5.二人で一つを分かち合って
【前回までのあらすじ】
人間語が苦手(?)なメイを放っておけずセツナは彼女の「先生」になることに。
ひとまず近くの港町に向かうのだが、奴隷と海魔族に世間の目は――
浜辺を歩くと大きな港町にたどり着いた。
大型船が入港できる規模で、貨物と人を運ぶ魔導列車が乗り入れている。
荷下ろし場に倉庫街。色とりどりの天幕がカラフルな市場もあった。
奴隷服の僕と白い薄布だけの海魔族の女の子が二人、行き交う町の住人たちはヒソヒソ話をして目を背ける。
気にしたってしょうが無い。
僕たちは市場の青果店までやってきた。
みずみずしい果物がずらりと並ぶ。
太った店主が腕組みしてこっちを睨んだ。
「あんちゃん金、持ってんのか?」
「無いです。だから働かせてください」
「海魔族を連れた奴隷なんかにゃ働き口なんてねぇよ」
「この子がお腹を空かせているんです。お願いします」
「こいつをやるから失せろ。二度と市場に顔出すんじゃねぇぞ」
店主はバナナの房から一本だけもぎ取って、僕に投げてよこした。
追い払われる。
メイは不満そうだ。
「二人なのに一つですか? バカな!? あり得ぬ!」
「仕方ないよ。施してくれただけでもありがたいと思わなきゃ」
胸元の裂けた奴隷服姿じゃ、誰も僕の話なんてまともに訊いちゃくれないんだろうな。
倉庫街に引き返す。
「はい、お食べ」
「先生は?」
「僕はいいんだ。お腹、空いてないから」
空腹もいきすぎると忘れてしまうものだ。
メイはバナナを手にすると、皮ごとくわえた。
「おいひくなひれすが?」
「わああ!? バナナを知らないの?」
バナナを口から離して少女は頷く。
「知らない子ですねぇ」
「ええとね、こうやって皮を剥いて中の白いところを食べるんだよ」
剥いてあげると少女は口を開けた。ひな鳥のように待つ。
「あーんして! あーんして!」
もしかしたら僕が想像しているよりもずっと、メイは幼いのかもしれない。
「はい。あーん」
少女はバナナを一口食べた。途端に目尻がトロンと落ちる。
「ああ……甘美な……先生……世界はこんなにも美しい」
真理を得た芸術家みたいなことを言い出した。バナナの美味しさ恐るべし。
「ほら、もっとお食べ」
メイは三分の二まで食べてハッとなる。
「ああ、もうなくなってしまいます。先生……」
「ごめんね。これしかないんだ」
「先生が謝ることなんてこれっぽっちもありませんが! ああ……世界が憎い! バナナが一本しか食べられないこの世界がッ!!」
さっき美しいって言ったばかりなのに豹変しすぎだよ。
「お金がないからね」
「メイばかり食べてしまいました。かたじけない……」
ツインテールがだらんとなって、少女は申し訳なさそうだ。
残ったバナナの端っこをそっとこちらに戻す。
全部食べちゃっても良かったんだけどな。
ほとんど皮だけのバナナを手に思う。
元に「戻って」また食べられるようになればいいのに。
――そう、念じた時だった。
僕の手の中でみるみるうちにバナナが復元していった。
剥いた状態から元通りになる。
「わああ! またバナナを食べられるのですか!?」
「いや、これはちょっと……どういうことだろう?」
まるで時間を巻き戻したみたいに。
時間を……?
そういえば、僕はどうして助かったんだ?
乗ってた小舟は沈没したはずなのに。
もしかして――
壊れた小舟の時間を……戻したのか?
僕が――
僕の「時間」スキルが!?
「ええと、メイに変な質問をするけど、素直に答えてね」
「無論ですとも」
「今、バナナを食べたけど、ちゃんと食べたって実感はある?」
「目を閉じれば甘美な味と食感が美しい思い出となって、美味しみを再び感じられるのです」
ちゃんと食べたことになってる? のかな。
メイは元通りになったバナナに、よだれをたらして熱い視線を送る。
「半分どうぞ」
「いただきますとも!」
自分で皮を剥いてメイはバナナを半分食べる。
僕も一口食べてみる。
それから――
念じた。「戻れ」と。
三度バナナは元に戻る。口の中で味わったバナナの余韻は残ったままだ。
メイが触手ツインテールを万歳させた。
「無限バナナですか!」
「どうだろうね」
栄養になってるかはわからないけど、このバナナなら検証できるかもしれない。
僕の固有スキル「時間」の性能を。
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