66.与えられた言葉の真偽
【前回までのあらすじ】
夜の女子会で脱がされました。
つらいです。
――主人公より。
神殿最上階、謁見の間にて聖女が神託を授ける儀式が執り行われた。
人払いがされて広い一室に僕らとプリム、筆頭メイドのチェーンだけになる。
赤い敷物の上に並んで跪いて待つと、壇上の豪奢な椅子に掛けたプリムが言う。
「みんな顔を上げて。えっと、神託与えちゃいます!」
メイが万歳して立ち上がるとシャチ子にハイタッチを要求した。
「やりましたねシャチ子! 僥倖ですよ!」
「はい。これで王都に行かなくても神の座に直行出来そうです」
僕も立ち上がりプリム……じゃなくてチェーンに視線を向ける。
目が合うなり特攻服メイドは小さく目配せした。
細工は隆々ってところか。
チェーンが胸を張って、たわわを揺らしながら腰に手を当てる。
「聖女様の神託だ。耳かっぽじって拝聴しろコラァ!」
メイがぴしっと背筋をまっすぐにした。
シャチ子も東方風の着流しの襟を正す。
プリムは椅子から立ち上がると、歌うように告げる。
「神の居場所を記せしは王家の書庫の奥の奥。書棚の迷宮に隠されし道しるべ。神の居所は紙のみぞ知る……かなぁ」
最後が少しだけ自信なさげだけど、プリムの言葉はここで終わりみたいだ。
メイが頭を抱えた。
「あうッ! お勉強ですか? 先生!?」
「どうやら本で調べないといけないみたいだね」
シャチ子がチェーンをにらみつける。
「貴様! 結局王都に行けとは何事か!?」
「うっせーよ! プリムの神託になんか文句でもあんのかコラ?」
再びぶつかり合いそうになる二人の間に立って、僕はシャチ子を説得だ。
「まあまあシャチ子さん。王都って一口に言っても広いんだ。どこを探すと効果的かわかっただけでもいいんじゃないかな?」
当てずっぽうだったとしても、王家の書庫なら何かしらヒントは見つかると思う。
シャチ子も「王家の書庫か。一般人が易々とは立ち入れぬであろうな。手を考えねば。しかし……遠回りせずに済んで良かったといえばそうだが……」と、理解は示すけど納得はしてないっぽい。
メイが触手ツインテールをゆらゆらさせる。
「メイは絵本とかがいいなぁ。ねえねえプリムちゃん! 絵本ですか? ヒントは絵本なんですよね!?」
「あっ……えっと……うんと」
プリムはどこか浮かない顔だ。
「どうなすって?」
「メイちゃんは、ほんっっっとおおおおおおに、人間になりたいんだよね?」
「そーですとも! 割とガチ勢!」
両手をきゅっと結んでクラゲ少女は鼻息も荒い。
瞳は真剣でまっすぐで一途だった。
プリムがうなだれる。
「ごめん……ごめんねメイちゃん……たぶんこれ、神託じゃないよ」
「え!? なんで!?」
「いつもはもっと違う感じなの。今日のはなんか、嘘っぽい」
「嘘なのーッ!?」
聖女のふわふわな髪が左右に揺れた。
「全部嘘じゃないと思うの。だからこそ、作り物っぽい。嘘が上手い人は、嘘にほんとを混ぜるって……チェーンちゃんが言ってたから」
プリムの視線がチェーンに向かう。
目も遭わせず筆頭メイドは僕らを手で「しっし」と追い払うようにした。
「次の神託を待つヤツがいるんだ。とっとと王都にでもどこにでも行きやがれ」
聖女が――
声を上げた。
「待って! もう一回神託するから! ね! これじゃ、あたしが納得できないの! メイちゃんは人間になりたくて、がんばってるんだもの。ちゃんとした神託にしたいの!」
チェーンは聖女を無視して僕に言う。
「プリムは十分に役目を果たした。だろ……セツナ?」
声の圧の中に、不安のビブラートを感じた。
特攻服メイドは……隠している。
それはなんだ?
僕は……僕らは何か大きな勘違いをしていたのかもしれない。
けど、それを言ってしまっていいのだろうか。
僕は時間スキルで色々なものを元に戻すことができる。
直せないものなんてないとさえ思っていたのは、本当に傲慢だ。
言えば二度と取り返しがつかない。
メイを見る。
「だ、だ、大丈夫ですもぉ!」
神の居場所がわからないことよりも、この場の空気が辛そうだ。
僕は――
「チェーンさん……ちょっといいですか?」
「な、なんだよてめぇ? や、やんのかコラァ!?」
僕よりも背が高くてがっちりした女性が、半歩下がった。
動揺している。
懇願するみたいに、首を小さく左右に振った。
「本当の聖女は……チェーンさんなんですよね?」
瞬間――
プリムの口から言葉がこぼれ落ちた。
「あっ……やっぱり……そっか」
聖女自身にも心当たりはある。口に出せなかったのは、二人が長年築いた関係性が生んでしまった硬直だ。
チェーンはそっぽを向く。
「んなわけねぇだろ。聖女ってのはプリムみたいに、みんなに愛される人間の事だ」
「じゃあもう少し厳密に言いますね。神託と夢のスキルを持っているのはチェーンさんなんですよね?」
「ち、違ぇよ! いいかプリム耳を貸すんじゃねぇ!」
聖女は大きく首を左右に振る。
「だってだってチェーンちゃんがいない朝には、一度だって神託降りてこなかったもの! 全部、朝のお茶の時間に思いつくのも、チェーンちゃんがそばにいてくれたから。おしゃべりしてるうちに、なんとなぁく思い浮かんだって思ってたけど……遠回しにチェーンちゃんが教えてくれたんだよね」
もう、後戻りは出来ない。二人の記憶を「戻す」ことでもしない限り。
筆頭メイドは大きなため息で返す。
「ったく。違うっつってんだろ」
「違わないよぉ。だってチェーンちゃん、あたしにスキル鑑定させてくれないし」
「そ、そりゃ夢のお告げの神託ってわかりきってんだから、やる必要ねぇだろ」
「だったら今すぐ、鑑定人を呼んできて!」
チェーンは押し黙った。
それが返答にして解答だ。
プリムの大きな瞳から涙がぽろぽろ落ちる。
「チェーンちゃん、ずっと嘘ついて騙してたんだ」
「おまえに黙ってたのは……悪かったよ」
「違うよ! 謝るなら神託にすがるしかなかった人たちだよ!」
「いいじゃねぇか。どいつもこいつも『聖女様のお言葉』っつってありがたがって帰るんだから」
「チェーンちゃんのバカぁ!」
プリムは大泣きだ。慌ててメイが慰めようと駆け寄るが、どうしていいかわからずあたふたしたあげく「うわあああああんん!」と、メイまで泣き出してしまった。
シャチ子がチェーンの顔を指さす。
「ずっと貴様を信じてきたプリムの気持ちを考えろ! 言って良いことと悪いことの分別もつかんのか!?」
「外野は黙ってろ。ぶっ転がすぞ」
またしても拳で語り合いそうな剣幕だ。
僕はチェーンに再び詰め寄る。
女の肩がビクッとなった。
「本当に当てずっぽうなら、聖女の神託の噂が広まりはしません」
「べ、別に全部偶然上手くいっただけだかんな!」
「プリム様からうかがいました。チェーンさんは重要な選択をする時には、失敗しないと」
「ラッキーだったんだよ」
「偶然はそう何度も続きませんし、続いたとしたならもう立派なスキルです。どうしてご自身で聖女をしなかったんですか?」
「…………」
観念したのかチェーンの肩から力がフッと抜けた。
「おれみたいなのが聖女じゃ格好がつかねぇだろ。プリムみてぇに愛されるなんて……できねぇよ」
シャチ子が眉尻を下げる。
「やれやれだな。しかし、失敗をせぬ神託持ちの貴様がなぜ、セツナ様に看破されたのだ?」
言われてみれば確かにそうだ。秘密を秘密のままにすることも、ましてや僕らを神殿に招かなければ、暴露には至らないのに。
「うっせーよ。たまにゃ失敗だってすんだよ」
チェーンの視線が泣き続けるプリムに向いた。
「なあプリム。こんなことになるなんて……おれも思わなかったんだ」
「ど、ど、どどうして……教えて……くれなかったのよぉ!」
過呼吸の聖女は目を真っ赤に腫らす。
「んなの……おまえが全部知ってたら、誰かを騙してるみたいで嫌って言うだろ。嘘つきはおれだけでいいんだ」
「共犯にも……させて……くれないんだ……ひっく……あたしのこと……嫌い……なんだぁ! うわあああああん!」
ますます大泣きするプリム。メイが真珠の涙をこぼして、文字通り僕に泣きついた。
「言い出しっぺの先生! なんとかしなさい役目でしょ!」
「うん。そうだね」
失敗しない神託がこうして外れた……という前提が間違っているんだと思う。
この状態がきっと正解なんだ。
プリムは「共犯」という言葉を使った。天国でも地獄でもチェーンと一緒ならどこにだっていける。そんな風だ。
聖女はずっと違和感を覚えてたんじゃないか?
チェーンに素直に打ち明けて欲しかった。
筆頭メイドは明らかに想定外で動揺してるけど――
僕はチェーンからプリムに向き直る。
「プリム様。チェーンさんは自分じゃ言えないから、僕に聖女の嘘を曝いてほしかったのかもしれません」
「え? でも、でも……」
今度はチェーンに視線を送る。
「偽りの聖女としてプリム様を矢面に立たせ続けることに、罪悪感があった。違いますか?」
「無いっつったら嘘になるな」
仮説だけどぶつけてみよう。
「神託スキルって、自分には使えないんじゃないですかチェーンさん?」
筆頭メイドの表情が歪む。
「な、なんでわかったんだよ!?」
「自分の未来を神託で読めば、失敗はしないと思ったんです。想定外って感じですし。だから……プリム様のことを神託で見て、守ってきたんですよね。幸せであるようにと」
「はうあっ!?」
何もしてないのに、ボディーブローが突き刺さったみたいにチェーンの身体がくの字に折れた。
プリムがぴたりと泣き止む。
「あたしの……幸せ?」
「チェーンさんに素直に打ち明けて欲しかった。けど、恥ずかしがり屋なチェーンさんにはそれができない。だから、僕らが招かれたんです。神託の運命に」
聖女の表情が晴れていく。
「そっか……チェーンちゃんは、あたしがどうしたら幸せになるのか……チェーンちゃんにそう思ってもらえるだけで、あたしはとっても幸せものだよ」
特攻服メイドが膝から崩れ落ちる。支えるようにプリムは抱き留め優しく包むように抱きしめた。
「ごめんな……プリム……」
「ううん。気づいてあげられなくて……ずっとずっとありがとね。これからも……いっしょだよ?」
神託は本物だ。
二人のわだかまりは、こうして露と消えた。
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