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59.シャチ子……インファイトだ

【前回までのあらすじ】

敬老の精神で、おじいちゃんをパフパフしました。

シャチ子はとってもえらいとおもいます。

:メイの日記より

 着衣の乱れたシャチ子の服を元に戻して送り出す。

 僕とメイは闘技フィールドのぎりぎりに立った。

 メイがシャチ子に声援を送った。


「がんばえ~! 負けたらお夕飯抜きですぞ~!」

「それはかわいそうじゃないメイ?」

「じゃあじゃあ、勝ったらお酒を許可するのですが?」


 シャチ子の肩がビクンとなった。


「べ、別に酒が呑みたくてがんばるんじゃないんだからな!」


 誰に対するどういった感情ツンデレなんだろう。


 身構える猫耳メイドに特攻メイド服の少女が告げる。


「酒の肴って言葉があるけどよ……魚には鮭ってのがいるよな。で、てめぇは酒飲みの魚女ってわけか」

「要領を得ないな」

「う、うるせぇよ。ちょっとした雑談だろうが」


 チッと舌打ちしてチェーンも構えをとった。

 実況席で拡声魔導具を使い、聖女プリムが宣言する。


「この戦いで勝った人が最強のメイドさんだよぉ! チェーンちゃんメイドル目指してがんばってね!」


 特攻服メイドがスッと右の拳を天に掲げた。

 観客席は大盛り上がり。


 メイが「ブーブー! 主催者がどっちかの選手だけ応援するの良くないのでは?」と、抗議した。


 歓声にかき消されて届いてないけど、もっともだ。


 ここは敵地で、僕らはチェーンの引き立て役。そんな雰囲気。


 会場の魔導式巨大投影板に、金色のメイド服が飾られたトルソーが大写しになる。


 提供:バトルメイドコスチューム専門店「ますらお」


 と、投影板に文字が浮かび上がった。


 聖女の声が響く。


「はーいみなさん静粛にねぇ! ではぁ……最強の座を賭けたメイド全一決定戦の決勝戦を開始しま~す♪」


 プリムが木槌で鐘を叩く。


 カーンと鳴ったと同時に、闘技場の中心で二人のメイドは激しくぶつかり合った。


 パワーとパワーがしのぎを削り、攻防がめまぐるしく入れ替わる。


 シャチ子の甘い拳打にチェーンは絶妙なタイミングでカウンターを食らわせた。


 顎を打ち抜かれてシャチ子の頭がくらりとなる。後ろにのけぞり下がるシャチ子へと、チェーンは踏み込みボディーブローを食らわせた。


「血反吐まき散らせやオラァ!」


 くの字に身体を曲げるシャチ子。メイが「シャチ子おおおおおおお!」と、名前を叫んだ。


 シャチ子は――


 ニイと口元を緩ませる。


「甘いぞチェーン」

「はぁ? どうして口がきけんだてめぇ? 鳩尾直撃だろうが!?」


 拳を引くチェーンにシャチ子は姿勢を戻して告げる。


「私の腹筋をめるな小娘」

「だ、誰が小娘だコラァ!」


 メイが瞳を輝かせて解説する。


「いいですか先生。シャチ子の腹筋。それは鋼鉄の門。並みの拳ではこじ開けることは不可能!」

「へ、へぇ。すごいね」

「先生も早く鋼鉄の腹筋を手に入れてください。以上、メイからのお願いでした」


 少女はぺこりとお辞儀をした。返事を待ってるぞこれ。


「考えておくよ」


 やるとは言ってない。繰り返す。やるとはいってない。


 なんだろう。海魔族には筋肉信仰があるのかもしれない。


「さあ先生! シャチ子を応援しましょうね!」

「が、がんばれ~! シャチ子さん!」


 シャチ子はうんと頷いた。視線をチェーンに向けて、自身の顔を立てた親指で指し示す。


「遠慮せず顔を殴ってこい」

「きっちり顎先狙ってんだろうが! そっちこそ日和ったパンチばっかしてんじゃねぇよ!」


 今度はお互いに遠慮なしで、顔面急所ありありの打撃戦になった。

 チェーンの抜き手がシャチ子の眼球を狙う。

 あまりに危険すぎるけど、不思議と二人から殺気みたいなものは感じない。


 失明くらいすぐに直せる修復士が救護班にいるってことか。


 いなくても、僕ならなんとかできる。どちらかが死ぬようなことが無い限り。


 遠慮も容赦もなく、美しい二人の女性が各々の力と技をぶつけ合った。

 互いのメイド服を掴んでくんずほぐれつ。

 もみ合いへし合い。投げ技から寝技に持ち込んでの死闘になった。


 制したのは――


 シャチ子だ。チェーンの左腕を極める。


「折るぞチェーン」

「やれよバカが!」


 ギブアップしろというシャチ子の忠告は受け入れられず、チェーンの腕があり得ない方向にねじ曲がる。


「ぐああああああああああああああああッ!」


 片腕一本とったシャチ子の勝利は目前だ。

 これ以上は……と、シャチ子が腕を放して立ち上がる。


「もう立つな。腕一本の差は埋まらぬ」

「…………」


 だが――


 チェーンは諦めるどころか瞳に闘志を燃え上がらせた。


「なぜそこまで戦おうとする」

「理由なんてねぇよ。こうやって血湧き肉躍る……楽しいじゃねぇか?」

「理解できぬ」

「なに寝言ほざいてんだよ。同類だろうが」


 シャチ子は「同類……か」と短く返しながら、実況席を見上げた。


「聖女よ! これ以上やればチェーンを殺すことになるやもしれぬ。この女は止まらぬぞ」


 客席のざわめきをピシャッと鎮める声がプリムに届く。


「ん~! チェーンちゃんギブアップするのぉ?」

「するわきゃねぇだろ! おれら何年の付き合いだと思ってんだ? 忘れちまったのかよ」

「だよねぇ。だから続行。だいじょぶだいじょぶ。誰も死なないって神託にも出てるからぁ」


 プリムは自信満々だった。


 試合続行。会場沸騰。僕らはただ、シャチ子の勝利を願い固唾を呑んで見守るだけだ。


 流れが変わった。


 片腕を使えないチェーンの敗北は必至に見えたのに、シャチ子の動きが悪くなる。


 メイが触手ツインテールをそわそわさせた。


「ああ、シャチ子の悪いところ出てる」

「どういうことなのメイ?」

「手負いの獣は強くなるし、シャチ子はこういうフォーマルな決闘は、正々堂々タイプ。相手にハンデがあるとそれに合わせようとしちゃうのですね。わかります」

「けど、試合の流れの中でシャチ子さんが自力で手にした優位だよね」


 クラゲ少女はそっと首を左右に振った。


「あそこで勝負が終わるとシャチ子は思ってましたから。油断も隙もあったもんだです」


 再開された打撃戦でシャチ子が押される。チェーンは特攻メイド服の裾を翻し、蹴り技を中心に攻撃を組み立てた。


 シャチ子もそれに合わせて拳打を封じ、蹴り合いだ。

 短いスカートの丈から白い布地が陽光に煌めく。

 ぎりぎり見えてしまうところに、メイド服専門店の計算を感じた。


 戦う二人はそれどころじゃない。

 チェーンが叫ぶ。


「バカかてめぇは! ハンデのつもりかよ!?」

「黙れ。そういう性分なのだ」


 互いの蹴り脚が交差した。

 今度はシャチ子が体勢を崩す。


 すかさずチェーンが追撃の構えだ。

 メイが叫ぶ。


「危ない! 逃げてえええええええ!」


 シャチ子は回避せず踏みとどまる。

 意地の張り合いなんだ。


 崩れた体幹を戻す前に、次の蹴りがシャチ子を襲う。

 チェーンは高く跳ね上げた脚を地面目がけて打ち付けた。


 かかと落としだった。


 シャチ子の背丈をものともしない。


 大鉈のように振り落とされた蹴り。あわや脳天直撃というところ。シャチ子は首をそらした。が、鎖骨に受ける。


「ぐあっ!」


 苦悶の声と表情に、メイが両手で自身の顔を覆い隠す。


「あうぅ……シャチ子の甘ちゃん。甘々ちゃんなのです」


 一発KOこそ免れたものの、ダメージは計り知れない。


 今度はシャチ子が地面に膝を突いた。


 屈する猫耳メイドにチェーンの右拳が迫る。


 終わりだ。


 僕はバトルフィールドに踏み込もうとした。


 負けが決まったなら、これ以上、シャチ子が傷つく理由はない。

 いくら互いに殺意がない戦いであっても……だ。


 止めようとする僕をメイの触手ツインテールが引き留める。


「ギブアップは選手の権利。先生にも、それを奪うことは許すまじ」

「あっ……うん」


 僕は踏みとどまった。

 メイの言う通りだ。シャチ子が諦めていないのに、僕が邪魔するわけにはいかない。


 チェーンはシャチ子のギブアップを引き出すためなのか、なかなか拳を振り下ろさなかった。


 シャチ子が顔を上げる。


「どうした? 勝利は……目前……だぞ?」


 ドサリ――


 と、大きな身体が倒れた。


 地に伏したのはシャチ子……ではなく、チェーンの方だ。


 もうとっくにチェーンの体力は限界に達していたのかもしれない。


 シャチ子は怪訝そうだった。不満げに見える。


 が――


 審判がやってきてチェーンの状態を確認すると、両腕をぶんぶん振って「戦闘続行不能」を実況席に伝えた。


 カーンカーンカーンカーンカーンカーン!


 けたたましく鐘がかき鳴らされる。


 プリムが大会の最後をこう締めくくった。


「なんとびっくり! 優勝候補のチェーンちゃんを破ったのは流浪の海魔族猫耳メイドのシャチ子ちゃん! チャンピオンおめでとぉ~! 今日からあなたがメイドの象徴……メイドルね!」


 呼吸を整え直してシャチ子は立ち上がる。

 と、審判がシャチ子の右腕を天に掲げさせた。


 会場からはチェーンのファンのブーイングと、シャチ子とチェーンの健闘を讃える拍手が半々だ。


 少し釈然としないというか、シャチ子的には不完全燃焼っぽいけど。


 優勝したことで、副賞の「聖女の神託」を僕らは手にすることができそうだ。


 金色のメイド服は……見なかったことにしておこう。

お読みいただき、ありがとうございます!


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応援よろしくお願いいたします~!

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