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96.因縁の正体

 アビスはニヤリと笑うとシャチ子に向かっていった。


「だったら斬ってみろ!」


 捨て身か斬られない自信があるのか、判断がつかない。

 僕なら躊躇ちゅうちょしているところを――


「死にたいなら死にたいと言え」


 シャチ子はアビスを袈裟斬りにした。

 胸から血を吹いて大男が足を止める。


 女剣士の顔を、胸を、衣類を鮮血が赤く染めた。


 アビスは呼吸を整える。


 出血が遅くなった。肉体をコントロールして傷を塞いでるのか?


 そして――


 名刀月光を手にしたまま、シャチ子はうつむいて動かなくなった。


 メイが叫ぶ。


「どうかしましたかシャチ子!?」

「あっ……ううっ……」


 女剣士はうめくだけ。

 赤毛の大男が吠えた。


「どうやらその海魔族の女は、ずっとこの機会をうかがっていたみたいだな。前女王ニュクス暗殺だけじゃ足りず、新女王エルを手に掛けようとしているッ!!」


 シャチ子はエルに向き直った。

 刀を構え切っ先を純白の花嫁に突きつける。


 アビスがわらう。


「誰か俺の代わりにその女を止めてくれ」


 来賓は逃げていったけど、聖堂内の模様は王国中に流れたままだ。


 衛兵たちがシャチ子に殺到する。


 全員、なます斬りにされた。


 僕は考えるよりも先に、斬られた兵士たちの傷を「戻し」て癒やす。


 シャチ子は完全にアビスの支配下にあった。

 エルを殺せと暗に命じられたんだ。


 侯爵のスキルの正体は「血」に違いない。

 血液に力が宿っている。

 結晶化すれば隷属の首輪のキーパーツになるんだ。


 直接浴びたらひとたまりも無い。


 アビスに言われるまま、女剣士はエルを殺そうとしていた。


 させない――


 そんなこと、絶対に。


 シャチ子の間合いに飛び込む。


 左腕は捨て駒だ。銀の刃が僕の腕を身体から分断した瞬間、右腕に全身のバネと回転を乗せて弾くように拳を打ち込む。


 本気モードのシャチ子から一本取るにはそれしかない。


 僕の拳がシャチ子の右頬を殴り抜けた。


 女性の顔をぶつなんて……と、考える余裕すら無かった。


 手応えが十分すぎる。


 シャチ子の身体は吹き飛び聖堂の壁に激突した。


 一瞬の交錯をじっと見ていた人間がいる。


 メイド長のチェーンだ。背に聖女を庇いながら、僕の放った高速拳打に「最高の一撃だ」とぽつり。


 僕は頷きながら左腕を拾い上げて元に戻す。

 一撃で首でもねられない限り、重傷もかすり傷も一緒だ。


 アビスがうめく。


「くっ……ただの修復士でも治癒士でもないってことかよ。なんなんだお前のスキルはッ!?」

「スキルには二種類あるんですよね。公表すべきものと秘匿すべきもの。だから……秘密です」

「クソがッ! だが、次はそう上手くいくか? あの海魔族はまだやる気十分みたいだぜ?」


 シャチ子がゆっくり立ち上がる。


 その姿に侯爵は目を丸くした。


 僕に殴られたはずの頬は腫れもせず、全身を赤く染めた返り血も消えてしまった。


 女剣士は背中をさする。


「やってくれたなセツナ様。私の一刀の価値を自身の左腕一本と交換とはな。いいパンチだった。おかげで激突した背びれが痛いぞ」

「すみませんシャチ子さん。背中を打ったあとの衝撃までは戻せなくて」


 シャチ子が切っ先をアビスに向ける。


「王国の民よ。見た通りだ。あの男は自らの血を凝固させるなり飲ませるなりして、相手を支配する力を持っている。恐らく祝賀会のワインにも仕込まれているんだろう」


 アビスは応えない。が、後で調べればわかることだ。


 僕が引き継ぎ糾弾を続ける。


「きっと飲食に混ぜた場合は、効果に時間制限があったんだと思います。そこで海魔族の技術を頼り、永続的に相手を言いなりにさせる方法を編み出した。それが結晶化です」


 赤い宝石のはめられた首輪や指輪を身につけさせる。

 これで言いなりだ。


 おそらく初期設定で「首輪をつけた者に従え」という条項が付け加えられていたんだろう。


 隷属の首輪はアビス以外でも使えることに意味がある。


 手下たちを働かせられるのだ。自身は王都の安全圏で吉報を待てば良い身分なのだから。


 以前、アビスが自分で首輪をつけた際に何も効果がなかったのにも納得だった。


 根底にあるのは「アビス侯爵に従え」という支配の意思。


 当然、本人には効かないのである。


 侯爵の目が血走る。


「ヴィリエ! 霊薬はあるか? とびきり効くやつを出せ。言い値で買い取ってやる」

「閣下。こちらに」


 ワイン商人がすかさず出した小瓶を受け取り、一気に飲み干す。

 みるまにアビスの傷が閉じて元通りだ。


「一旦引いて立て直すぞ」

「残念ですが閣下に逃げ場はありません。すでに王国中が貴男のスキルを知るところ。今度誰も、貴男という人間の言葉を信じはしないでしょう」

「なら新大陸だ! 向こうで国を興すぞ! 手伝ってくれるよな?」


 ヴィリエは目を細めた。首を左右に振る。


「閣下には王国を支配してもらう。そうでなければなりません。新しい国を作るにしても、国民が閣下お一人では話になりませんから」

「お、お前……まで……俺を裏切ろうっていうのか!?」

「閣下自身は何度となく他者を利用し裏切ってきました。なぜ自分だけが裏切られないとお思いだったのでしょうか」

「王室御用達になるまで取り立ててやっただろう! 莫大な財を生み出す海運網をくれてやったではないか! 恩義に報いろ!」

「それは貴男が王国の重鎮たればこそです。ビジネスパートナーに友情を求められても困ります」


 どちらが上かわからない。

 これじゃあアビスがワイン商人の手の中で転がされていたみたいだ。


 グラスの中で揺れる赤い水面のように。

お読みいただき、ありがとうございます!


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