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67.本当にあった神託の話

【前回までのあらすじ】

本当の聖女はチェーンだった。

けど神託を受けられるチェーンと、みんなから愛されるプリム。聖女はもしかしたら二人で一つの存在だったのかもしれないね。

 中庭で改めてお茶会が催された。


 種明かしを終えてからのチェーンは、憑き物が落ちたみたいな落ち着きぶりだ。

 メイドではなく真の聖女として彼女も席に着いた。


 代わりにプリムがピンクのメイド服姿でお茶とお菓子を振る舞い、おもてなしする。


 シャチ子が胸を前腕で支えるように組んでチェーンに訊いた。


「ところで、神託というのは具体的にはどういった言葉なのだ? 我々が神殿都市に訪れることを予言していたというのだろうが、容姿や名前などまでわかるのものでもあるまい」


 チェーンはティーカップを鷲づかみにして、クイッとお茶をあおると口元を手で拭う。

 聖女感ゼロ。対外的にはプリムがこれからも聖女をする方がいいかも……と、普通に想ってしまった。


 息をついてチェーンは返答する。


「深淵蒼海からの使者がいずれ現れる。メイドの頂を極めし者の戦いに敗れし時、新たな道が開かれん」


「それだけか?」

「んだよ? 文句あっか? で、神託のあとちょうどくらいに、プリムがいきなり『メイドさんのぶとうかいを開きたいの』って、なってな。舞踏会じゃなくて武闘会だったんだけどよ」


 チェーンに侍って脇に立つとプリムが「そだよー」と肯定した。

 メイは触手ツインテールを虚空で絡ませ踊らせる。


「ダンスだったらメイの出番でしたが? シャチ子は踊りができませんからぁ。求婚者のダンスのお誘いをちぎっては投げ、極め、打ち、海底深くに沈めてきたのですよ」

「突然の暴露はおやめください」


 女剣士の美貌と強さ。加えて穏健派代表の将軍の愛娘とくれば、きっと海魔族の国ではモテモテだったんだろうなと、容易に想像がつく。


 で、迫ってくる男を夜会で投げ飛ばす様も、なんだかシャチ子らしかった。


 チェーン(聖女)が指さし大笑いする。


「あっはっは! てめぇらしくていいじゃねぇか!」

「黙れ。私とて……好きで投げ飛ばしたのではない。あまり笑うな! 泣くぞ!」

「お~泣け泣け!」


 すっかり打ち解けたな。二人とも。


 プリムもこれにはニッコリだ。


「よかったねチェーンちゃん! ケンカできる友達ができて」

「ダチ公なんかじゃねぇよ。こいつはええと……ライバルだな」


 シャチ子もまんざらではなさげに「フッ……」と口元を緩ませた。


 ところで――

 確認しておきたいことを思い出した。


「プリム様、それにチェーン様。少しいいですか?」


 チェーンがテーブルに身を乗り上げるようにして、たわわな胸を揺らしながら僕に迫るとデコピンしてきた。


「痛ッ! 急に何するんですか!?」

「反応が遅ぇぞ! ちゃんと仕上げとけよシャチ子?」

「わかっている。セツナ様は大事な戦力だからな」


 二人して腕組みしながら「ふっふっふ」と僕に圧をかけてきた。

 チェーンが口を尖らせる。


「いいかセツナ。様付けなんざすんじゃねぇ。今まで通りだ」


 なるほど。聖女扱いが嫌だったんだ。


「わかりましたチェーンさん。ところで、さっき僕らにしてくれた神託なんですけど、あれはプリム様が言うには『偽物』って……」


 ピンクのフリフリメイドがヘッドドレスをぶんぶんと上下に揺らす。


「そだよそだよー! いつものチェーンちゃんっぽくないし。王都の図書館で調べるとか、誰でも思いつく感じだし、具体的すぎて神託っぽさ? ゼロみたいな」

「ま、まぁ……偽物だかんな」


 プリムが腰に手を当てチェーンの顔をのぞき込む。


「セツナちゃんたちに嘘はダメだよ? メイちゃんの運命がかかってるんだから。チェーンちゃんって根っこが真面目っこさんだから、ちゃんと神託したんでしょ?」


 神託スキルなんてなくても聖女様にはお見通しみたいだ。

 チェーンは頬を指で掻く。


「ん、けど、あれはなぁ……」


 メイが両腕とツインテール触手を万歳させた。


「お教えくだされぇ! お代官様ぁ!」


 チェーンの困り顔がメイからシャチ子に向けられた。

 別に意地悪で言わないのではない。何か訳ありっぽいな。


 女剣士はそっと頭を下げる。


「結果に文句は言わぬ。頼む」

「か、顔をあげろって。わーったよ。けど……がっかりすんなよ」


 チェーンは席から立ち上がると、胸元で手を組んだ。


 光がさす中庭で、一瞬だけ聖女らしい神々しさを身にまとう。


 そっと歌うように彼女は口ずさんだ。


「神の居場所は近くて遠く。ここにあってここになく。見えていて目に見えず。触れられて手は届かない。あなたはもう出会えない」


 最後の一節にメイは言葉を失った。

 僕もある程度は覚悟はしていたつもりだけど……。


 出会えない。神の居場所もわからない。

 神託はそう、読み取れた。


 チェーンが言いたがらないわけだ。


 真の聖女が申し訳なさげに眉を八の字にする。


「ま、解釈次第っつーか……外れることもあるかもしれねぇからさ」


 メイに掛ける言葉が見つけられないシャチ子。

 プリムは涙目だ。


 僕がメイの肩に手を添える。


「神様に頼らなくても大丈夫な方法を探そう。きっと王都に行けば見つかるから」


 チェーンも「要は神とか関係なく、メイが幸せになりゃいいんだよな! 明日まで待ってくれ。神託すっからよ! だから泣くんじゃねぇぞコラァ!」と、彼女なりの気遣いを見せてくれた。


 神様に人間にしてもらう。

 それができないと、神託に出てしまった。

 やっぱり僕が……メイと結ばれて海魔王の座に着くしかないんだろうか。


 器は子孫に受け継がれる。

 メイを解放するなら、僕らの間に子どもを授かればいい。


 じゃあ、その子はどうなる?


 ダメだ――


 シャチ子の提案は受け入れられない。


 僕はメイが好きだ。


 だからこそ、別の目的のためにメイと結ばれるなんて……。


「先生。メイは人間には……なれないですか?」

「必ず見つけ出すよ。だから一緒にがんばろう。ずっとそばにいる。離れないから」

「はい。メイは先生に拾っていただいて、本当に本当に幸せ者でございます」


 少女が僕に肩を寄せる。

 シャチ子は沈黙。ゆっくりとうつむいたままだ。やっぱり、僕を海魔王にすることを望んだままなんだろうか。


 プリムとチェーンは手を繋いでうなずき合う。


「ねえメイちゃん。あたしは本物の聖女様じゃないけど、これからもチェーンちゃんと一緒に、みんなに神託をお届けしていくね。それでそれで、二人の力になってくれそうな人とか、見つけるから」


 チェーンも拳を握って親指を立てた。


「こう見えてプリムは王国聖教会のトップだかんな。てめぇら三人の事は各地の教会に伝えとく。なんかあれば教会を頼ってくれ」

「こう見えてとかひっどーい!」

「わりぃわりぃ。おまえは最高の聖女様だぜ」


 二人のわだかまりを解きほぐしたことで、僕たちは大きな味方を手に入れたみたいだ。


 チェーンが笑いながら僕を見つめる。


「にしてもセツナ。てめぇこそ本物の修復士だ。壊れそうになったプリムとおれの関係を繋ぎ直してくれた……感謝すっぞ」

「困った時は……」

「お互い様ってか」


 チェーンが握った拳を差し出した。僕も合わせてグーを作ってコツンとタッチする。


 そして――


 明日、もう一度「メイがどうすれば幸せになれるのか」神託をしたあと、王都へ向けて出発することが決まって、それからお茶会はまったり雑談タイムに突入するのだった。

お読みいただき、ありがとうございます!


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