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65.もうそれほとんどお茶じゃない

【前回までのあらすじ】

メイドだらけの聖女神殿。迷彩服になるのはもちろんメイド服。

うっかり着込んだセツナは聖女プリムの元へ。

待ち受けるはメイドの過酷なミッション――お着替えのお手伝いなのだった。

 夜の女子会。主催は聖女で参加者は僕ら三人とチェーンだ。

 特攻服メイドは「ったく、しゃーねーな」と、あきれ顔だ。


 夜更けにプリムの私室に集まって、聖女考案のカードゲームで盛り上がった。

 数字と四つの色に分かれたカードを順番に出していき、全部のカードを出し切ったら勝ちというものだ。


 手札が残り一枚になる前に「プリムちゃん可愛い」と言わなければペナルティという不思議なルールがあった。


 勝敗表をつけてたわけじゃないけど、ゲーム慣れしているのか強かったのは――


「残念、そいつだぜ」

「ぐぬぬ……色替えが徒となるとは」


 最後の一枚の読み合いで、シャチ子が場の札を青から赤に変えた結果、チェーンが上がって筆頭メイドの勝利に終わった。


 八割くらい、チェーンが勝ってる気がする。

 悔しそうにシャチ子がテーブルを拳で叩いた。


「なぜだッ! なぜ負ける!?」

「これが駆け引きってもんだぜ魚女。てめぇは自分の腕力に頼りすぎだってんだよコラァ」

「ならば次はカードではなく拳で勝負だッ!」

「上等だ!」


 にらみ合い、おでこをぶつけて擦り合うシャチ子。それぞれの雇用主(?)が引き剥がす。


「シャチ子ステイ! 鮫も空腹でなければ獲物は襲わないという格言をお忘れか?」

「はいはぁいチェーンちゃんも、お友達ができてハッスルしてるのはわかるけどぉ」


 シャチ子が吠える。


「よし! 次のゲームだ。負けたら服を一枚ずつ脱いでいくというのはどうだ? まさか逃げたりはしないだろうなチェーンよ?」

「やってやろうじゃねぇか。かかってこいよ」

「メイだって負けませんとも!」

「やだもぉ~。恥ずかしいかも。けど、女子会だからだいじょうぶだよね? セツナちゃん?」


 わざとだ。こっちに話題を振るなんて、聖女は隠れドSかもしれない。


「よくないですよ。シャチ子さんも落ち着いてください」

「今夜はセツナ様も女子なのだ。問題なかろう」

「大ありですから。お酒飲んでないのにどうして錯乱気味なんですか?」


 チェーンが腕組みして頷いた。


「こんなこともあろうかと、シャチ子の紅茶にだけブランデーを入れておいてやったぞ。9:1の割合でな」

「それってもちろん、紅茶にブランデーを一たらし……ですよね?」

「何をあまっちょろいことを言ってやがんだ。ブランデーに紅茶を少し加えただけに決まってんだろうがコラァ」


 決まってるんだ。

 ということは、さっきから大興奮でゲームを楽しむシャチ子はとっくに酔っ払っていたのかもしれない。


 シャチ子がにへら~っと笑う。


「なるほど謀ったなチェーン! 貴様の紅茶……どうりで美味すぎるわけだ」

「メイドの心ってのはなぁ……おもてなしのマインドなんだぜ。おれを倒してテッペン獲ったメイドルのてめぇが、んなことでどうすんだよ?」

「ふむ。一服盛るのではなくもてなしだったか。疑ったことを謝罪しよう」


 女剣士の方が折れて丸く収まった。

 お酒を飲ませるなんて良い迷惑だ。


 メイが触手ツインテールと両手を使って器用にカードをシャッフルし、全員に配る。


「次のゲームで負けたら脱ぎますね? 最下位の人がバナナみたいにむきむきです。いいですか!? 始めます!」

「誰も脱いだり脱がせたりしないよメイ」


 と、訂正したにもかかわらず、シャチ子もチェーンも深々と頷いた。


「おれは負けないからいいぜ?」

「私とて負けるつもりはない」

「あたしもぉ! 聖女として神託パワーを使ってでも勝っちゃうんだからぁ」


 ぐっと両手の拳を握るプリムにチェーンが「試合中に寝るんじゃねぇぞ」とツッコミをいれつつ――


 ゲームの結果、最下位になって脱がされるハメになったのは……。


「はいメイの勝ち~! 四位抜けですね。ではドベの先生。感想をどーぞ!」

「あ、あの、やっぱり脱ぐとかどうとかやめませんか?」


 一位チェーン。二位シャチ子。三位プリム。で、最下位決定戦にメイが残ってしまった。


 わざと負けたつもりはないけど、集中力を欠いて僕が沈むという結果だ。

 悪質な酔っ払いが声を上げる。


「よーし脱げ脱げセツナ様ぁ!」

「セツナちゃん脱げないならお手伝いしてあげなきゃねぇ」


 聖女までなんてことを言うんだ。

 僕は咳払いすると席を立つ。


「じゃあ、夜も遅いんでこのへんで失礼します」


 逃げよう。と、思った矢先にチェーンの腕がぐいっと伸びた。


「まてコラァ逃げんな! 責任から逃げるんじゃねぇ!」

「先生のぉ~! ちょっといいとこ見てみたい~!」


 メイはどこで学んでくるんだろう。そういうやつ。


 結果――


 女の子たちの手で僕はめちゃめちゃにされてしまった。



 カードゲームでひとしきり盛り上がった後。


 アホ女剣士(酔っ払い)が「セツナ様の裸体をつまみに呑みたい」と、意味不明な供述をした。

 で、チェーンが度数の高い蒸留酒の大瓶と、ショットグラスを二つ自室から持ってくる。


 それから二人はつぶし合いみたいに呑み競い、ほぼ同時にぶっ倒れた。

 ご愁傷様という気持ちすら湧かない。

 もう、服を着てもいいかな。メイド服をこんなにも着たいと思えたのは初めてだ。


 メイはプリムと二人で楽しそうに、今日までの冒険譚を語ったりしていた。

 けど、触手ツインテールがしんなりして、うとうと状態だ。


「おやすみなさいです」


 クラゲ少女はプリムのベッドにダイブして寝息を立てた。

 寝室まで運んであげなきゃだな。


 僕とプリムだけが残る。

 聖女が笑顔を弾けさせた。


「セツナちゃん女子会楽しかったぁ?」

「半分は飲み会でしたけど、まあ僕はともかくメイが楽しそうで、参加して良かったです」

「でしょでしょ~! また今度、神殿都市に来たらやろうね!」


 プリムがそっと小指を差し出す。

 約束の指切りか。

 心地よさそうなメイの寝顔を見ると――


「はい。次に来る時にはメイを……普通の女の子にして戻ってきます」

「約束だよセツナちゃん」


 小指をからめあう。


「ゆーびきった!」


 契約というよりも、僕自身の覚悟の再確認みたいな指切りだった。


 プリムは愛おしげに目を細めると、床に伏せたチェーンに膝枕を貸して髪を撫でる。

 その隣でシャチ子が、へそ天で大の字になっているけど……そっとしておこう。


 聖女は顔を上げて僕に言う。


「あのねあのね、不思議なんだぁ」

「何がですか?」

「チェーンちゃんってほんとに不思議なの。ぜんぜん間違わないあし。ちょっと失敗しちゃったりはあるけど、いつの間にか上手くいっちゃうんだから」

「さっきのカードゲームのこと……だけじゃなさそうですね」


 プリムはコクコク二度頷く。


「悪い人に利用されそうになった時も、この町についた時も、チェーンちゃんがどうするか決めてて……アクシデントはあっても最後の最後にはぜーんぶ丸くおさまっちゃう」

「読みが上手いんですね。チェーンさんって」

「あたしを聖女にしちゃおうなんて、すっごい先読みだよぉ。それにね……あのね……」


 言いづらい、けど聞いて欲しい。おずおずとプリムはお尻のあたりを揺らした。

 黙って待つと――


「思えばずっとなの。神託が上手くいかない日の朝って、プリムちゃんが出張してたりして。いい感じの言葉が浮かぶ時は、いっつも一緒にいたんだ」


 プリム自身も違和感を覚えてるみたいだ。

 聖女の神託の夢を見る力は無い。

 チェーンが囁いて誘導しているのは、間違いないみたいだけど――


「きっと神託でいっぱいになった、聖女様のぐるぐるな頭の中を整理してくれているんですよ。誰かに話すと独りで考えているよりも、アイディアがまとまるってことがありますし」

「そっか~! 良かった」


 プリムはホッと胸をなで下ろした。そのまま続ける。


「あのね、本当はあたし聖女じゃないかもって……自信なくなっちゃう時もあったんだぁ。それにね、みんなとっても良くしてくれるけど、これでいいのかなぁて」

「何か足りないと感じてたりするんですか?」


 僕ができる恩返しがあるとすれば、直す事や戻す事だ。

 少女はふるふると前髪を左右に揺らす。


「逆かも。あたしには多すぎるかもって。こんなに褒めて貰ったり大事にされすぎて……けど、自分じゃなくて、チェーンちゃんのおかげなのに……って」

「チェーンさんはプリムさんがみんなの人気者な事を、幸せに感じているんじゃないかなって思います」

「そ、そうなの!? チェーンちゃんこそ、もっと誰かに褒められたらいいのに」

「プリム様がいっぱい褒めてあげればいいんじゃないですか?」


 聖女の瞳がキラリと輝いた。


「そうするね! これからは、あたしがチェーンちゃんをいっぱいいっぱい褒めて大切にする! チェーンちゃんも喜んでくれるしがんばるんだぁ!」


 チェーンの頭をぎゅうっと抱いてプリムは幸せそうにはにかんだ。


「ありがとねセツナちゃん。相談乗ってくれて」

「チェーンさんの事で悩んでいるのに、チェーンさんには相談できませんよね」


 つきものが落ちたようなスッキリとした表情で聖女は「うん!」と力強く頷いた。 


 プリムは言う。


「明日からも明後日も、この先ずっとずうううっと聖女としてがんばって、みんなが幸せになれるように神託を届けるね!」


 神託の力が無くても。か。


「そう……ですね」


 と、返したものの、なんだか胸の奥がモヤモヤしてつっかえが取れない気持ちになった。

お読みいただき、ありがとうございます!


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