51.再会、お前かよ!?
【前回までのあらすじ】
ジャンクなバーガーを考案したり神殿聖女はフリーダムな予感?
そのスキル「神託」を使えば神の居場所がわかるかもしれない。
乗るしかねぇ! このビッグウェーブに!
聖女神殿を見学するのに二時間待ちだった。
僕らは並ばず信徒たちの列を遠目に眺める。
メイはといえば、神殿前の円形広場にあった噴水で、裸足になってぴしゃぴしゃと水を踏んで楽しんでいた。
「先生! 水がこんなにも! 砂漠の民の怒りが今、爆発寸前ですね!」
「山が近いから水が豊富なんだろうね」
「どうして山があれば水ですか?」
「雨をたくさん地下にため込むんだってさ。それが木の根っこみたいに地底に広がってるんだ。大河の源泉も砂漠のオアシスも、きっとこの近くの山々に降った水が湧いて出たんだと思うよ」
「はへ~! 先生はさすがです。言葉を教える以外はだいたいできますなぁ」
「ちゃんと教えてあげてるつもりではいるんだけど。メイの成長が早すぎてツッコミ……じゃない、訂正が追いつかないんだ」
「つまりメイは天才? で す か ら!」
クラゲ少女が腰に手を当て胸を張った。
瞬間――
足下の穴から水柱がドバッと立って少女は全身水浸しになった。
「下からの突き上げをくらいました先生! 助けておくんなまし!」
「ちょっと待っててね」
めそめそするクラゲ少女の手を引いて噴水から連れ出すと、ささっと一分ほど時間を戻す。
服が乾いて元通りだ。
「わぁ! これでまたびっしゃびしゃ! メイびっしゃびしゃになれますなぁ」
「ならないでって」
待っている間にシャチ子が戻ってきた。
「本日分の見学チケットは完売だそうだ。それどころか、向こう一週間は予約で一杯という。どれほど人気があるのだ聖女という輩は」
「一週間はまずいかもしれないですね」
月齢には余裕を持たせていたけど、海魔族の刺客が神殿都市にも捜索の手を伸ばす可能性は十分に考えられた。
長居はしづらい。
メイが触手ツインテールをぴこぴこさせた。
「聖女様には会えませんか?」
シャチ子はすっかり困り顔だ。頬を人差し指でぽりぽり掻く。
「メイ様。たとえ行列に並んだところで神殿の見学コースを見て回るだけ。聖女に会えるわけではないようなのです」
「はえぇ……困った困った」
「ここはセツナ様の力を関係者に存分に見せつけるがよろしいかと」
「先生! お願いしやす!」
二人が僕に向かって同時に敬礼。
「力を見せつけるって言われても……」
シャチ子が腕まくりして力こぶを見せつけてきた。しなやかさと鋼の強靱さが同居する筋肉美だ。
「私が壊してセツナ様が直す。これでいきましょう。まずは神殿内の美術館を全損してまいりますので!」
「マッチポンプはやめてくださいシャチ子さん!」
メイもほっぺたを膨らませてプンプンだ。
「すぐ力で解決するのは海魔族の悪いとこ。だめよだめだめだめだめっこシャチ子!」
「な、なんですと!? 名案だと思ったのですが」
頼りになるのに時々脳筋。それがシャチ子品質だと思う。
がっかりする脳筋女子に「実行前に相談してくれて良かったです。ね? メイもそう思うでしょ?」と、ひとまずフォローを入れた。
メイはそっと胸に手を置くと歌うように海魔族語を奏でる。
『いいですかシャチ子。先生のお役に立つために手段を選ばないのはよろしくありません』
シャチ子も返す。
『はいメイ様。私が間違っておりました』
『それにしても先生は出来たお方です。一日ごとに恋慕の気持ちが募ります』
『でしたらそろそろメイ様からアプローチなさってもよろしいのではありませんか?』
『それはなりません』
『早くしなければセツナ様が他の女性に誘惑されてしまうやもしれませぬ』
『ああ、先生は望む者全てに優しく降り注ぐ太陽の光のようなお方です。それを私の一存で止めるわけにはいきません』
『メイ様……なんとお労しい』
いつの間にか僕らの周囲に人だかりができていた。
海魔族語の会話が美しいからか、見物客からおひねりが飛んでくる。
まるで吟遊詩人にでもなったみたいだ。
二人の歌が終わると惜しみない拍手が贈られた。
すると、人混みの中から――
「おや、少年ではありませんか? このような場所で再会するとは奇遇ですね」
聞き覚えのある紳士的な声に視線を向けると、そこには港町で出会ったワイン商人の男の姿があった。
前に進み出てワイン商人は僕の手をとり両手で包む。
「これも運命! 少年も聖女様がお目当てでしょうか?」
「ええと……会ってみたい気持ちは山々なんですけど」
「すぐには難しいでしょう。なにせ私も神託を授かるために秘蔵のコレクションから最高品質のものを十本収めまして、それで三年後にお会いできることになったのですから」
この商人さんの財産になるほどのワインだ。
寄付額にしていくらになるのか見当も付かない。
後ろでシャチ子が「もはや押し入るか攫うか……」と物騒なことを呟いている。
それにしても――
「三年後……ですか?」
「ええ。特別に三年後だそうです。ワインをお気に召していただいたそうで、繰り上げてもらえました。他の方々には悪いと思いますが、私の寿命が尽きる前に『神の涙』に至る道を見つけたいのです」
「神の涙?」
「伝説の品種と呼ばれる葡萄の木の苗なのですよ。この世のどこかにあるというのですが……」
「聖女様の神託なら、苗木を見つけられるかも……ってことですよね?」
「ええ。伝説の木を育み果実を収穫。ワインにして熟成される頃には、私はもうこの世にはいないかもしれません。願わくば、神の涙を味わってみたかったものです」
ワイン商人は目を細める。
紳士の元にメイがぴょこんと跳ねるように進み出た。
「ねえねえおじさま! その権利をよこせ!!」
「おっと、そうは参りませんよお嬢さん」
「あうぅ……ダメだったかぁ」
「お嬢さんも聖女様の神託を受けたいのですか?」
「もちろんですとも!」
「何を知りたいのです?」
「神様がどこにいるかです!」
「なるほど。それはその……神託なら見つけられるかもしれません。が、ここで五年十年待つよりも、ご自身の足で世界を巡って見聞を広め、探し当てる方が早いかもしれませんね」
「なるほど! わかります!」
ワイン商人は少し驚いたみたいだけど、メイの突拍子のない要求にも怒ったりはしなかった。
シャチ子が進み出て紳士に詰め寄る。
「何かもっと手っ取り早く聖女に会う方法は無いのか?」
「ほうほう。そうですね。でしたらこちらなどどうでしょう。私では到底無理でしたのですが」
「あるなら先に言えば良いものを。なに、このシャチ子……もといオルカ・マ・イールカの力があれば、どのような困難だろうと切り開きメイ様の望みを叶えることができるのだからな!」
紳士はやれやれと、手荷物から張り紙を取り出してシャチ子に手渡した。
そのまま一礼する。
「では、私はこれで。次は王都で侯爵様にお目通りを……っと、またご縁があればお会いしましょう少年たち!」
三年ずっと待っていてもしょうがない。と、言わんばかりにワイン商人は神殿前広場から去る。
あの人は、ずっと自分の理想や夢を追いかけて歩き続ける人なんだろうな。
と、シャチ子が張り紙を手にしたまま硬直していた。
メイが触手ツインテールでぴらりと張り紙を奪って読む。
「えーと、メイドさんおつきあい大会……ですって! 先生? 読み方あってますか?」
「おつきあいじゃなくて、どつきあいだね」
「そうですかぁ。うっちゃりうっちゃり」
「そこはうっかりじゃないかな?」
「うす! 勉強になるます!」
いったいどこで覚えてくるんだろうか。
にしたって――
「メイドさんどつきあい大会って、意味がわからないね」
メイから張り紙を貸して貰って詳細を読んでみる。
「えーなになに。聖女プレゼンツ! 素手のみ。武器なし。信じられるは己の肉体オンリー。メイド服とメイド服がはじけ飛びちぎれあう。魅惑のバトルトーナメント。メイド全一決定戦。天下一の腕力メイドは君だ! いざ集え世界中の腕自慢メイドたち! 頂点に立ちメイド界の象徴=メイドルを目指せ! 主催:世界最高の麗しい聖女プリム様。優勝賞品:神託……って神託ッ!?」
どうやら近日中に、メイドさんが素手で競い合う舞踏会……もとい武闘会が開催されるみたいだ。
神殿都市に作られたコロシアムにお客さんを集めて盛大にやるっぽい。
神様を讃えるお祭り……なのかな?
メイの触手ツインテールがシャチ子の肩をポンと叩いた。
「今こそ役に立つのですシャチ子」
「わ、私は普段からお役に立っておりますとも! ですが……め、メイド服など持っておりません!」
クラゲ少女が僕にウインクする。
あっ……はい。
メイのお願いに僕は弱い。決してシャチ子のメイド服姿を見たいとかではないんだ。ないんだ。うん。
「早く洋品店に行きましょうシャチ子さん」
「ぐっ! ぐぬぬ! セツナ様まで乗り気とはッ!?」
「シャチ子さんの腕力なら優勝できますよ! 自分で言ってたじゃないですか? メイの未来を切り開くって」
メイもうんうん頷いた。
「渡りに豪華客船スターティアラ号!」
スターティアラ号は戦闘艦よ! と、イレーナ船長がいたらツッコミそうだ。
シャチ子は震え声になる。
「こ、この気高き海魔将軍の娘である私が、メイド服など……」
「メイと一緒の時は着てくれましたが!? なぜ拒否る?」
「そ、それはメイ様だけでしたから! 衆目を集める場所でそのような格好は、武門の家筋の人間としては屈辱に他なりません! セツナ様! どうか後生だ!」
手を組み祈る女剣士。だけど、僕らには他に頼れる人がいない。
「これもメイのためなんです。一番似合う可愛いメイド服を選びますから。もちろん、お金の心配はしないでください。メイド服のワンセットくらいなんのその。買いそろえられる蓄えはありますし」
シャチ子が「ひいっ!」と、情けない声を上げた。
メイがニッコリ笑う。
「メイはぁ、古式ゆかしいのよりもぉ、えっちなのがいいとおもいました!」
「あああああッ! 決定ですかメイ様!?」
「海魔王として命じまーす! ね? 先生も布地少なめ肌多め脂ましましぷにぷにですよね?」
謎の呪文を唱えるメイに「ええと、あまりかっちりした服だと動きづらいかもしれないね」と、僕なりの最適解で返答する。
こうして神殿都市にエッチな姿(?)の海魔族メイドさんが期間限定で爆誕することになった。
ジャンクな味のサンドイッチを考案したり、メイドの武闘会を企画した聖女――プリムって相当変な人なのかもしれない。
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