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85.皇女のために

 侯爵の視線が僕を射貫いた。


「しかしよぉ……ランクAの修復士がなんで首輪の事を知ってやがったんだ?」

「たまたまです」


 敢えて言う必要はない。騙されて奴隷船に詰め込まれたことなんて。


 スキル奴隷にされた人間が声を上げられない理由は明白だ。


 死ぬまで道具として使われる。首輪を外そうとすれば死が待っている。


 僕は侯爵に訊く。


「その首輪をどこで? 普段から使ったりしているんですか?」


 アビスが白い歯を見せた。


「さあなぁ。俺は部下に呪詛対策をしろと命じただけだ」


 エルが凛とした声を響かせた。


「任命責任は侯爵にあるんじゃないかしら?」


 メイとシャチ子が無言ながらもジェスチャーで「そーだそーだ!」とはやし立てた。


 アビスは眉尻を下げる。


「これも姫様のためだ。悪いとは思っちゃいねぇ。だいたいよぉ、闇の力にどうやってあらがうってんだ? 無策で悲劇を繰り返すのか?」

「それは……」


 皇女の視線がこちらに助けを求めた。


「僕に考えがあります」

「どんなアイディアだ?」

「侯爵閣下が知る必要はないかと存じます」

「なんでだ?」

「閣下は出資者にあらせられます。そして大局を重んじられる。些末なことは僕のような、下々の者にお任せください」

「ほぅ……だが聞く分にゃ問題ないだろう? 任せられるほど納得のいく方法か? 皇女殿下に万が一のことがあったら、タダじゃおかねぇぞ?」


 エルが桜色の唇を静かに開く。


「私が彼を全面的に信用するわ」


 表情も毅然きぜんとしたものだ。アビスに押し込まれ気味だったけど、なんとか持ち直したみたいだな。


 侯爵がうめく。僕をにらむ。


「……修復士風情が」

「閣下はどうか安全な場所で朗報が届くのをお待ちください」

「安い挑発だなぁ?」

「では霊廟までご一緒しますか? 先日、海魔族の刺客を倒した手並みはお見事でしたし」

「悪いが俺には闇の力に対抗する術がないんでな。誰かさんが全部バラしちまった。同伴したところで足を引っ張りかねん。あの首輪があれば自分につけて、姫様に隷属を誓い儀式の手伝いがしてやれたのによぉ」


 一瞬、ばらけさせた隷属の首輪を「戻す」ことも考えたけど、口約束は反故ほごにされるだろうし、僕のスキルをこれ以上見せるのは相手が相手だけにリスキーだ。


 けど――


 つけさせてみるのもおもしろいかもしれない。

 僕は床に散らばった残骸を手にした。


「ちょっと手品をお見せしますね。3.2.1……はい元通り」


 一度残骸を背中側に隠すと隷属の首輪を元に「戻し」た。


 侯爵の目が点になる。

 ずっと後ろに控えていたワイン商人が「ほぅ」と息を吐いた。


「さあ閣下。是非、おつけください。殿下に忠誠を誓うのですよね?」


 エルも僕のスキルに驚いたようだけど、すぐに冷たい眼差しを侯爵に向けた。


「フフン……つけるわよね?」

「いいだろう」


 侯爵は細身の女性の腰のくびれほどもある、己の太い首に首輪を巻き付ける。

 パンパンで留め金がはちきれそうだ。


 本当につけるなんて……アビスという人間がわからない。


 エルが命じる。


「私に忠誠を誓いなさい」


 アビスは無言だ。


「どうしたのかしら?」


 雰囲気がおかしい。あの首輪をつけられたことがあるからわかる。

 つけた人間に服従ということなんだろうか。


 アビスは笑う。


「俺は最初からこの国と王族に忠誠を誓ってるぜ。もっと王国をよくしてやりたいとも思ってる」

「黙りなさい」

「不思議と口が上手く回るなぁ。どういうことだこりゃ?」


 ワイン商人が一礼した。


「閣下ほど強い意志を持つ人間には効果が発揮されないようですね」

「だそうだ。つーことは、闇の力の呪いも俺ならへっちゃらなんじゃぁねぇかヴィリエ?」

「一介の商人の私には判断いたしかねます」

「そうかぁ。万が一で死にたかねぇなぁ。とりあえずコイツはもう用済みだ」


 首輪を外そうとアビスが自身の首元に手を掛けた瞬間――

 ヴィリエが再び待ったをかけた。


「皇女殿下に命じられ装着したものですので、ご自身で外しては安全装置が働いてしまいます閣下」

「危うく死ぬところだったぜ。悪いが外してくれないか姫様?」


 エルが「あっ……えっと……」と素に戻る。

 僕はアビスのそばに歩み寄り、首輪を「戻し」て分解した。


「エル殿下のお手は煩わせません」

「なんだよセツナぁ。愛し合う二人の間に挟まってくるなんざぁ無粋だなぁ」


 不機嫌そうに眉間に皺を寄せるアビスだが、どこかおどけているようにも見えた。


 ともあれ――


 この世に隷属の首輪が効かない人間がいる。

 それが王国の支配を目論む権勢家の侯爵だったのは、運命なのか皮肉なのか。


 赤いマントを翻し侯爵は背を向けグリフォンの紋章を見せた。


「あとは好きにしろ。返るぞヴィリエ」


 ワイン商人がそっと僕らとエルに一礼する。

 扉の前で一度、アビスは立ち止まった。


「俺としちゃあ誰が何しようと構わん。女王が目覚めればそれでいい。今回は手柄を譲ってやるよセツナ。上手くやれたらだけどな?」

「お気遣いありがとうございます閣下」

「可愛くねぇガキだなお前は。俺の未来の嫁さんを預けるんだ。失敗すんじゃねぇぞ」


 激励というよりも脅しに感じた。

 皇女は複雑そうな面持ちだ。

 扉を開き、アビスが謁見の間を出る。

 

「ま、どんな方法で攻略するつもりか知らんが……失敗したら慰めてやるよ。おもしろい手品も見せてもらったしなぁ」


 僕のスキルが単なる修復能力じゃないことを教えたようなものだ。


 失敗……だったかな。


 忌み嫌った隷属の首輪なんかに頼ろうとした僕への罰かもしれない。


 侯爵とワイン商人が立ち去り、謁見の間は僕らだけになった。


 緊張がほどけてエルが冷や汗をハンカチでぬぐう。


「ふぅ……生きた心地がしなかったわ。ありがとうセツナ。庇ってくれて」

「今は引き下がりましたけど、侯爵が殿下を諦めた様子はありません。気を引き締めていきましょう」

「うん……そうね」


 エルはほっぺたをうっすらピンクにした。

 僕を見つめる眼差しが、なんとなく柔らかい。


「どうかしました?」

「べ、別になんでもないわよ。同世代の男の子って王宮にいないから珍しいだけ」

「珍獣扱いですか?」

「ち、ち、違うし。ただ、ちょっと……頼りになるんだなぁって思っちゃっただけよ」


 皇女は僕から顔を背けて視線をメイたちに向ける。


「メイとシャチ子も大義だったわ」


 シャチ子は「うむ」とうなずくばかり。

 一方、メイはというと触手ツインテールの両手でぎゅっと握ってねじりながら、なぜか涙目だ。


「あーもう! 天然! 天然の女殺し!」


 物騒なことをいってるけど、僕への抗議なのそれ?


 クラゲ少女はエルに告げる。


「いいですか? 頼りになる先生に、すべてまるっとお任せなのです」

「いいのかしら? セツナの負担にはなりたくないわ」

「できるな貴様ぁ!」

「急にどうしちゃったの?」

「ぜんぜんジェラってないですからね! 良い女とはッ! 愛する男を信じて待てる女ですけんね!」


 エルはぽかんとした顔だ。


 シャチ子が僕に言う。


「アビスという男によく立ち向かったな。偉いぞセツナ様」

「今日のところは引き下がってくれましたね。穏便にすんでホッとしました」

「私は心の中で何度かあの大男を切り捨てていたがな」


 物騒だ。シャチ子がちゃんとこらえてくれてよかった。


 改めてエルが僕を見据える。


「アビスをぎゃふんといわせるためにも、闇の力への対処法は……ハッタリじゃないわよね?」

「やってみるまでわかりませんが、策はあります」

「頼って……いいのかしら」


 皇女は不安げだ。確証はない。

 けど、弱気を見せても僕にできることは何一つ変わらないのだから。


 堂々と胸を張る。皇女の心細さの支えになれと祈りながら。


「任せてください」


 まずは地下墳墓の霊廟全体の時間を「戻す」方法。

 レベル65に成長した今の僕なら、範囲指定で闇の力に支配された領域ごと「戻す」ことができるかもしれない。

お読みいただき、ありがとうございます!


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