちなみに私がドロシアに頼んだ服はパーティーに間に合ったらしい。嬉しそうに跳ねた文字での感謝が綴られていた。既製品でも良いと言っていたから既製品に手直しを施して準備してくれたのかもしれない。参加した人々はそのドレスも褒めてくれたようでご満悦だった。殆どが服の話で、レイラの手紙の中では『窓際に立つ炎夫人』とか全体の様子はあまり分からなかった。まあまだ十二歳だし、興味がある事以外はさほど意識しなくても仕方ないだろう。



 上の妹ジェイドの手紙によると、パーティーの間中ジェイドは殆どレイラと一緒にいて、レイラが何か失礼な事をしてしまわないように見張っていたようだ。どうやら事前にマナーの再講習とかもしていたらしく、ショーン様から話術を少し教わっていた事もあり、問題はなかったようだ。良かった。ジェイドのドレスも無事に届いていたのでそれへの感謝が改めて綴られており、真面目で素直な妹たちだと思う。



 フレディからの手紙では、やっと全体の様相が知れた。――のだけれど、フレディの手紙はレイラ並に興奮が伝わってくる破裂したような文字で、とてもではないが冷静さがないのだけは、よくよく分かった。ただレイラやジェイドの手紙に比べれば全体の様子が分かったのだけれど。

 そして分かったのは、中々、ブリンドル伯爵家に分不相応なパーティーになってしまっていたらしいという事だ。まあ、ブロック館長が『窓際に立つ炎夫人』なんてものを持って参加する事が決まった段階でそうだろうとは思っていたのだけれど。

 なにせ王都でも有名なカンクーウッド美術館の館長本人が参加しているというだけで、そういう方々と縁のない人にとっては衝撃である。普通なら我が家のパーティーに来るなんてありえないので、ブロック館長の来訪を想定していなかった参加者たちは目をむいたし、その館長が「今回の詐欺の話をお聞きしまして……何とか代わりの目玉になる物がないかと友人に尋ねて借りてきたのです」とヘインズビーの『窓際に立つ炎夫人』の絵画をお出ししてきたため、目玉飛び出そうになってる人が大多数だったらしい。それはそうだ。

 それ以外に驚いたのは、なんとパーティーにはショーン様とメラニアも参加していたという事。え、聞いていない。手紙を読みながら素で声が漏れてしまった。

 フレディの興奮が凄まじいのはところどころ力を入れ過ぎたようで紙が破れかけているのからも見て取れた。……一応、彼から見てパーティーが失敗したという風はなかったようで、それは本当に良かったと心から思う。



 次に読んだのは父からの手紙だ。本来、今まで読んできた順番なら母の手紙を先に読むべきだろうが、ブリンドル伯爵家の場合は、父からの手紙を先に読んで母の手紙で落ち着きたい。

 父の手紙は全体的に、困惑と焦りが見て取れた。パーティー自体は成功で終わり、これからも度々縁を繋いでいけそうな家がいくつかあったようだ。それはいいのだけれど、ともかく肝が冷えたという言葉が手紙の文中に何度も登場した。勿論、ブロック館長と『窓際に立つ炎夫人』のためだ。

 館長と絵画の件はパーティー前日、私が館長と会った次の日には手紙で連絡していたものの、いざ届いてひっくり返ったらしい。「我が家の全財産かけても手に入らない絵画が何故か我が家にある恐怖は二度と体験したくない」と父の手紙には書かれていた。それはそうだと思う。まともな泥棒対策もない家に、一日二日と言えど、我々からしたら国宝並の作品があったら、何かあったらという恐怖は拭えないだろう。一応、契約書の通りならば何かあった時の責任を取るのはブロック館長なのだが、「ブリンドル伯爵家で盗まれた」「汚された」なんて話はついて回るはずなので、そういう意味でも父が悲鳴を上げている様子が簡単に想像つく。

 こちらでもショーン様やメラニアの話は出てきていて、二人はいつの間にかパーティーの中心になって場を盛り上げてくれていたらしい。もうメラニアにどういう形でお礼をすればいいのか分からない。



 最後に母からの手紙を読んだのだけれど、母はパーティーが無事盛況で終わった事を喜ぶと共に、困ってもいた。

 次からもこれを期待されると困るという素直な感想で。

 いや本当にこれに尽きる。今回のパーティーの主役としてブリンドル伯爵家がちゃんと存在感を出せたのか少し不安だし、場を盛り上げてくれたのがアボット商会長夫妻だとすればそちらの成果では? という気持ちもする。彼らに毎回参加してもらうのは難しい。だってとてもお忙しいと思うのだ。メラニアだけならばもしかしたら来てくれるかもしれないが、夫妻揃って参加し続ける利点がブリンドル伯爵家には現状ない。……ブリンドル伯爵家が今後努力して、アボット商会に利点を提供できるようになれば、パーティーには来てくれるかもしれないが、ブロック館長は本当に今回だけの特別ゲストでしかない。『窓際に立つ炎夫人』も同様だ。あの絵画を見たいからとブリンドル伯爵家と関わった所で、伯爵家にはないのだからどうしようもない。勿論、その旨はちゃんとブロック館長も説明はしてくれたと思うのだけれど……。

 ともかく、次回からブリンドル伯爵家だけでパーティーを開くとして、今回のような高いクオリティのパーティーを期待されてしまうと肩透かしで余計に残念な結果になる可能性がある。

 それもあって、母は暫くはパーティーは開けないかもしれないと手紙に綴っていた。今回の成果で他の家から誘いの手紙もちらちら届くようになったので、暫くは大人しく、参加者として出る事の出来る範囲の社交に出掛ける事にするようだ。

 それから、父が思い切り騙されて贋作を買っていた件だけれど、不安に思っていたような形で馬鹿にされる事はなかったようだ。むしろ同情的だったという。……どうやら私もブリンドル家も把握していなかったのだが、例の画廊が大本だった贋作を売買していた集団は、ブリンドル伯爵家より遥かに有名ないくつかの家にも様々の画家の作品という体で贋作を売りつけていたらしく、むしろ現在はそちらの有名な家々の噂で燃え上がっているらしい。同じように燃えている火種があるとしても、ブリンドル伯爵家は知名度の問題もあって小さな焚火程度、その横で遥かに有名でかつ大きな顔をしていた家が一軒丸ごと燃えそうな勢いで燃えていたら、焚火など気にもされない……という事だったようだ。そちらの家にも元々多少問題があった面があるようだが、想像より遥かに燃えてしまっていたようで今界隈は大騒ぎなんだという。ブロック館長が言っていたのは、この事だったのか。ショーン様やメラニアは勿論この事を耳に入れていて詳しく知っていたし、ブロック館長も彼らとは別方面から情報を仕入れていたので、噂話大好きな貴族たちは大満足して帰っていったようだ。

 ……そういえば何故かショーン様とメラニアが参加していた件だけれど、母の手紙でも当然のように参加していて困惑した。参加することになったのなら私にも何か連絡がありそうなのものなのにと。ただこれについてはおかしな話――というか、私の耳に届いていなかったカラクリが後々判明している。どうやら母からはアボット夫妻が参加したいと申し出があったので、受け入れたという連絡の手紙が出されていたらしいのだが、手紙配達が遅かったせいで私の元に届いていなかったようなのだ。

 ただ、こまごま困りごとはあっても、久方ぶりのブリンドル伯爵家主催のパーティーは成功で終わっている。それが何より良かったと母は安心していた。

 最後には私に対しての感謝の言葉が綴られていた。



 すべての手紙を読み終えた私は、すぐにジェマに言って紙とペンを用意した。そしてメラニアとショーン様、そしてブロック館長と、『窓際に立つ炎夫人』を貸し出してくれた名も知らぬ貴族の方へのお礼の手紙を書き記した。

 私は参加出来ないのに、ブリンドル伯爵家のパーティーのために尽力してくれた方々に、本当なら直接訪れてお礼を言うべきだろう。しかし今は少しの間、外出禁止令に近いものが出てしまっているために直接会いに行く事は出来ない。まあ最後の絵画の持ち主に関しては、私は誰かすらブロック館長から聞いていないのだけれど。……館長が教えて下さらなかったから聞かない方が良いのだと思って聞かなかったのだ。絵画から持ち主を調べる事は可能だが、館長からのお声がけだったからとはいえ、価値の高い物を貸し出してくださった方にそんな失礼な事は出来かねる。とはいえ礼を言わないのは、もっと失礼になってしまう気がして、申し訳ないと思いつつブロック館長に『窓際に立つ炎夫人』の持ち主へのお礼の手紙を添えた。相手が不要だと言われる場合はお手数だが処分して頂きたいとも添えて。


 全てのお礼の手紙を書き終えて、申し訳ないと思いつつジェロームに届けるのをお願いする。最近はジェロームに何でもかんでも頼みすぎな気がしたのだけれど、他の方に頼んだ方がいいだろうかと考えていた私の心を読んだのかのように、ジェロームは「私一人で対応出来かねる場合はこちらから、代理の者を提示して複数人でする事を提案いたしますので問題ありませんよ」と言われてしまった。……私はそんなに顔に出ていただろうか。少し恥ずかしい。



 とにもかくにも、久しぶりの家族からの手紙から始まった一連の問題は、こうして丸く収まったのだった。

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― 新着の感想 ―
あいかわらずのクソ旦那…… それに反して周りの温かい事
[気になる点] 国宝級というか、国宝そのものなのでは……? だから貸出人は秘密。と。
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