52.バトルメイドコスチューム専門店「ますらお」
【前回までのあらすじ】
聖女に会いに出かけた三人。
突きつけられた現実は残忍。
神託もらいに苦労して三年。
大会優勝目指すのに賛成。
バトルメイドコスチューム専門店「ますらお」――
聖女が治める神殿都市にどうして? 荘厳な町並みの中にあって、あまりに俗っぽすぎる。異質さマシマシだ。
疑惑の真相を確かめるべく、僕とメイは洋館風の建物に突入した。
シャチ子の手を左右それぞれ引っ張って連れ込む。
「や、やめろおおおおおお! やめてくださいメイ様! おいセツナ様! 案外筋力がついているではないか!?」
「旅の合間に時々シャチ子さんに鍛えてもらってますからね。ほら、行きます……よっ!」
「そいやぁ! シャチ子を一本釣りなのらぁ!」
メイが触手ツインテールでシャチ子の身体を絡め取る。逃がさないという強い意志が感じられた。
「うわああああああああああああああああああああああああ!」
もはや悲鳴というより絶叫だ。シャチ子、無事入店である。
店内はなんともいかがわしい。ピンクの照明にミラーボールがくるくる回る。
布面積が極小なきわどいメイド服風ビキニやら、バニースーツの逆バージョンやらを、トルソーとマネキンが着てずらりと並んで僕らをお出迎えした。
「うう、なんと破廉恥な」
シャチ子は胸元を両腕で隠して俯く。
剣士風の着流しで普段から胸をはだけさせているのに、こういう衣装めいたものを着るのは恥ずかしいみたいだ。
女心って難しい。
メイの触手がぴこぴこと宙をさまよう。
「メイはどれにしよっかなぁ。なんだか気分がるんるんしてきますねぇ!」
「今日はシャチ子さんの服を買いに来たんだよ」
「おお、そうであった! 大義である! なっはっはっは!」
急に大物感のある笑い方だ。と、奥で店主が手招きした。
小太り丸顔眼鏡の若い青年だ。
「はいはいお嬢ちゃんにお坊ちゃんにお姉さん。数ある中から、当店を選ぶとはお目が高い。こちらは聖女様から認可いただいたお墨付きの御用達! 公式大会でも着用いただけるユニフォームがずらり! デザイン充実! 可動域も耐久性も自慢の逸品ばかりです! 少々お値段は張りますが、プライスレスな満足感をお約束しましょう!」
「実はその……彼女のサイズに合うメイド服が見つからなくて」
普通の洋品店の服ではシャチ子の胸は収まらなかった。
で、紹介されたのが『専門店』だ。
店主が口角をキュッと上げる。
「でしょうねぇでしょうとも! うちは悩まれたお客さんの終着点。駆け込みテンプルですから。サイズのお直しもすぐに対応いたしますよ! おっと、こういう店をしていると誤解されがちなんですがね、採寸はそちらの試着室でお願いしますね。私がやるとほら、犯罪っぽいでしょ? ぐへへでゅふふ」
「そうなんですか?」
「そうでしょうが! どう見ても怪しい男が女性のたわわやら柔肌やらを採寸と称してアレコレするのは!」
「お店の人がしてくれるものじゃないんですか普通」
「ああしたいよ! したいとも! できるものなら! 女子の助手欲しぃッ!!」
なんだろう。紳士っぽいけど変態さんだ。変わり者の店主は続けた。
「だもんでセルフ採寸してもらってますんで、きっちり測ってくださいね!」
シャチ子が首をぶんぶん左右に振る。
「わ、私はまだメイド服を着るとは言っていな……きゃはああああああん!」
触手ツインテールがシャチ子の首筋をやさしくさわさわなで回し、脇の下を少女の両手がこちょこちょとくすぐった。
女剣士は腰砕けになって、その場に膝を屈する。
「大人しくしろ! メイはパワハラ上司だぞ!」
「は、はひぃ……」
本当にどこで覚えてくるんだろう。そして、パワハラをする人は自分からそれを宣言しない気もする。
連れ込んでおいてなんだけど、シャチ子にはかわいそうなことをしたかも。
「本当に嫌なら普通の洋品店で揃えますか?」
とはいえ、一般普通メイド服だと、あと少しでも激しく動けばボタンが吹き飛ぶ。って感じだし。戦うなんて無茶が過ぎる。
「ううっ……セツナ様よ。バトル中にぎゅうぎゅうの胸が弾けてあられもない姿になる。公共の面前で衆目の集まる中、私に醜態をさらせというのか!?」
「じゃあ、ごやっかいになりましょう」
「この店の服はどれも変態露出コスチュームではないか!」
店主が「お褒めにあずかり光栄です!」と、起立&一礼。
どこまでも前向きな人だな。うん。
メイがフリルエプロンタイプの水着風メイド服を持ってくる。サイズ感はクラゲ少女にぴったりだ。
「メイこれにします! かわいい!」
「シャチ子さんに着てもらうと、いろいろなところがはみ出しちゃいそうだね」
「お肉ですか!? はみ出るビーフ100%ですか!? ええ~しょうがないな~。では、メイが着ますかね! まさしく名案! 天啓! ひらめき!」
シンプルに欲しいみたいだ。
「ええと、予算に余裕があったらメイのも買おうね」
「いいですとも! こうしてメイは先生の専属メイドさんとしてデビューするのであった」
両手でほっぺたを包むと、クラゲ少女はうっとり顔になる。
メイが楽しそうなのは何よりだけど、海綿みたいな吸収率で変なことまで覚えちゃいそうで、ちょっと心配だ。
メイの水着メイド服……見てみたい気もするけど。
いけない妄想に囚われそうになる。目的を忘れるところだった。
僕はシャチ子の手を取った。
「シャチ子さん。真面目に選んでください。僕らの命運が掛かっているんです」
「真顔でなんてことを言うのだセツナ様よ。頭でも打ったか?」
逆にツッコミ返された件――
シャチ子は「ふぅ」と息を吐く。
「だが、そうだな。聖女の神託さえ受けることができれば、メイ様の願いの成就に十歩も百歩も近づく。海魔族の刺客に怯えることもなく、すくすくと健やかに生きていただくためにも……不祥、このオルカ・マ・イールカが文字通り一肌脱がせてもらおう」
覚悟を決めた忠臣が店の奥へとずんずん突き進む。
「さあ店主よ! かかってくるが良い! この私に相応しいメイド服を選んでみせよ!」
「おおおおお客様! なんという気合いッ!? ですが……今はその、お得意様の勝負服の最終調整でしてッ! まず先に採寸からお願いいたしますぅ!」
と、店の奥から長身の女性が姿を現した。
「おいコラ騒がしいぞなんだテメェら? うちのシマで揉めようってんならしばくぞゴラァ!」
外ハネ気味の髪を獅子のたてがみのように振り乱す長身の女性。ほぼほぼシャチ子と同程度だ。
見覚えのある人物だった。
たしか――
神殿都市にたどり着く前。
砂漠の民の隊商に紛れ込んで街道を通った時に、人の列を蹴散らす勢いで荒馬を走らせてた暴走メイドだ。
けど、その時とは身なりが違っていた。
背中に「夜露死苦」の四文字の刺繍を背負い、随所に金色をあしらった特注メイド服。
まだ仮縫いみたいで、ところどころにピンがささっている。
シャチ子がぽつりと呟いた。
「なんと品位の無いメイド服だ」
暴走メイドがシャチ子を睨む。
「おれの特攻メイド服になんか文句でもあんのかアァン?」
ガツッ! と鈍い音が響く。
二人はお互いのおでこをぶつけ合った。あわやキスでもしてしまいそうな急接近だ。メイが両手で自身の目を押さえるように隠した。
けど、指の隙間からこっそり二人を覗き見ている。
「め、メイはすけべさんじゃないですから! きゃー! どうしましょう! シャチ子ダメですよ女の子同士でそんな……ええと……大事なのは同意! 当人同士のオッケーですからぁ!」
クラゲ少女が何を期待し何に興奮しているのか、これがわからない。
互いのおでこをぐりぐりさせて、暴走メイドが言う。
「んだテメェ? やんのかコラ?」
シャチ子も売り言葉に買い言葉だ。
「店主に迷惑だ。戦いたいというのであれば表に出ろ」
「上等だッ!」
いきなり一触即発である。
店主は二人のぶつかり合いに――
「チェーン様に麗しいお客様のコラボ! 激熱! ありがとうございます! ありがとうございます! なんならもう店内で、くんずほぐれず、もみくちゃにもみあってくださっても構いません!」
だめだこの人。頼りにならない。
混沌とする店内で――
僕しか二人を止められないみたいだ。
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