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93.反撃開始

 全員の視線が注がれる。


「その婚姻……ちょっと待ってください」


 プリムが僕に手を振った。


「やっほー! セツナちゃん! もしかして異議申し立て? 国の大事な結婚式だし、全員一致で祝福しないと、ちょっとだめだめだよねぇ?」


 ほとんどがアビスの息の掛かった者たちだ。

 僕を見る視線は冷たい。

 出て行けと無言の圧力を感じる。


 ――それがどうした。


「前女王……ニュクス様を殺害したのはアビス侯爵の手の者です」


 壇上から降りて巨漢が迫る。僕におおいかぶさるように上からのぞき込む。


「証拠でもあんのか?」

「無ければ名乗り出ません」


 王国中が注目する婚姻の儀。

 ここでアビスが何をしたのかを曝く。


 ニュクス女王が生前、自身の死の間際――

 エル皇女に残した言葉はこうだった。


『もし私に何かあった時には、セツナ君を頼りなさい。彼はあなたの運命の人だから。アビスが婚姻を持ちかけてきた時には、聖女プリムちゃんたちと連携してあの男の正体を曝くのよ』


 ただし、僕には直前まで伝えないこと。

 僕が動けば運命が変わってしまうかもしれないから。


 婚姻の儀そのものがアビスを倒すために前女王が残した罠だ。


 僕は侯爵を見上げる。

 威圧感しかない。

 けど、負けるわけにはいかなかった。


「時に、侯爵閣下のスキルはなんですか?」

「この期に及んで……」


 アビスが苦虫を噛んだ顔になる。


「関係ねぇだろ」

「差し障りなければお教えください」

「言う必要は無い!」

「言えないようなスキルなんですね?」

「いいかボウズ。スキルには二種類ある。公然にする方がよいものと秘匿する方がよいものだ。修復士や治癒士ってのは、看板を掲げた方がいい。が、そうじゃねぇ系統のスキルもあるんだよ」

「では、僕が閣下のスキルを当てて見せましょう」


 来賓たちの注目が集まる。


「衛兵。こいつをつまみ出せ」


 顎で合図するアビスだが――


 凛とした歌うような声が聖堂の天井にまで鳴り響いた。


「女王として命じます。セツナの言葉を待ちなさい」


 詰めていた警備の兵士たちがぴたりと足を止めた。


 アビスが吠える。


「俺たちのめでたい門出だってのに、めちゃくちゃにされて黙ってろってのかエル! 婚姻の儀だぞ!? やめますで済まされるもんじゃねぇっ!!」


「やめないわ」


 ぴしゃりと閉めきるように女王は言う。

 白い指先がスッとアビスに向けられた。


「誰が貴男と契るって言ったのかしら? 私の相手は……彼よ」

「なっ……」


 侯爵が口をぽかんとあけた。


 指差す先が赤毛の大男から僕へと変わる。


 皇女が僕の部屋にやってきた夜。

 打ち合わせた通りの展開だ。


 聖女プリムが両手でほっぺたを包むようにして「あらぁ~略奪愛ぃ」と身をくねらせる。

 メイドのチェーンは後方で腕組み。

 祈りを捧げる信徒たちの中で、二つの影がもごもごうごめいた。


 ちょっと黒いオーラがはみ出ている。心配だ。


 が、今は目の前の悪党に集中する。


「さあ侯爵。応えてください」

「…………」

「言えないなら僕の考えを申し上げましょう。侯爵閣下のスキルはおそらく『支配』か、それに類する能力ですね?」


 聖堂内がざわついた。


「だまれ小僧が!」

「僕の口を閉じたければスキルを使えばよろしいかと。王国中の視線が集まっていますけど」


 アビスが岩のような拳を握り込む。

 構わず続けた。


「この聖堂に集まった中には、知らないうちにアビス侯爵のスキルで洗脳されていた人もいるかもしれません」

「そんな証拠がどこにある? うろたえるな! ガキの妄言だ!」


 侯爵が僕の襟首をつかみあげようと腕を伸ばす。

 その手を払う。


「証拠は今のところありません」

「言いがかりと認めるんだな!? ならば謝罪しろ小僧」

「僕らが間違っていればいくらでもしますよ。全王国民の前でね」


 ここで引く訳にはいかない。

 相手は今や王国一の権勢を誇る男だ。


 けど、婚姻の儀の場に引きずり出して、国中の注目を集めた今なら戦える。

 世論を味方につける。


 アビス侯爵という人間の本性を曝いてみせる。


 幸い――


 僕たちには強い味方がついていた。


お読みいただき、ありがとうございます!


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