50.神殿都市の名物(?)聖女
【前回までのあらすじ】
砂漠の隊商に紛れて神殿都市に無事到着。
途中、暴れ馬とか奇妙なメイドが通過していったけど、気にしない気にしない。
宿で一旦落ち着くことにした。
併設された酒場で作戦会議だ。
シャチ子がテーブルに頬杖をついてぼやく。
「砂海宮には酒が無かったからな。うう、飲みたい……飲みたいが我慢だ」
メイがシャチ子の頭をなでなでする。
「ご立派ご立派。シャチ子は出来る女じゃけんのぉ」
「はい。メイ様。ワインリストは見て楽しむだけにします。うう! 新大陸産の出物が入っているではないか!? こんなもの目の毒だ!」
女剣士は未練たらたらでメニューを閉じる。ちょっとかわいそうだけど念押ししよう。
「シャチ子さん。飲むのは王都で安全確保できてからにしてくださいね」
「わかっているともセツナ様!」
そうこうしているうちに料理が運ばれてきた。
三人揃って、町の名物(?)聖女バーガーというサンドイッチを食べる。
付け合わせは揚げ焼きしたジャガイモだ。セットで柑橘の果汁入り炭酸水もついてきた。
サンドイッチといってもパンは丸形で、薄平べったいハンバーグにチーズと目玉焼きとベーコンが挟まっていた。
レタスやトマトを挟み忘れた……んじゃなくて、そもそもそういうコンセプトらしい。
全部、この町の有名人――聖女の好物だけでできていた。
結構なボリューム感だ。味も濃い。一口食べた途端にメイの金色の瞳がキラキラになる。
「聖女うま~! きっと聖女はいい人に違いなかろう! ね! 先生もそうは思われませんか?」
「僕にはちょっと濃すぎるかな」
「なにを! 若者がだらしないですぞ先生!」
僕よりずっと幼いメイに説教されてしまった。
シャチ子が涙ながらに肩を震えさせる。
「うおおおあああああ! 麦酒を……キンキンのヤツを……ぐぬぬぬぬ! セツナ様ぁ!」
「甘えた声を出してもダメなものはダメです。一杯だけが目一杯になったら元も子もないですからね」
「わかっている! わかっているぞ! しかし、この味の濃さ……生殺しだッ!! クッ……殺せ!」
柑橘炭酸水をグビグビ飲んでシャチ子は身もだえた。
これがお酒だと、大人にはもっと美味しいのかもしれない。
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食事もほどほどに現状を確認する。
まずは王都への移動手段だ。
これについてはさっき、情報を得たばかりだった。
「宿の店主さんの話だと、神殿都市から王都へ向かうルートは二つ。一つは整備された街道を一旦戻って、列車が乗り入れている近隣の町から大霊峰を迂回する行き方だね」
テーブルに地図を広げる。
神殿都市の背後には霊峰がそびえていた。王都は山の向こう側だ。
メイが触手ツインテールと両手を上げた。
「先生! ガタンゴトンですか!?」
「プラチナフリーパスの出番……って言いたいけど」
「まずいですよ!」
蟹の海魔族に襲撃されてから、公共の交通機関。しかも線路上を定期的に運行する魔導列車はどうしたって利用しづらい。
砂漠ですら包囲網を敷かれて待ち伏せされたんだ。列車も線路も何が押さえられていると考えよう。
シャチ子が腕組み頷く。
「ふむ。そもそも街道が賑わっている。どこであれ襲撃されるのはまずいな」
僕らが神殿都市に入る時も、巡礼の人たちがたくさんいた。
この町は聖地という名の観光地だ。
歴代の聖女が祀られた廟とか、今の聖女が住んでいる神殿なんかもある。
メイが首を傾げた。
「わざわざ足を運ぶなんて、おもろいものでもあるんかぁ?」
「みんなのお目当ては聖女様なんじゃないかな」
「あっ……バーガー! これを食べに!? 納得ですが!」
どうやらクラゲ少女は聖女を「美味しいモノを考案した人」みたいに考えてるっぽいな。
僕も聖女については良く知らない。
孤児院で暮らしてたころに少しだけ、シスターから聞いたくらいだ。
確か――
「いいかいメイ。聖女様は王に神託を伝える相談役のようなもので、時には市井の人々にも神の言葉を与えて導く存在……とかなんとか」
僕の受け売りにメイは瞳をまん丸にした。
「じゃあじゃあ聖女様に神様の住所を教えてもらえれば一発で特定できて凸ですね! わかります!」
って――
言われてみれば確かにそうだ。
シャチ子が揚げ焼き芋を食べてついた指の塩をチュパチュパしながら言う。
「王都を目指すより手っ取り早いではないか。その聖女とやらに神の居場所を問い詰めてやろう。ふぬぅ……海の塩が恋しい……のりしおぉ」
「シャチ子! 指ぺろぺろはお行儀が……ペロッ! これはッ!? 岩塩ッ!!」
海魔族二人は手に残った塩を堪能し始めた。
結構夢中になってる。
落ち着くまでそっとしておこう。
ともあれ――
海魔族の襲撃は心配だけど、聖女が「神の居場所」について知らないか、この神殿都市で知ることができれば一気にゴールまで行けるかもしれない。
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