表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/115

Menu14.給仕の価値 その5

 レデラー公爵家が率いし、黒騎士団……。

 言わずと知れたハイデルバッハ王国最強の騎士団であるが、その精強さを表す言葉の一つに、このようなものがある。


 ――かの騎士団は、道を作る。


 これは、文字通りの意味であり……。

 黒騎士団に所属する者たちは、槍や剣……あるいは、包丁の扱いに加えて、スコップなど土木工具の扱いにも精通しているのだ。


 何故、栄光ある騎士たちが、そのような道具の扱いを学ぶのか……。

 それは、レデラー公爵家……ひいては、黒騎士団の成り立ちが、一地方の職人集団であったことに由来する。


 そもそも、一口に騎士といっても、その家産は様々なものであり、特に地方所属の者に関しては、豪農の方がよほど裕福な暮らしをしている場合も多い。

 従って、地方の下級貴族家というものは、ただ武器や馬の扱い方を学んでいるだけでは、暮らしが立ち行かなく……。

 結果、畑を耕すなり、他の職を手に付けるなどして、糊口(ここう)をしのいでいるものなのだ。


 かつて、北部の騎士爵家に過ぎなかったレデラー家もまた、そんな貧乏貴族家の一つであった。

 ただでさえ、土地が貧しく、鉱山開発を主産業としている王国北部であり……。

 必然、レデラー家が副業として選ぶのも、鉱山労働や土木工事などが主体となる。


 そんな彼らに転機が訪れたのは、北部に国境を制する隣国との(いくさ)であった。

 北部を守護する騎士家の一つとして、レデラー家の黒騎士団も馳せ参じたのだが……。

 ただ黒く染め上げただけのボロを見にまとった一党に、当初、豊かな南部出身の王国騎士たちは、嘲笑と侮蔑を向けたという。


 だが、戦場で黒騎士団が見せた働きたるや、絶大なり。

 先述の通り、王国北部は鉱山開発を主産業としており、従って、馬などが通行可能な道は極めて少なかったのだが……。

 黒騎士団は日々の土木工事で培った技術を活かし、山道を広げ、整備し、主力騎士団の行軍へ大いに貢献したのである。


 戦いというものは、足の速さによってすう勢が変わってくるもの……。

 地の利ならぬ道の利を得たハイデルバッハ王国は、この戦いに大勝し、大きな国益を得ることになった。

 その立役者となったのが、黒騎士団であることは誰も疑うことはなく……。

 しかも、ただ進軍に貢献したのみではなく、戦場での働きも勇猛果敢の一言であったことから、これを率いるレデラー家は中央貴族家の一つとして認められ、今日(こんにち)に至っているのである。


 かくして、土まみれの栄光を手にし、最強へと至った黒騎士団……。

 先祖たちのそれに劣らぬばかりか、ますます磨きをかけた工作力を今日、彼らが振るっているのは……飲み屋街の一角に存在する公園であった。


 先日、この場所では飲み屋街の料理屋たちが集結し、子供たちにシュークリームなる菓子を振る舞ったものだが……。

 そこに今、築かれているのは、即席の舞台であり、調理場である。


 舞台の中央には、レデラー公爵家から持ち込まれた豪奢な机と椅子が設置されており……。

 さらに、片隅にはいくつかの椅子が設置され、審議役たちが着席できるようになっていた。


 黒騎士団が誇る野営技術の粋を結集し、即席なれど十分な機能を誇る調理場に待機するのは、シュロスの店主であるアウレリアとその侍女マルガレーテだ。


 ――まさか、こんな舞台で審査をすることになるとは。


 彼女らの引きつった顔からは、この状況に対する困惑がありありと見て取れたが……。

 突然のお祭り騒ぎに集まった観衆たちは、なかなかの盛り上がりを見せている。


「一体、これは何の騒ぎなんだ?」


「何でも、ハンベルク公爵家絡みのいさかい事らしい」


「いさかいっていうと、ここで騎士様が決闘でもするのか?」


「いや……元ハンベルク公爵家のご令嬢が、ここで料理を披露するらしい」


「しかも、それがただ美味いだけでなく、給仕によってもっと美味くなってないといけないんだと?」


「へえ……給仕っていうと、マルガレーテちゃんか?」


「何だか、とんちじみた話だなあ」


 噂話や、あるいはこの場を整えた騎士からの話を受け、ざわめく観衆たち……。

 文字通り――ここに舞台は整った。


 舞台上に用意された、審議席……。

 そこへ続々と姿を現わし、着席していくのは、今回の一件に関わりし者たちである。


 東方貿易会社の社長――ヴァルター。

 配下たちにこの舞台を整えさせたレデラー公爵家令嬢――フロレンティア。

 謎の仮面戦士――ホースオーガ仮面。

 そして、ハンベルク公爵家令嬢であり、調理を担当するアウレリアの妹――カーヤ。


 彼らが着席したのを合図に、ある意味、この場の主役とも呼べる実食役が姿を現わしたのであった。


 ――コッ!


 ――コッ!


 ……という、これだけの人数が集まっている中で、なお響く靴音を鳴らしながら登壇したのは、彫りの深い顔立ちをした中年男性である。

 すでに、男としての全盛は過ぎ去った年齢であるが、その身が鍛え抜かれ、研ぎ澄まされているのが、所作の一つ一つから見る者に伝わってきた。


 王都の貴族に流行りの装束へ身を包んだ男は、舞台上で立ち止まると、どこからともなく一本のきゅうりを取り出す。

 それは、見るからに新鮮な……それでいて、実が詰まっている極太の逸品であり……。

 男がこれに、かじりついた。

 その様の、何と絵になることか……。

 いつの間にか、観客たちはざわめくのを止め、男の一挙一動に注目する。


 男は、しばし、その場できゅうりの味を楽しんでいたが……。

 どうやら、それは満足するに足るものであったらしく、深い……深い笑みを浮かべた。

 そして、そのまま観客たちの方を向くと、こう言ったのである。


「私の記憶が確かならば……。

 この場を差配するのは、我が家――レデラー公爵家である!」


 ――ワアッ!


 男の言葉に、観客たちが……。

 そして、もうやることもないので見物に回っていた黒騎士たちが、盛大な歓声を上げた。


「審査の内容は、あちらの侍女――マルガレーテの給仕によって、アウレリア嬢の作りし料理が昇華されていると、客観的に証明されているか否か……。

 なかなかに、難しい内容だ。

 しかし、私はここで宣言しよう!

 公明正大にして、厳正なる審査を行うと!

 我が名はアンスガー・レデラー!

 レデラー公爵家当主であり、栄光ある黒騎士団を率いる団長なり!」


 ――アンスガー・レデラー。


 王国最強の騎士団を率いる男の言葉に、観衆たちが再び歓声を上げる。

 彼の娘であり、審議席に控えているフロレンティアはアウレリアとマルガレーテの友人であり、本来ならば、中立性が求められる審判役にはふさわしくないかもしれない。


 だが、アンスガーという名と、黒騎士団団長という地位は、彼の絶対的な公平性を信じさせるに十分なものであったのだ。


「それでは、調理開始!」


 アンスガーの宣言と共に、アウレリアの調理が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] 某料理番組を彷彿とさせる舞台設定ですね(笑 鉄の料理人が出てきそうですが、 料理はアウレリアさんで、給仕がマルガレーテさんという。 しかし公平な判断をしてくれそうな御仁ですね。 これは面白…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ