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61.風呂……おや誰か来たような……ウッ……頭が

【前回までのあらすじ】

優勝したから神託してもらおうかと思ったら「夢」に降りてくるの待ちなんだって。

しばらく聖女神殿でごやっかいになるセツナたちだった――

 チェーンから教わったのは意外にも「脱力」の仕方だった。

 筋肉は力を入れれば硬直する。そうなると早く動かすことができなくなる。


 僕みたいな体格だと、純粋なパワーよりもスピードと技術を磨いた方がいい……と、特攻服メイドは実践的なアドバイスをしてくれた。


 筋トレ教徒のシャチ子とは、終始口げんかしっぱなしだ。


 最後はメイと一緒に柔軟体操で訓練を締めくくった。


 で、今は神殿内の大浴場で肩までお風呂に浸かってる。


 聖女神殿の湯を貸し切り状態だった。


 訓練で負った怪我は全部、時間スキルで無かったことにしたんだけど、精神的な緊張感や疲労感は残っていた。


 温かいお湯が全部溶かして消してくれる。なんだかまどろんできた。


 今頃、プリムは無事に夢を見られているんだろうか?


 真っ白な湯気の霧の中、ぼんやり考える。


 神の居場所がわかったら次はそこにどうやって向かうかだ。

 たどり着いたところで、神がメイの願いを叶えてくれる保証もない。


「けど、進むしかないんだ」


 魔王の器。海魔族の強硬派にクラゲ少女が狙われるのも、彼女が魔王だからだ。

 本人の望む望まざるにかかわらず、ただ器であるからという理由だけで、命を狙われる理不尽をメイは背負って生きている。


 と、思ったその時――


 湯気の向こう側に人影が浮かび上がった。

 シルエットだけでわかる。


 大きすぎてはちきれんばかりの胸は、シャチ子だ。


 何度か挟まれたり押しつぶされたりしているから、覚えてしまった……って。


「ちょっと! なんで入ってきてるんですかシャチ子さん?」

「広い風呂なのだからいいだろう?」

「じゃ、じゃあ僕もう出ますんで!」

「待て。たまには裸の付き合いといこうではないかセツナ様よ」

「たまにもなにもダメですって」

「安心しろ。私はセツナ様に何かしたりはせぬ。せいぜい背中を流してやるくらいだ。それに……」


 口ぶりから雰囲気が変わった。


「メイ様がお昼寝の最中なのだ。今夜のオールナイト女子会のためにな。今しかセツナ様と込み入った話はできぬ」

「そういう……ことですか」


 メイには聞かせられない話がある。遠回しに言われて逃げ場がない。


 それにしても、獣魔大森林の狐巫女フゥリィの時といい、お風呂に入ると誰かに凸られる件。


 シャチ子がゆらりと姿を現すと、手を差し伸べる。


「背中を流してやるぞセツナ様」

「う、うわ! ちょ! 隠してください! 色々と!」

「もはや見られて恥ずかしい仲ではあるまい」


 武闘大会で一般客に猫耳メイド服を見られるのは恥ずかしいけど、僕に裸はセーフなのか。


 洗い場に連れ出され、僕の背中に弾力のある柔らかいものが押しつけられた。


「な、な、なにもしないって!」

「背中を流してやっているだろうが」

「サービスが過剰なんですけど?」

「おや? 人間の男はこうすると喜ぶとチェーンに教わったんだが……」


 間違ってない。間違ってないけど。


 そのまま背後から抱きしめられる。


「セツナ様よ。折り入って……頼みがある」

「密着やめましょう落ち着きましょうシャチ子さん」

「なんというか、こう、しっくりくるのだ。抱き心地がちょうどいいのでな」


 胸をぐいぐい押しつけてくる。柔肌のもっちりした感触が背中にぴたりと吸い付いて……なんかもう、ちょっと気持ちいいかも。


 この状態から脱するには、素直に話を最後まで聞くのが早そうだ。


「ご用件はなんですか?」

「メイ様と結婚して魔王になってはくれぬか」


 シャチ子の声はしごく真面目だった。


「け、結婚って。僕は人間でメイは海魔族で……」

「まったく無い話ではないぞ。漁師町などではそういう夫婦も多いというしな」

「結婚なんて……いきなり言われても……」

「セツナ様が魔王になれば、私は直属の部下だ。この身も心も捧げよう。好きにして……ほしい」


 ぴちゃん……と水の滴る音が響くくらい静かだ。


「それでメイは幸せなんですか?」

「少なくとも今よりはずっと。セツナ様が海魔王となった暁には、穏健派が責任を持って王権を護ると誓おう」


 メイが魔王になると決心していれば、強硬派が幅を利かせることも無かったのかもしれない。


 僕が魔王として海魔族の国を治める。

 メイは魔王の器ではなくなり、すべてが丸く収まる。


「まだ神様探しの途中ですし、他の方法も見つかるかもしれません」

「神がいなければ……他に方法が無かったならメイ様はどうなるというのだ」


 いつも強気なシャチ子が鼻声だった。


 メイのことは好きだ。

 だから、この取引は悪くないと思った。


「考えておくよシャチ子さん」

「私としては他の方法などもう、試す必要すらないと考えているのだがな」


 僕とメイが結ばれて子どもが産まれたとしたら、その子はメイと同じように苦しむかもしれない。


「探そうシャチ子さん。やりきる前から諦めちゃいけないよ」

「うむ……そうだな。すまぬ。弱気になってしまった」

「それにシャチ子さんもメイのために自分の身を挺しすぎないようにね」


 柔肌がそっと離れる。

 ちょっぴり未練を感じた。


「では、普通に背中を流させてくれ」

「よ、よろしくお願いします」


 まるで姉ができたみたいだ。

 普段は荒々しいシャチ子が、僕の身体をゆっくり優しく揉みほぐすように洗ってくれた。

 と、しっとりとした吐息が僕の耳の裏にかかる。


「ひい!」

「す、すまぬ。気を緩めてしまった。ただのため息だ。他意は無いぞ」

「ため息にしては艶めかしいっていうか……」

「本当なのだ。そのまま聞いてほしい。少し、気になることがあってな」


 僕は背中を向けたまま頷く。と、シャチ子は続けた。


「メイド武闘大会の決勝。私は勝った気がせぬのだ」

「たしかチェーンさんが気絶したんですよね?」

「あのタイミングで意識を失うほど、力を使い切っていた。私も勝ちを拾ったのだと、あのときは思ったのだが……」

「気になることでも?」

「思い込みかもしれぬが、あの戦い……肝心な時にチェーンから攻撃の意思が消える感触があったのだ。一度ならず、二度三度と」

「シャチ子さんに対して手加減していたってことですか?」


 シャチ子は桶にんだお湯を僕の背中に掛け流す。


「意味がわからぬ。戦闘狂のメイドが戦いを楽しむにしても、あの終わり方では互いに不完全燃焼なのだ」

「チェーンさんに直接訊いてみたらどうですか? なんで決勝で手を抜いたのか? って」

「で、できるわけなかろう! そこでその……探ってみてはくれぬか? 幸い、昼間の訓練でセツナ様の筋の良さをチェーンも理解している。修復士としても治癒士としても有能だと認めているようだからな」

「どうやって真意を聞き出せばいいんですか?」

「そこは任せたぞセツナ様!」


 ああ、最後は丸投げだ。


「上手く聞き出せたら今度は前を洗ってやるぞセツナ様」

「遠慮しておきます! 自分でできますから」

「はっはっは! 冗談だ」


 さっきから何かとジョークには聞こえないんだけど。

 それにもしこんなところをメイに見られたら。


 と、脱衣場側の扉が開く音がした。


「先生~? シャチ子~? お風呂ですかぁ? メイはお昼寝を完了しましたがぁ?」


 メイが絶妙すぎるタイミングで凸ってきた。瞬間――


「いかん。密会がバレてしまう。セツナ様は湯船に!」

「ええっ!?」

「少し潜水しているのだ。私がメイ様を説得する!」


 シャチ子がメイの元へと向かい、僕はお風呂の中に隠れるハメになった。


「わぁシャチ子ではありませんか? 先生を知りませんか?」

「先ほどお風呂から出られたようです」

「お洋服が脱衣室にありますが全裸ですか?」

「ええと……きっとメイド服を着てメイドの中に紛れているのかと」

「なんですとぉ!」

「そ、そうです! 確か、メイドかくれんぼをすると言っておりました。神殿内のメイドに紛れているそうです」

「メイが鬼ですね? 探します!」


 メイの気配が脱衣場から消える。

 湯船に伏せて半分潜水状態だった僕は、ぷかーっと浮かび上がった。

 のぼせちゃいそうだ。


 戻ってきたシャチ子が笑う。


「危ないところだった。が、このままではメイ様が一人かくれんぼ状態だ」

「もしかして……着ろと?」

「すぐにメイド服を持ってくる。風呂から上がったらセツナ様はそちらを着て、メイドかくれんぼを成立させるのだ」


 結局また、アレを着ることになるんだ。

 もう運命と諦めることにした。

お読みいただき、ありがとうございます!


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