49.キャラバンは進むよ
【前回までのあらすじ】
海魔神官エビルの放った刺客。まさかの襲撃に遭うも、セツナはシャチ子とメイと協力して難敵を退ける。
もはや砂漠も安全ではない。
神の居場所のヒントを求めて一行は旅を続けるのだが――
西方部族の町に砂上船を預けると、ご厚意で隊商に紛れ込ませてもらった。
他の誰かを巻き込むのは……って思ったけど「砂の海を救った英雄のためならば!」って、半ばこっちが押し切られた格好だ。
民族衣装に着替えてラクダの背に乗り荒野を行く。ラクダは砂上船でも使われている浮上魔導具を利用した、浮き荷車を引いていた。
大きな鞍にまたがる僕の前に、ちょこんと座ってメイが言う。
「ラクダはらくだ~!」
「それ、みんな思ったけど言わないやつだよメイ」
「あへぇ? なんでぇ?」
「なんでだろうね」
「こんなにもおもしろいのにね~!」
「ね~」
不思議がるメイに思わず表情がほころんでしまう。
隣のラクダの鞍の上でシャチ子が文字通り抱腹絶倒していた。
「ひっ! ひひっ! あはははは! メイ様! 面白すぎて死にます!」
愛想笑いじゃなく本気だった。たぶん、僕が同じ事を言ったら一笑に付されるんだと思う。
こまめに水分補給をしながらしばらく――
次第に風景がゴツゴツとした岩の平野に変わっていった。
灰色の巨石柱が至るところに林立している。
自然と隆起したというよりも、人為的に立てられたって感じだ。
気候もだんだんと落ち着いてきた。
遠くの山々のてっぺんが白く雪化粧を被っている。
シャチ子が「砂漠を抜けたばかりだというのに、雪を見るとは不思議なものだな」と感慨深げだ。
綺麗に舗装された街道に入り、人や荷馬車の往来も出始める。
結構な交通量だ。
見ればローブ姿の人たちが目立つ。
この先にある神殿都市の巡礼者だと、隊商のリーダーがそっと教えてくれた。
人々の往来を切り裂くように、蹄鉄が地を踏む音と荒馬のいななきが響いた。
馬上から女の声が響く。
「オラオラ! どけどけ! おれの前を走るんじゃねぇ!」
背中まである外ハネ気味なくせっ毛を風にたなびかせたメイドだ。
クラゲ少女が目を丸くする。
「暴走メイドですが!? これはメイも負けられません! 先生! ハイヨーです!」
「僕らは隊商だからゆっくりでいいんだよ」
「はえぇ……これはメイが早とちりでした」
清楚におしとやかに主人に仕えるイメージがあるメイドが、人々を「おせえぞ道を譲れゴラアアアア!」と恫喝しながら爆走する。
よほど急いでいるのか、単に速く走るのが好きなのか。
メイドを乗せた荒馬はあっという間に見えなくなった。
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僕らは無事、神殿都市にたどり着いた。
港町や鉱山都市も大きかったけど、この町は三倍以上の規模がありそうだ。
高い城壁に囲まれていて、まるで城塞みたいだ。
検問で僕らは呼び止められた。
なんでも最近、海魔族が各地で暴れているとかでメイとシャチ子が怪しまれた。
砂漠の民の隊商に似つかわしくない二人なので、余計に警戒心を刺激したのかもしれない。
衛兵に僕は言う。
「こんなにかわいい女の子が悪いことをするわけないじゃないですか?」
メイも触手ツインテールを万歳させて「そーだそーだメイは可愛いんだが?」とアピールした。
衛兵が疑いの眼差しをシャチ子に向ける。
「何を見ている。貴様……表に出ろ!」
「シャチ子さん。ここは野外だからすでに出ちゃってるよ」
「ぐぬぬ。それはそうだが」
困り顔で男は言う。
「コホン。少年。そちらの女性はその……胸元があまりに開きすぎている……のはいいとして、腰に刀を帯びているではないか?」
「それなら僕だって武器は持ってますよ?」
「海魔族というのが……な」
シャチ子が「なにを! 差別するというのかッ!!」と、今にも名刀月光を抜きそうな勢いだ。
「武器なんて神殿都市の中で買えますよね?」
「海魔族による武器の持ち込みを禁じているからな。もちろん、君が一時的に預かるというようなやり方もダメだぞ」
あくまで形式上の話だけど、見逃すわけにはいかないという。
シャチ子が吠えた。
「これだからお役所仕事というのは!」
メイまで一緒に「そーだそーだ! お役所だー!」と非難の声だ。たぶん、よくわかってないんだと思う。
鼻息も荒くフーフー言ってるシャチ子は今にも衛兵につかみかからんばかりだ。
「じゃあ武器を持って入らなければいいんですね?」
女剣士をいさめつつ、衛兵の見えないところで彼女から刀を取り上げた。
「私の月光に何をするセツナ様!」
「ちょっと戻すね」
右手で触れて月光を素材に戻し、隊商の荷車に置く。
「あああああああ! 返して! 返して私の月光!」
「取り乱さないで。大丈夫だから」
シャチ子にはちょっと気の毒だけど、トラブルは起こしたくない。
僕は再度、衛兵と交渉した。
「もう武器は持ってませんよ。荷車を調べてもらってもけっこうです」
「わかった。調べさせてもらう」
シャチ子の刀は出てこなかった。
衛兵は「ふむ。どこにやったかはわからないが……海魔族による武器の持ち込み禁止事項に抵触無し。通っていいぞ」と、ようやくお許しが出た。
中に入って町の大通りを少し進んだところでシャチ子に泣きつかれる。
「セツナ様! とっとと早く月光を戻してくれぬか!? 腰の辺りが寂しくてたまらぬのだ!」
「そろそろ大丈夫かな?」
持ち込みは禁じられていても、中に入ってから再生成するのは問題ない……と、思う。
荷台の素材を元の月光に戻すと、シャチ子は鞘を胸に挟むようにぎゅっとして柄に頬ずりした。
「おかえり月光! 私の魂よ!」
メイが無邪気に「シャチ子が嬉しそうでメイも嬉しいです」と笑う。
「はい! メイ様! あとセツナ様。今後はいきなり戻すのはやめるように。事前に打ち合わせをしてから頼むぞ」
「わかりました」
返事をしつつも状況によっては柔軟に対応が必要だ。努力目標ってことにしておこう。
僕らはひとまず、町のはずれに宿をとった。着替えを済ませて元の格好に戻る。
砂漠の隊商とはここまでだ。彼らは市場に商品を卸すと、神殿都市の市場で砂漠では手に入らない交易品を買い込んで戻るという。
お互いの旅の無事を祈りあって別れた。
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