53.特攻暴れ馬VS海の殺し屋
【前回までのあらすじ】
メイドの武闘会で優勝したら聖女の神託がもらえるんだって! あははすごいね!
じゃあシャチ子さんメイド服に着替えようか?
え? 着たまま動ける普及品の服がないって?
なら専門店でセミオーダーしよう! という流れ。
「落ち着いてください! まずは話し合いま……あっ」
止めに入る間もなく――
二人は殴り合いを始めた。
壮絶な拳と蹴りの応酬だ。トルソーもマネキンも吹き飛び店内がぐっちゃぐちゃになる。
店主は白目を剥いていた。
店の被害総額でそうなっているのか、嬉しさで絶頂してしまっているのか。
両方かもしれない。
それにしても、海魔族の腕力自慢なシャチ子を相手に、暴走メイド――チェーンは一歩も引かなかった。
掌底を放つシャチ子と、それを掴んで関節を極め、投げるチェーン。
「突きが遅ぇぞ! ハエが止まるぜ!」
「くっ! させるかッ!!」
チェーンの足に自分の足を絡めてシャチ子は投げを阻止した。
密着して打撃を放つ距離が無いところで――
「うおらっ! 食らえや魚クセぇ女が!」
暴走メイドが頭を振るってシャチ子の顔面に後頭部をぶつけにいった。
頭突きだ。腕を掴まれているので避けきれずシャチ子は直撃を受ける。
鼻血を出す。
シャチ子じゃなくて店主が。
食らったはずのシャチ子はけろっとした顔だ。
「今度はこちらの番だな」
メイドの襟を掴んでシャチ子は持ち上げた。
強引で力任せの裏投げ。
シャチ子の背中が柔軟にアーチを描き、綺麗なブリッジを完成させた。
激しく揺れて今にもこぼれ落ちそうなシャチ子の胸元は、見なかったことにしよう。
暴走メイドが「なんつーバカ力ッ!」と驚きながらシャチ子の腕を手放し、空中で身を翻してスープレックスから脱した。
背中から落ちず着地。シャチ子も素早く体勢を立て直し、再び二人は対峙する。
二人にとって一連の攻防は、名刺交換みたいなものだった。
「人間にしてはやるではないか?」
「魚のくせに良い腕してんな。この店に来るってことは……今度の大会、出んのかてめぇ?」
「貴様のような強者がいるのであれば……いや、だが……恥ずかしぃ」
最後、ぼそりと小声で本音がこぼれた。まだ、シャチ子は迷っているみたいだ。
暴走メイドはファイティングポーズを解いて襟元をただす。
「名前、なんてんだ?」
「訊ねるなら先に名乗るのが礼儀というものだろう」
「チッ……たく魚くせぇだけじゃなく面倒くせぇ女だ。おれはチェーン。聖女直属の筆頭メイドだ」
「私はオルカ……」
メイが頭の上で触手ツインテールを×印にした。メイはこの世界からシャチ子の本名を抹消したいんだろうか。
女剣士が咳払いを挟んでやり直す。
「私は……シャチ子。メイ様にお仕えする剣士だ。そして、こちらの少年はセツナ様。修復士だ」
チェーンが僕とメイを値踏みするように上から見る。
シャチ子で慣れてたけど、この人もデカいな。身長も……胸も。
って、胸のところの仮留めピンが外れちゃってる。
「あの、服の胸元のピンが取れちゃってますよ?」
チェーンが店主に向き直る。
「おいM豚奴隷男。とっとと直せ……って、気絶してんじゃねぇよ」
店主は完全に逝ってしまっていた。意識が、ここではないどこか遠くへと。
暴走メイドは僕の前に戻ってくる。
「直せ。修復士ってんならこれくらいできんだろ?」
「え?」
「M豚が死んでんだから、やれって。金の話なら手持ちは無いんで、あとで神殿まで来い。踏み倒したりしねぇから」
メイが「先生! 困った時はお互い様ですから!」と、僕に代わって座右の銘を口にした。
けど、大丈夫なのかな。
「わ、わかり……ました」
とりあえずいつもの感じで時間を「戻す」と――
ピンが全部外れて服の形をしていたものが、型紙から切り抜いた布と仮縫いの糸に戻ってしまった。
僕の目の前にそびえ立つ二つの双丘。南半球は綺麗なお椀型だ。
メイが言う。
「わあ! 全裸ぁ!」
瞬く間に、文字通り一糸まとわぬ姿になった暴走メイドの顔が真っ赤に染まる。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
両手で胸を隠してチェーンはその場にしゃがみ込む。
シャチ子がニヤリ。
「ずいぶんと女々しい悲鳴だな。かわいいぞ貴様」
「う、う、うるせぇ! おい修復士どうなってんだ!」
「僕のスキルはその……『戻す』のが得意で。まだ服として完成してなかったから、素材に戻っちゃったみたいです」
「そうなるなら早く言ええええええ!」
やらせたの、そっちじゃないか。
メイが僕の服の袖をくいくいする。
「先生、戻してばかりではないのですが?」
「あっ……そっか。上手くできるかわからないけど」
床にはらりとちらばった布きれに触れて、僕は時間を「進める」イメージをする。
チェーンの身体に布がぺたぺたtp張り付いていった。
さらに時を進めると、未完成だった特攻メイド服が完成してしまう。
いったいどこから本縫いの糸とかがやってきたんだろう。自分の能力ながら時間スキルはわけがわからない。
チェーンはゆっくり立ち上がった。
軽く咳払いを挟む。
「な、なんだよ上手くできんじゃねぇか。縫合も完璧だぜ。このフィット感……いつものM豚の仕事ぶりと変わらねぇな。もう、こいつクビにしちまうか」
暴走メイドは握った拳をシャチ子に向ける。
「決着は武闘会だ。予選で消えんなよ」
「わ、私は出るとは……」
「びびってんのか? あぁん?」
「なんだと? やってやろうではないか!」
このチェーンってメイド、シャチ子の扱い方が上手いな。
ちょっと見習いたいかも。
暴走メイドが僕とメイに向き直る。
「んでガキんちょ修復士。縫合代金とりにあとで聖女神殿に来やがれ。おれの名前を出したら中に入れるようにしといてやっから」
最後にもう一度シャチ子に向けて「逃げんじゃねーぞ魚女ぁ!」と念押しし、チェーンは店を去った。
シャチ子は「魚ではないのだが……」と呟くが、メイは「だいたいいっしょ」とかなりざっくりとひとくくりにしてしまった。
で、嵐が過ぎ去った後のような散らかり具合の店内に、僕らが残る。
店主は気絶したままだ。このまま放ってもおけない。
時間スキルで丸顔眼鏡男の意識を取り戻させた。
「ハッ!? 私はどこ? ここはだれ!? ああっ! 決着はどうなりましたか!?」
シャチ子が腕組みして返す。
「引き分けだ。大会まで持ち越しだな」
「なんと! それはすばらしいですぞ! では早速、お姉さんにぴったりの戦闘装束をって、わたしの店がああああああああああああああああああああああ!!」
自分で「もうどうなってもいい」みたいに言ってたのに、ショックを受けてるよ店主。
床に膝を突き絶望する小太りの青年に僕は訊いてみる。
「店の修復をしたら一着サービスしてもらえませんか?」
「ええ!? そんなことできるんですかお客様?」
僕は床に手をあてた。範囲を店内のショールームに限定して時間を三十分ほど戻す。
シャチ子とチェーンが暴れ散らかしたところだけが、あっという間に元通り。
「お客様は神様です!」
「ええと、困った時はお互い様ですから」
「一着といわず、二着でも三着でも品物をお持ちください!」
なんかたかってるみたいっていうか、それこそマッチポンプな気はするけど――
シャチ子は自分の羞恥心と運動性能と防御力の限界的な猫耳メイド服を手に入れた。
猫耳カチューシャと尻尾アクセサリーは脱着式のアタッチメントだが、店主からの強い希望もあって装着が義務づけられる。
メイは「お魚なのに猫なんて滑稽ですね先生!」と、まあ、シャチ子に容赦がない。
で、メイは水着メイド服。いつ着るのかはわからないけど。荷物鞄が重くなりそうだ。
なぜか僕にまで男性用メイド服が支給された。
この店は顧客の性別を問わない男女平等が売りらしい。
下着までセットで……どうしよう。空いた時間に市場のフリーマーケットで一式売るか。
メイが笑った。
「これで三人お揃いのメイドさんですね!」
同じじゃない気がする。なんなら僕のメイド服が一番普通まである。
お金をまったく支払わないのも悪いので、シャチ子の一着分以外は店に納めた。
店主は「良い試合を期待してますよ!」と、まるで僕とメイまで出場すると思ってるみたいな口ぶりだ。
よく見ると――
三人それぞれのメイド服の背中側に、店の名前がちょっと大きめに入っていた。
出資者を背負うメイドって、もうなにがなにやらだ。
ともあれ――
「セツナ様よ。チャンスだな」
「そうですねシャチ子さん」
メイが不思議そうに首を傾げる。
「何がチャンスだと? 先生! 細やかな解説をお頼みもすもす」
「チェーンさんから縫合代金を貰う名目で、聖女神殿に入れるってことだよ」
「おー! それはそうでした! じゃあ、メイド服着なきゃですね! 先生も!」
「いや、着なくてもいいと思うんだけど」
専門店をあとにして、僕らは再び聖女神殿へと足を向けた。
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