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6.バナナで学ぶ「時間」スキル

【前回までのあらすじ】

市場の青果店からバナナを施してもらったものの、二人で一本。

お腹を空かせたメイのため、セツナは食べかけのバナナの時間を「戻す」ことに成功。

「時間」スキルの正体は「触れたモノの時間を一秒ずつ戻す」能力だった!?

 バナナが教えてくれたこと。

 まず、咀嚼して呑み込んだバナナはどうやら食べた人間の一部と解釈されるみたいだ。

 口に含んだだけのバナナは時間を戻すと口の中から消えてしまった。


 なので、お腹いっぱいになるまで二人で一本のバナナを交互に食べた。

 元の状態に戻すたびにメイは「先生は素晴らしい方です」と賞賛の嵐だ。

 ちょっとこそばゆい。


 もう一つ、わかったことがある。


 このスキルは僕が触れていないと作用しないみたいだ。

 そして、戻れと念じている時間だけ、対象の時を戻せるっぽい。

 十秒戻せばバナナは十秒前の状態になる。

 戻しすぎると、手元から消えて元の房にくっついてしまうのかと思ったけど、そうはならなかった。


 で、最後にわかったことがある。


 バナナを食べきってしまうと、それはバナナではなくバナナの皮になるらしい。


「あう! もうバナナに戻らないのですか。終わりです。世界の破滅です!」


 勢い余ってバナナを食べきってしまったメイだけど、僕は「大丈夫だよ」と励ました。


「ですが……バナナさえあれば永遠を生きていけたのに……メイは許されざる過ちを犯しました」

「心配はいらないよ。僕の『時間を戻せる』スキルを使ってお金を稼ごう。そうしたら、ちゃんとバナナを買って食べられるから」

「時間ぐるぐる!? 先生はなんとメンタルがタフガイなのでしょうか。メイはすぐに動揺してしまいます」

「僕が冷静でいられるのは、たぶんメイがいてくれたからじゃないかな。僕一人じゃ気づけなかったし」


 守るべきものがある方が、人間ふんばりが効くみたいだ。

 少女は金の瞳をぱちくりさせた。


「メイはお役立ち情報でしたか!?」

「うんうん。お役立ちでした。お手柄お手柄」

「あはぁ~♪」


 素直に嬉しそうにしてくれるメイに、僕の心は洗われた。

 と、少女はぐいっと頭をこっちに向けてきた。


「はい、どうぞ」

「あの、なにをどうぞなの?」

「いい子だったメイはなでなでしてもらえますが、人間は違いますか? 海魔族ならではの風習でしょうか?」

「そんなことは……ないよ。いい子いい子」

「あっはぁ~♪」


 孤児院で下の子たちにしたように、優しくなでなでする。

 メイは日向ぼっこする猫みたいに目を細めた。


「メイはいいことをした時に、誰かにしてもらったのかな?」

「お付きの者がしてくれたのです」


 お付きの者って……。

 この子は海魔族の中でもいいところのお嬢様だったのかもしれない。


 ともあれ、僕の固有スキル「時間」の基本はバナナで学べた。

 活用して何か仕事ができればいいんだけど――


 そう思った時だった。


「クソッ! 道くらいちゃんと整備しとけよ! 誰かーッ! 手を貸してくれぇ!」


 市場の方で声が上がった。騒ぎになっている。入り口のあたりで荷馬車が立ち往生していた。

 どうやら道のくぼみに車輪をひっかけて、荷車の車軸が折れたらしい。


 神はいるのかもしれない。


 僕はメイを連れて現場へと足を運んだ。

 続々と集まる人だかり。だけど、誰も手を貸そうとはしていない。遠巻きに見るばっかりだ。


 荷台には果物が山盛り。このままだと崩れて台無しになるかもしれない。


「大丈夫ですか?」

「いや助かった……って、はぐれ奴隷か? あっち行ってろ」


 御者に嫌な顔をされた。

 やっぱり見た目って大事なんだな。この服装を早くなんとかしないと。


「僕なら直せるかもしれません。ちょっと見てもいいですか?」

「直せるってお前……本当かよ」

「このままだと荷崩れしちゃいそうですし」

「わかった! できるんならやってくれ!」


 人間、切羽詰まると案外話を訊いてくれるものだ。

 僕は車輪と車軸に触れた。

 「戻れ」と念じて三分ほど。


 車軸が元通りになった。荷車も傾きが解消されて積み荷も無事だ。


「おおッ! 本当に直しちまった。すごいな坊主!」

「困った時はお互い様ですから」


 どうやら僕は、奴隷船で名前も知らないあの女の子に救われたことで、人生観が変わったらしい。


「あんた修復スキル持ちみたいだな。いや、本当にすまない。奴隷なんて言って悪かった。こいつは少ないけどとっておいてくれ」


 修理代金にしては安いかもしれないけど、こっちが勝手にやったことだし文句はない。


「ありがとうな! 本当に助かった!」

「こちらこそ」


 派手に事故ってくれたおかげだ。

 荷馬車が青果店に向かうとほどなくして、さっきバナナを一本恵んでくれた太めの店主が山ほど黄色い房を抱えてやってきた。


「話は訊いたぞ。うちの兄弟が世話になった。それに、すまなかったな。追っ払うようなことしちまって」

「こんな格好をしてますから。仕方ないですよ。それにあなたは見ず知らずの僕らにバナナをくれたじゃないですか。感謝したいのはこっちの方です」


 店主は眉尻を下げる。申し訳なさそうだ。


「俺はつくづく人を見る目がなかった。腹が減ったらうちに顔を出してくれ。果物なら売るほどあるからな。いつでも腹一杯になるまでごちそうするぜ! で、お前さん名前は?」

「僕はセツナ。彼女はメイです」

「メイですがなにか!」


 自己紹介すると青果店の店主はガンドと名乗った。


「よろしくなセツナにメイ! しばらくこの町にいるんなら、仕事を頼むかもしれん」

「本当ですか!?」

「酒場の女店主を訪ねてくれ。ミランダってんだ。ガンドの紹介って言えば通じっからよ!」


 ガンドは豪快にガハハと笑う。メイも腰に手を当て胸を張って「がはははー!」と真似をした。


 海綿スポンジ並みに吸収力がありすぎるのも考え物かも。


 ともあれ、酒場のミランダをたずねてみよう。

 その前に、荷車修理の謝礼で服を買った方がいいかもしれない。


 奴隷服とぴっちりワンピース白水着じゃ気まずいもんな。

お読みいただき、ありがとうございます!


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