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88.かくして覚醒の時を待つ

 亡者たちが手を胸の前で組む。

 彼なの瞳に宿る赤い灯火が、青く清浄な色に変わった。


 エルはステージ上で片翼の天使が朗々(ろうろう)と歌い上げる。


 僕は警戒する。まだ終わっていないんだ。


 黒い影人間の中に違和感を覚えた。


 剣を手にしたままの亡者がいる。


 外見は他の連中に紛れていて気づかなかったけど、そいつの目は赤い。


 青い瞳になった亡者たちが、そいつを中心に瞳の色を紫に燃やし始める。


 二つの力が拮抗して、赤と青が入り交じった結果だ。


 メイもシャチ子もハーモニーに集中していて、気づいてない。


「三人の邪魔はさせないッ!!」


 僕は独り、赤い目のままの亡者に斬りかかる。


 こいつがきっと「根源」だ。


 緩慢な他の亡者の動きとは別モノだった。


 剣と剣で切り結ぶ。強い。殺気と憎しみを込めた一振りの威力に僕は押し負けた。弾き飛ばされる。


 腕が痺れた。ずっと戦い続けて疲労は蓄積したままだ。自分自身を「戻し」続けていると、回復が追いつかないんだ。


 闇の力の根源を止めないと、歌い上げても儀式は成功しない。


 立ち上がり、再び挑み、突きを放つ。

 切り払われて反撃を受けた。左脇腹を漆黒の刃が掠める。頑丈な冒険者の服を易々と切り裂いて血が滴った。


 止血にリソースは回せない。痛みが脳に危険信号を送る。構わず剣を振るう。

 根源の亡者は剣を巻くようにして僕の腕から業物を弾いた。


 武器を落として無防備な一瞬――


 相手は油断したんだと思う。


 軽くなった右手で放つ。高速の拳打。


 時間スキルで加速はできなかったけど、全身のバネとひねりを衝撃力に変換して根源亡者の顔面に叩き込む。


 が、ダメ。


 相手は微動だにせず、切っ先が僕の喉元に迫った。


 しまった。いや、僕の実力だとこれが当然の結果だったのかもしれない。


 死ぬのかな。死んだら……奴隷船のあの子に会えるんだろうか。


 人を救おうとしたことを、胸を張って報告できるだろうか。


「でき……ないッ! こんなんじゃ!」


 身をよじり一撃を紙一重でかわす。けど、姿勢を崩して僕は前のめりに倒れた。

 床を舐めるような格好だ。


 無様だった。


 頭上で空を切り剣を振り上げる音がする。

 転がって逃げようとすると、紫目の亡者たちに足を掴まれた。


 根源亡者が操ってるんだ。


 剣が振り下ろされる。


 瞬間――


 鋭い槍(?)の一撃が根源亡者の心臓を貫いた。


 メイの歌声がハーモニーから消えていた。


「邪魔をするな。欠片風情が」


 クラゲ幼女の普段のふわりとした声ではない。彼女は時折、別人のように冷たく、硬くなる。


 触手ツインテールが根源亡者の胸から引き抜かれた。


 先端で黒い塊が脈打つ。メイの触手はそれを取り込み、美しい半透明な触手が黒く濁る。


 じわりと溶けて消えると、少女は目をぱちくりさせた。


「ハッ……せ、先生! ご無事で!?」

「あ、ありがとうメイ。助かったよ。それよりもメイは大丈夫なの?」

「はい? なにがです? わかりませんが?」


 いつものメイだ。ホッと胸をなで下ろす。


 僕を取り押さえた紫目の亡者たちも、瞳を青くして再びエルの歌声に耳を傾ける。

 

 エルが最後の一節に取りかかった。


 亡者たちの身体を包む闇の力が青白い光へと変換されていく。


 中には肉体が残っている者もあった。


 前回、エルを守った騎士たちだ。彼らの肉体も天へと昇り光に還っていった。


 皇女の頬を涙が伝う。


 遺体の回収はできなかったけど、せめて遺族に最後の姿を伝えることはできそうだ。


 壁を覆った黒いカビのような染みも、エルの歌声に溶けて消えた。


 永く永く霊廟を支配していた闇が払われたんだ。


 純白の壁面があらわになる。


 そこには巨大壁画が描かれていた。


 金字塔の台座で歌う少女の姿と、天の世界から流星に乗って墜落する青年。背には傷ついた翼を広げ、胸に青い光を抱いていた。

 雲の上で黒い雷が嵐のように渦巻いて、中心に赤く禍々しい瞳のようなものが浮かぶ。


 不思議な絵だ。


 天に近づくほど禍々(まがまが)しい。

 墜ちた青年はきっと聖祖ルシフなんだと思う。


 羽を散らして痛ましい姿だった。表情は哀しげだ。

 歌い祈る少女の元へと向かっているように見えた。


 少女の周囲には獣魔族や海魔族によって、人間が奴隷化されている姿が描かれていた。


 ステージの上でエルが呟く。


「……そう……だったのね。これが王国の根源……」


 言い残すと少女はバタリと倒れる。


 背中の痣はくっきりとした翼の紋様になっていた。


 儀式は上手くいったんだろうか。


 シャチ子が刀を鞘に収める。


「まずはエルを連れて戻ろうセツナ様」

「そうだね」


 女剣士は歌姫を抱きかかえた。

 メイの触手がビクンと跳ねる。


「お姫様をリアルお姫様抱っこ! メイはぁ……先生にしてもらいたいなぁ」

「ごめんねメイ。僕、ちょっと疲れちゃったみたいで。今度、元気な時にね」

「おおおおお! め、滅相もナッシング」


 僕らは墳墓を後にする。

 今はやれることをやりきった。


 あとは女王ニュクスが無事に目覚めて、アビスの野望を阻止できるようになるのを待つだけだ。

お読みいただき、ありがとうございます!


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