60.神託神託とっとと神託……え? 泊まりがけですか?
【前回までのあらすじ】
チェーンとの死闘を制してシャチ子、メイドの頂点へ登り詰める。
けど勝者の表情は浮かなかった。
決着に納得がいかない様子だが――
大会翌日――
僕らは聖女神殿に客として招かれた。
天国の景色を模した中庭に、大きなパラソルが花開く。
テーブルがセットされ、色とりどりのフルーツや焼き菓子がずらりと並んだ。
お茶会だ。招いてくれたのは聖女プリム。メイド長のチェーンが直々にお茶を用意してくれた。
紅茶じゃなくてえリラックスできそうなハーブティーが振る舞われた。カモミールかな?
席についてから、僕はもう一度会釈する。
「改めまして、お招きいただき、ありがとうございます。プリム様にチェーンさん」
ピンク法衣の聖女が微笑んだ。
「セツナちゃん、今日はメイド服じゃないんだぁ」
「勘弁してください」
「似合ってたのに。ね~! メイちゃんもそう思うでしょ?」
メイが両手に一個ずつマフィンを手に、触手ツインテールにはバナナとティーカップを持ちながら「まことにもったいないことです!」と同意する。
僕をなんだと思ってるんだろう。この二人。
一方で――
「貴様、メイドの仕事をこなすことができたのか!?」
「なに驚いてやがんでテメェ。ったりめぇだろうが? あぁん? 売ってんのか? やんのかコラ! スッぞコラァ!」
視線が合う度、シャチ子とチェーンがバチバチになる。双方の主人が「まぁまぁ」「どぅどぅ」となだめる始末だ。
女剣士と特攻服メイドは互いに「ふんっ!」と、そっぽを向き合った。
プリムは楽しげだ。
「あははは! やっぱりお友達なんじゃないのぉ?」
「ちげーかんな。ったく。用事があったら呼べよ」
所作も口ぶりもメイド感ゼロの筆頭メイドは、肩を怒らせ中庭から神殿に戻る。
本題に入ろう。
「プリムさん。神託をお願いしてもいいですか?」
「いいわよぉ。で、何を知りたいのかしら」
メイがマフィンを頬張って「ふぁいふぁーい! ふぁみふぁふぁふぉふぉっふぉふぉっふぉっふぉ!」と口の中の水分を全部もっていかれながら声を上げる。
すかさずシャチ子が紅茶を勧めた。メイは「ぷはー! この一杯のために生きてきたようなものです!」と、オッサン×麦酒みたいなことをのたまった。
プリムは頷く。
「メイちゃんは神様の居場所が知りたいのねぇ?」
「そうですとも!」
通じたんだ今ので。
「メイちゃんは、すぐに知りたいのかな?」
「はい! メイは素早く人間になりますから、そのためにも迅速にこしたことはありませんね!」
「じゃあじゃあ、しばらく神殿にお泊まりしてって」
「え!? わけがワカメですが!?」
メイの触手ツインテールが海藻のようにゆらゆら揺れる。
「えーとね、あたしの神託って寝る前に枕の下にね『こういうのみたいなぁ』って思うものを、手紙にしてそっと入れとくの。で、起きたらなんとな~く降りてくる? みたいなぁ」
シャチ子が腕組みしながら「夢の神託か。なるほど時間がかかるのも無理からぬこと」と納得した。
けど、それなら一泊でいいような……。
「プリム様。もしかしてその夢って、見られないこともあるんですか?」
「せいか~い♪ 不思議なんだけど、なーんにも降りてこない朝もあるの。だから依頼者さんには神殿のお客様になってもらって、神託がキタァ! ってなるまで、お泊まりしてもらうの」
「急かすわけではありませんが、神託ってすぐにとはいかないものなんですね」
プリムはうんうんと二度、頷いた。
「けどね、だいじょぶだいじょぶ。今日はこのあとお昼寝するし、早ければ今日中には神様の居場所、わかっちゃうかも」
メイがハッとなった。
「お昼寝なんてしてみたら、夜、寝れませんが!?」
「うん! だからメイちゃんたちがいてくれると、夜更かし女子会できちゃうよねぇ。楽しみ!」
クラゲ少女は両手を万歳させる。
「女子会! メイは生まれて初めての女子会かもしれないのです! 先生には秘密ですね! わかります!」
プリムも「秘密だよぉ」と、おっとり口調で言う。僕をじっと見つめながら。
「ツッコミ待ちですよねプリム様」
「あらぁ! セツナちゃんもメイド服姿なら女子の仲間に入れてあげていいけど?」
シャチ子が紅茶で唇を湿らせると「よかったなセツナ様。仲間はずれにならずに済んで」と頷いた。
どうして世界は僕に女装を強要するんだろう。神がいるならクレームものだ。
けど――
神がいなかったら、どうなってしまうんだろう。
プリムに夢の神託が降りてこないまま、ずっと神殿にご厄介にもなれないし。
聖女の居場所だけあって、刺客がそう易々とは入り込めないだろうけど……。
「とりあえず、今日は神殿にお世話になろう」
メイは「賛成です! 先生は夜のためメイド服のご準備ですね!」と、テーブルにちょっと前のめり気味になった。
先ほどからシャチ子がどことなく寂しげだ。
「どうしたんですかシャチ子さん? チェーンさんがいないと盛り上がらないですか?」
「あ、ああ。そのことだが……」
シャチ子の視線が一度、プリムに向く。聖女は「なぁに?」と首を傾げた。
「聖女殿はチェーンとは昔なじみなのか?」
「そだよー。あたしとチェーンちゃんは孤児院出身で、スキル奴隷にされて売られちゃいそうになったの」
おっとり口調のまま、普通のことみたいに聖女は言う。
僕と同じだ。孤児院の子どもを人身売買するのって、どこでもある話……なのかな。
聖女って、選ばれた人だと思うんだけど、売られそうになるなんて。
「聖女様がですか?」
「そうよぉ。けどチェーンちゃん強いでしょ? 奴隷商人ぼっこぼこにしたの」
「隷属の首輪をつけられていたら、そんなことできませんよね?」
「あのねぇ~チェーンちゃんだけつけなかったみたい。なんかぁ、嫌な予感がしたんだって」
運良く、首輪をつけられる前に気づいて奴隷商人を倒し、プリムの首輪を外させて二人は逃亡。
それからずっとチェ-ンがプリムを引っ張っていって、神殿都市にたどり着いたのが二年前。
ちょうど聖女の代替わりのタイミングで、プリムを立候補させた……と、聖女は語った。
プリムには夢の神託という、聖女に相応しいスキルがあったから――
メイが手を組んでプリムに熱い眼差しだ。
「すごいですよ! 聖女様は普通の人間だったんですね!? 出世ですか?」
「そうよぉ。あっ……良かったらなんだけど、あたしのことはプリムちゃんって呼んでほしいな」
「わかりましたプリムちゃん様!」
「あはははぁ! メイちゃんって変な子ぉ!」
「個性的です! 変じゃないですが!」
「自分で言っちゃうなんて、とっても素敵♪」
メイとプリムって気が合うのかもしれない。二人とも楽しげだ。
「安心してねセツナちゃんにシャチ子ちゃん。それにメイちゃんも。お茶会とおやつで幸せパワーいっぱいだから。お昼寝したらきっと、神託ゲットできちゃうと思うの」
聖女は「いっぱい寝るね!」と、僕らにVサインを見せた。
・
・
・
茶会が終わり、聖女はあくび交じりに寝室へと向かった。
僕らも神殿内に客間をあてがわれる。
メイドたちはみんなシャチ子に羨望の眼差しだ。握手やら、サインを求める人までいた。
チェーンとの激闘を制した大会優勝者。すっかりシャチ子は有名人だ。
神殿内の回廊を三人で歩く。メイドとすれ違うとみんな立ち止まり、シャチ子に会釈をした。
「ふむ。チェーンはよほど慕われているのだろうな」
「どうしてわかるんですかシャチ子さん?」
「海魔族の私にメイドたちは一様に敬意を表する。メイド長と同格ということなのだろう」
メイがえへんと胸を張った。
「そんなシャチ子よりメイは偉いのですよ!」
「もちろんですメイ様」
どういう負けず嫌いなマウントの取り方なんだろう。
「だめだよメイ。そういうのは……」
「お待ちください先生! まだ話は終わっていませんが?」
「続きがあるの?」
「無論! 一般メイドより偉い筆頭メイドと同じくらい偉いシャチ子より偉いメイですが、もっと偉い人がおりますので! つまり食物連鎖の頂点に立つのは……先生!」
「僕を頂上に押し上げるのやめようね」
「あうぅ。事実なのに!」
なぜかメイは悔しそうだ。
別に偉くなりたいとも思わないし、担ぎ上げられるのは正直、しんどいと思う。
性分じゃない。
僕らは中庭に戻る。
部屋でくつろいでいても良かったんだけど、それなりに広くて安全も確保できているこの場所は貴重だった。
シャチ子が腰の月光を抜いて峰をこちらに向け構える。
「今後は私ではなくセツナ様がトーナメント戦をすることもあるやもしれぬ。鍛えておいて損はあるまい」
「メイド服で戦うのは勘弁してほしいですけどね」
僕もゴルドンさんの真打ちを抜いた。
メイが見守る中、シャチ子を師匠に剣の実戦訓練に励む。
そんな僕らを遠巻きに見つめる視線があった。
チェーンだ。
ちょっとまざりたさそうにしてるな。
メイがチェーンのもとにかけていった。
「あのねあのね! そういうときはですね。いーれーて! ってお願いすればいいんですが?」
「お、おいコラ! ちびっこいの! おれは混ざりたいなんて……」
見た目に反して押しも腕力(触手ツインテール込み)も強いメイに連れられて、チェーンも庭園の中程までやってきた。
「ったく、別にうらやましいとか思ってねぇかんな!」
メイが「いーれーて! って! ほら! ほら!」とチェーンの背中を後押しする。
「チッ……い、いーれー……て」
シャチ子がニヤリ。
「言えたではないか。素直だな」
「うっせーよ! つーか見てらんねぇんだよ。おいコラ魚女! てめぇには教える気ってもんがねぇのか?」
「技術は見て盗むものだ。そうだなセツナ様?」
急にこっちに振ってきたけど――
「あっ……ええと、できればいきなり応用編だけじゃなくて、基礎も学びたいんだけど」
チェーンが胸を上下にゆっさたゆんとさせて笑う。
「ほら見たことか! だろ? だよなぁ? おれは剣はできねぇけど、身体のさばき方ってのはわかってるつもりだ。いっちょ揉んでやっからありがたく、おれ流格闘術の講義を拝聴しやがれコラァ!」
こうして僕は大きなお姉さん二人に無茶苦茶に(特訓)されたのだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
『面白い』『続きが読みたい』と思ったら、広告下の☆☆☆☆☆から評価をいただけるとこれは……ありがたいッ!!
応援よろしくお願いいたします~!




