Menu19.弾劾トマト その7
聖堂騎士団という、俗称がいつの間にか正式名称へと昇格した名からも分かる通り……。
テンプル騎士団の活動支部というものは、基本的に聖堂や教会など、ミロス教にちなんだ施設を借り受けている。
それは、ここ王都ナタシャにおいても例外ではなく、目抜き通り内に存在するさる教会が、彼らの王都支部となっていた。
当然ながら、ここには元々在籍していた神官や修道士たちがいたのだが……。
今や、飛ぶ鳥を落とす勢いであるテンプル騎士団の要求に逆らうことなどできるはずもなく、表向きは快く――実態としては、強引にここを明け渡すことになったのである。
とはいえ、それはあくまでもミロス教内部における揉め事……。
それを知らぬ一般大衆からすれば、白マントに赤十字という分かりやすい……それでいて、一種の格好良さがあるシンボルを装着し、厳しい戒律で己を律する修道騎士たちというのは、尊敬に値する存在であり……。
近年、凋落著しい貴族階級の騎士たちよりも、好意的な眼差しを向けていたのである。
そんなテンプル騎士団の王都支部において、弾劾の裁判が開かれるという。
修道騎士たち自らが触れて回ったことにより、その噂は、たちまち王都中に広がった。
これには、裁かれるという者たちが、そうそうたる面子だったのも大いに関係しているだろう。
まずは、東方貿易会社の社長ヴァルター。
東方世界との交易路を開拓した英雄であり、彼の会社がハイデルバッハ王国にもたらした利益は、計り知れない。
続いては、裏社会の顔役として知られる男――ロンデン。
様々なしのぎに手を出している彼であるが、そこには一線が引かれており……。
意外にも、こういった場へ姿を現すのは、これが初となる。
それが、実態を問わずマフィアというものを毛嫌いする人間からは大いに受け、そういった者たちは、彼を引きずり出したテンプル騎士たちの手腕を口々に讃えたものだ。
造船所の所長デニスや、今年の王国優駿を制した調教師であるギードも忘れてはならない。
二人共、先の二名に劣らぬ名士であり、そんな彼らが、どうして弾劾の場に呼ばれるのか……人々の注目を大いに集めた。
そして、レデラー公爵家のご令嬢フロレンティア……は、今まで騒音の苦情が出なかったことの方が不思議なため、まあと受け流される。
だが、元ハンベルク公爵家のご令嬢アウレリアとなると、これは人々の耳目を集めた。
そもそも、公爵家ほどの高位貴族家が息女を追放するというのが、異例の出来事であり……。
今となっては、三ヶ月ほど前になるか……追放された当時は、それなりの噂になったものだ。
それが、今、再び何らかの問題を起こした。
有名人の醜聞というものは、大衆にとって、時に何よりの娯楽である。
他の面子が、不謹慎ながらあまりに豪華であることに加え、このように特殊な出自の娘までが加わっているのだから、話を聞いた者たちはますます盛り上がり、こぞって駆けつけたのであった。
そのため、安息日の今日……目抜き通りは、ちょっとした祭りのごとき騒ぎとなっていたのである。
駆けつけた大衆が、余さずこの裁きを見届けられるようにという配慮であろう。
目抜き通りの教会前には、テンプル騎士たちが集うための長机と、被告側が立つための長机が向かい合わせに設置されており、その周囲に、縄が張り巡らされていた。
傍聴人たる王都の民たちは、縄の外側に群れ集い、これを眺めるという配置なのである。
これを設置したテンプル騎士団にとっての誤算……。
それは、一傍聴人とするには、あまりに地位の高い者たちまで駆けつけたことであった。
まずは、第三王子オスヴァルトと第二王子クリストフ。
王家は、テンプル騎士団が各地で抱えているいざこざに口出ししている立場であり、それを踏まえるならば、騎士団とは水面下の敵対関係にあるといえる。
が、そこは国の象徴といえる存在であり……。
修道騎士たちとしても、無下に扱うわけにはいかず、特別な席を用意しようとして、第二王子にこれを固辞されるという一幕があった。
……それにしても、第三王子の頭に特大のコブが作られているのは、果たして何故なのだろうか?
王族ほどではないが、他にも高位の貴族が馳せ参じている。
レデラー公爵家の当主アンスガーと、ハンベルク公爵家の次女カーヤだ。
彼らに関しては、元も含むとはいえ、弾劾される側の親族であり、この場に駆けつけるのは当然であるといえた。
「まずは、傍聴のため駆けつけてくれた敬虔なる子羊たちに感謝を!」
裁く側に立っている修道騎士の一人……。
他の者と異なり、兜に羽飾りを付けていることから、王都支部の支部長であると知れる騎士が、朗々たる声を張り上げる。
――ワッ!
それに歓声で応えたのが、押し寄せている王都の民たちだ。
比率は、およそ三分の二といったところか……。
声を上げていないのは、東方貿易会社の社員やロンデンの配下たちなど、被告側の身内たちである。
「さて、それでは約束の刻限を迎えることだし、そろそろ、主の名における裁きを与えたいのだが……」
そこで、支部長たる騎士がじろりとした視線をヴァルターたちに向けた。
彼ら修道騎士は、この暑い中においてもフルフェイスの……バケツがごとき無骨な兜を装着しているのだが……。
その隙間から覗く視線は、実に高圧的で、粘性が感じられる種類のものである。
「報告では、問題の邪悪な宴が行われていた時、もう一人、ハンネなる女性が同席していたと聞いている!
それなる者の姿が見受けられないのは、何故か!?」
その言葉に、ヴァルターたちが互いの顔を見交わす。
どうやら、被告たちにとっても、全員揃わなかったのは予想外の事態であるらしい。
「公正なる裁きの場に馳せ参じないとは、その行為そのものが、自らの罪を認めているも同然!
もはや、いかなる弁明も、これは聞く必要なし……!
我らが罪状を述べた後、被告たちには速やかに罪を認めてもらおうと考えるが、王子殿下たちと、ここに集った良識ある者たちの考えはいかがか!?」
その言葉で、第三王子が喜色を浮かべそうになったが、これは第二王子によって制される。
そして、制した第二王子の方は、渋面を浮かべていたが……。
――ワッ!
集った民衆の内、被告側と無関係な者たちは、歓声によってこれを指示した。
彼らにとって、これはテンプル騎士団という正義が、被告たちという悪を誅罰する演目に過ぎないのである。
なまじ、被告側が成功者たちであるから、判官贔屓的な面白さも加わっているとみてよいだろう。
「……賛同に感謝する!
では、被告たちの罪状について説明するが……」
と、そこで修道騎士たちに異変が起こった。
何やら、伝令らしき者が駆け込み、支部長に何か耳打ちすると……。
支部長は、兜に顔が隠されていてなお、それと分かるほど驚いてみせたのだ。
そして、傍聴側の方を向いて、こう言ったのである。
「み、皆さん! 申し訳ないが、しばし待たれよ……!
この場に、教皇猊下が参じられると、たった今連絡が入りました!」
これには、この場へ集った全ての人間が、驚きの声を上げた。




