58.達人の壊し方
【前回までのあらすじ】
決勝トーナメント開幕!
その初戦。チェーンを逆恨みするツルツルタコ助メイドだが、無事粉砕玉砕大喝采されましたとさ。
めでたし、めでたし。
シャチ子も無事、準々決勝を勝利した。先に決勝に進んだのはチェーンだ。
ベスト4の二試合目。シャチ子の相手は――
「ふぉっふぉっふぉ。お若いの。なかなか活きがええ」
達人の雰囲気を醸し出す痩躯の老人だ。クラシカルなメイド服を枯れ木みたいな身体にまとう。
対するシャチ子は猫耳メイドだ。
二人の体格差は一目瞭然で、女性としては背が高いシャチ子より、翁は頭二つ分小さかった。
シャチ子の胸の大きさとかも考えると、体積ベースでこの老人は半分くらいしかないかもしれない。
猫耳メイドがフッと口元を緩ませる。
「準決勝まで残ったのは偶然だろう。今すぐ棄権すれば痛い目をみずに済むぞ……ご老体」
メイが「あっ、それぇ死亡フラグですよ! 脂肪はシャチ子のお胸のたわわで十分ですのに!」と、ツッコミを入れた。
老人は準々決勝を不戦敗で勝ち上がってきたため、情報がない。
相手は棄権した。
理由は明かされていないけど、熱狂的なバトル大好きの参加者だらけなのに……。
ちょっと嫌な予感がする。強キャラの匂いだ。
翁は柔和に微笑んだ。
「遠慮は無用じゃて。かかってきなされ」
シャチ子はため息をつく。
「あまりご老体にむち打つようなことはしたくないのだがな」
そのまま両腕を上げてファイティングポーズを取る。
警告はしたと、猫耳メイドの視線は言いたげだ。
一方、クラシカル翁メイドはそっと片足を後ろに引いて、膝を曲げ一礼で返す。
可憐な所作だ。メイドとしてはあちらの方が上っぽい。
僕の隣でメイが「あらあらシャチ子さんったら、お辞儀もできませんのねおーっほっほっほ!」と令嬢っぽく高笑いしてみせた。
本当に、どこで覚えてくるんだろ。そういうの。
実況席の聖女プリムが「えっとぉ、おじいちゃんも猫耳ちゃんもがんばってねぇ♥」と、拡声魔導具で会場中に声を響かせてる。
すぐさま聖女は木槌を鐘に叩きつけた。
カーン! と、乾いた金属音が響き――
先に動いたのはシャチ子だ。
左右の拳打をコンビネーションで翁メイドに仕掛ける。フックやアッパーといった弧を描く軌道の打撃も織り交ぜたにも関わらず。
「ふぉっふぉっふぉ! 予備動作が大きいのぅ。どこから飛んでくるのかバレバレじゃわい」
翁メイドは前腕でシャチ子のパンチを払い落とし続けた。
一方的に攻めているのは猫耳メイドだが、有効打無し。
メイが触手ツインテールを空中で「シュッシュ」とシャドーボクシングしながら解説する。
「ご覧なさいな先生よ! シャチ子パンチは当たればぶっとぶハイパワー。なのにこれといって効きません」
「どうやって防いでるんだろ?」
シャチ子に剣の稽古をつけてもらう時、決まって僕は彼女の放つ峰打ちにかっ飛ばされる。
ともかくものすごい膂力で、ゴルドンさんの「真打ち」でなんとか直撃は防ぐので精一杯。
メイは金色の瞳をグッと細めてクラシカルメイドの動きをチェックする。
「あれはすごい技術ですか? はいそうですね。先生、攻撃にはベクトルがあります」
「ベクトルって?」
「質量はパワー。そして向きです。方向なのです! 人体の骨格はメイの触手ちゃんみたいにグネってません。可動域は限界がありまする。つまりは! どこでパワーをためて、どういった軌道を描いて、最終的にどこへと向かってくるのか。これ、人の身体の構造を熟知していればこそ、予測がつくという感じですが?」
クラゲ少女はめっちゃ早口だ。
両手をグーにして胸元でぶんぶんと上下にさせる。なんだかかわいい。
「つまりどういうことなの?」
「シャチ子はパンチを打つ前から、どんなパンチか全部バレてます。そして、軌道は横からの力に弱いから、あのジジイは腕でシャチ子の攻撃を横に押して、全部そらしやがりまして!」
なるほど。力に力でぶつかるんじゃない。自分に向かってくる力に対して、別の方向性を与えることで擬似的に空振りさせてるんだ。
理屈はわかっても、なんなくやってのけるあの老人は化け物だ。
準々決勝で棄権した選手の気持ちが少しだけわかった気がした。
僕はフィールド場外からシャチ子に言う。
「打撃より組み技が有効ですシャチ子さん!」
「ええい! そんなことは理解している。だが、掴ませてもらえぬのだ!」
メイが叫ぶ。
「シャチ子! キャストオフです!」
一瞬、シャチ子の動きが止まった。
その隙に翁メイドの蹴りが飛ぶ。枯れ木のような四肢から放たれたとは思えない、鞭のようにしなやかな蹴り足だった。
間一髪胸元を掠めたが、鋭い一撃にシャチ子の猫耳メイド服のエプロンがもっていかれた。
ぶるんと震える双丘。
不甲斐ないシャチ子の戦いぶりに、後方ライバル顔で腕組みしながら戦況を見つめため息をつくチェーン。
蹴り足に一瞬、ぼよんとした弾力を感じた翁メイド。
シャチ子は――
「ええい! 死なば諸共!」
メイド服の胸元をはだけさせ、レースの下着をちらつかせた。
翁メイドといえど男。なんだと思う。
老人の視線がシャチ子の谷間に吸い込まれる。
おかげで猫耳メイドが掴みかかる手を振り落とす判断が、一瞬遅れた。
「し、しもうた!」
「取ったぞ!」
シャチ子は老人の身体を引き寄せ、ベアハッグで背骨を折りにかかる。
枯れ枝は簡単にぱっきりと折れた。
メイが触手ツインテールと両手で十字を切る。
「二つのおっぱいに顔面を挟まれて、おじいさんの死に顔はとっても安らかなものでした」
「勝手に殺しちゃだめだよメイ」
勝負ありと判断されたのか、カーンカーンカーンとゴングが鳴る。
シャチ子が翁メイドの身体をそっと離すと、すぐに救護班がやってきて担架の乗せて、医療室に老人を搬送した。
実況席で聖女が「勝者はああああ! 猫耳メイドちゃ~ん♪」とコールする。
こうして――
決勝戦の対戦カードが決定した。
猫耳メイドVS特攻服メイド。
勝利の女神……いや聖女かも。は、いったいどちらに微笑むのだろうか。
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